「日照りに不作なし」 というけれど
夏の太平洋高気圧から、秋雨前線の到来へ。
季節は一気に秋に向かい始めましたね。
とはいえ、まだ残暑のぶり返しもあるようですので、
皆様、体調にはくれぐれもお気をつけください。
≪……と8月30日に書き出しながら、予定外の業務が入り、
また31日には午後から福島に向かったもので、書き上げられず、
9月に入ってしまいました。でもせっかくなので、続けます。≫
今年の8月は、観測史上「最も暑い夏」となったようです。
全国101の地点で最高気温が更新され、
東京での8月平均気温は29.0度。平年より2度近く高い、2番目の記録とのこと。
記録的な酷暑は、同時に「少雨の夏」でもありました。
都心の降水量は平年の5%(8.5mm)、千葉・館山ではわずか1mm(平年の0.8%)
といった数字が報道されています。
さて、お米の世界ではよく 「日照りに不作なし」 とか言われます。
干ばつ気味くらいの方が米はよくとれる、という意味です。
たしかに、7月の台風や日照不足にやられた九州をのぞき、
各地の米どころからは、「8月の暑さで持ち直した」 といった声が聞かれました。
まさに 「日照りに不作なし」 の年のようです。
でもこの言葉は昔からあったものではありません。
「日照りに不作なし」と言われるようになったのは、
実は明治時代中期以降のようです。
明治政府が莫大な資金を投入して強力に生産基盤を整えた結果、
水利がよくなったから。
言い換えれば、日照りでも水を確保できる田んぼでの話、ということになります。
熱帯地方が原産の湿性作物である稲には、太陽の光と水が必要です。
(あらゆる生物に言えることではありますが-)
稲こそ高温多湿のアジア・モンスーン地帯が生んだ最高傑作だと思ってますが、
今の日本型の稲は、緯度の高さに適合させてきたものになっています。
稲の収穫量は、穂が出て花が咲いてから約40日間(登熟期)の日射量に比例します。
日射量が多いほど多収になるわけですが、
日本型での登熟期の平均気温は22~24度あたりが理想と言われています。
そこで開花日の最高気温が33~34度を超すと実のつき(稔実)具合が悪くなり、
35度以上になると急激に低下します。
冷害で起きる低温不稔と同じように、異常な高温でも不稔は発生するんですね。
また登熟期で高温が続くと、呼吸が活発になりすぎて、
モミ内のデン粉のつまりが悪くなり、減収や品質の低下につながります。
今年はこの登熟期、特にお盆以降にまで異常な暑さがかぶったわけです。
日射量(つまり日照り・乾期)は欲しいが、あまり高温でない方がいい。
特に昼夜の気温差がある方がいい。
平野部ではなかなかそう都合よくはいきませんが、
そこには長年の経験で作り上げてきた技術があります。
高温障害への対策に、水が使われるのです。
水田の水もただ貯めてあるだけでは、暑い日にはお風呂のようになってしまうので
(そうなると今度は 「高水温障害」 が出る)、
冷たい水を ‘流す’ 、つまり水を引いては出す 「連続潅漑」 という方法をとります。
この夏、各地で出された高温障害への注意報でもこの言葉を何度か耳にしました。
水が豊富にある。しかもただ降って流れるのでなく、
しっかりと確保する装置と高い生産技術が、
私たちの食糧 (と環境も) を支えてくれています。
以前(7月10付「日本列島の血脈」)にも書きましたが、
数千年の時間をかけて築いてきた水路網の恩恵にも思いをはせつつ-
よい実りの秋であってほしいですね。
<追伸>
ちなみに7月10日の日記では、肝心の水路の総距離数を書いてませんでした。
約40万kmです。これは地球10週分に相当します。
それだけの水路網がこの列島に張り巡らされ、食糧生産を支えている、
ということになります。
会員の方には、今週配布の「だいちMAGAZINE」9月号もご参照頂けると嬉しいです。