『地球大学』 -地球の水はどうなるのか?
東京は大手町、都心のビル街のどまん中に、環境を意識してつくられたカフェがある。
そこで毎週水曜日の夜、刺激的なセミナーが開かれている。
カフェで学ぶ地球環境セミナー 『地球大学』。
文化人類学者の竹村真一さん(京都造形芸術大学教授)がホストとなって、
毎回多彩なゲストをお呼びしては、様々な角度から環境問題を切り取っている。
開講したのは去年の春。
大地から薦(こも)かぶり(酒樽)を持参して、種蒔人で鏡開きをした。
それに先立つ一昨年暮れのプレ・イベントでは、
日本の気候風土における田んぼの役割について話をさせていただいている。
昨年10月には 「食」 について考えるシリーズが組まれ、
私も話す機会をいただき、
またその期間、フードマイレージをテーマに大地の食材でのお弁当を販売した。
その後もちょくちょく聴講させていただいてたのだが、
最近はなかなか出られないでいた。
さて、昨日(10/3)、外出したついでに、久しぶりに顔を出してみた。
テーマは、『地球の水はどうなるのか?-「水の世紀」にむけて』
講師は、東京大学・生産技術研究所教授の沖大幹さん。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)報告書の水問題に関する執筆者、
水循環の権威である。
いま世界人口の5分の1が、安全な水にアクセスできないでいる。
年間300~400万人が、水に関連した病気で死んでいる。そのほとんどが乳幼児である。
世界中での過度な取水は、生態系へのダメージを増大させている。
温暖化や都市化の進行は、各地に渇水と洪水被害の深刻化をもたらしている。
水というのは循環資源であって、失われることはない。
ふんだんにあるのだ。しかし水不足は生じる。
ある時とない時があるから。
また、‘ふんだんにある’といっても、
実際にヒトが使える水は地球上の水の0.01~0.02%でしかない。
‘水資源を使う’ とは、‘流れを使うこと’ だと沖さんは説明する。
ストックではなくフローである。
雨が落ち、川を辿って海に流れ、あるいは湖沼にとどまり、地下にしみこみ、
気温変化とともに蒸発し、植物の蒸発散も含めて大気を上昇し、雲になり、
また雨となって落ちてくる。あるいは氷となってしばし落ち着く。
そんな‘流れ’として存在する水という資源。
人間の体内も循環している。生命活動に欠かせない‘水’というやつ。
つまり、水の循環(流れ)を絶やすことなく、また汚さないようにしながら、
どう使い、暮らすか、ということなのだが、
人口増加と工業の飽くなき発展は、水需要を大きく変化させ、
いまや大河も干上がる様相である。
また膨れ上がるいびつな食料需要は、世界の肺・アマゾンさえ切り崩している。
温暖化によって想定されるシナリオのひとつは、
同じ地域で渇水と洪水の頻度がともに上昇する、というものだ。
いずれにしても水はヒトの手の中にはなく、今世紀、水ストレスは間違いなく増大する。
さて、沖さんは「バーチャルウォーター」の権威でもある。
よく使われるものでは、牛丼一杯あたりの水消費量は約2000ℓ、というやつだ。
牛を育てるのに消費される水、餌を作るのに必要な水、などを計算すると、
牛丼一杯つくるのに、1ℓペットボトル2000本分の水が使われている。
日本の食糧の総輸入量は水に換算して年間640億㎥だと。
国内での農業用水の使用量は570億㎥。
これを僕らは、「水を奪っている」と表現したりするが、
沖さんはこう考える。
水をある所からない所まで長距離輸送させるのは、経済的にもエネルギー的にも合わない。
だから、水を使って作られたものを送るのを、悪と決め付けてはいけない。
必要とされる水が、モノに代わって運ばれてきているということを理解する
その指標として提示されたのが、「バーチャルウォーター」である。
アメリカ産牛肉を使った牛丼の向こうに、膨大な水消費があって、
しかも数値で示されることによって、ある種のリアリティをもって現実を感じることができる。
この手法は説得力がある。
そこから簡単に善悪を決め付けるのも、たしかに戒めなければならないことだ。
しかし、沖さんなら当然ご存知のはずだが、
日本では、米の国内生産量以上の食糧が、ゴミとなって捨てられているのだ。
やっぱり、どうしても僕には、「奪っている」指標になってしまう。
沖さんは、食べものに水資源消費量を表示したらどうか、と提案する。
牛丼:1890L ハンバーガー:2020L
立ち食いそば:750L 讃岐うどん:120L
面白い。フードマイレージと組み合わせてはどうだろうか。
最後に、沖さんはひとつの期待を語った。
グローバリズムが進むことによって、技術移転が進み、人口調節も進めば、
水ストレスは緩むだろう・・・
しかし、これはあまりにも楽観、というか現実認識が僕とは異なる。
グローバリズムが国家間の均衡をもたらす-とは、私には思えない。
もっと話を聞いてみたかったが、まあ、また機会もあるか。
いずれにしても、それぞれの分野で最前線にいる方々の話が
ドリンク付1000円で、身近に聞ける。
こういう場は他にそうないと思う。
『地球大学』はすでに68回を数え、
来週からは、開催曜日が木曜に変わり、シリーズ「森林」が始まる。