磯辺行久と男鹿和雄と-『明日の神話』(続)
岡本太郎作 『明日の神話』
高さ5.5m、全長30mの巨大壁画。
この絵のコーナーだけは写真撮影が許可されている。
この壁画は1969年、メキシコで制作された。
翌年開催される大阪万博のモニュメント 『太陽の搭』 制作と同時並行して作られたという
天才・タロー力技の作品である。
メキシコ・オリンピック景気をあて込んで建設されていたホテルの
ロビーに飾られる予定だったが、ホテルは建つことはなく、
絵は各地を転々とするうちに、ついに行方不明となってしまった “幻の大作” 。
発見されたのは、34年を経た2003年9月。
メキシコシティ郊外の資材置き場で、崩壊寸前の姿で眠っていた。
再会を実現させたのは、行方を捜し続けた太郎のパートナー岡本敏子さんの執念である。
敏子さんは、その後1年がかりの交渉で壁画を入手し、直後、急逝する。
再生を託されたプロジェクト・チームによる修復作業が始まる。
そして昨年6月、 『明日の神話』 は見事に蘇った。
原爆が炸裂した瞬間。
きのこ雲の増殖。 燃え上がる骸骨。 逃げまどう無辜の生きものたち・・・・・
壁画の再生を信じて逝った敏子さんは、語っている。
これはいわゆる原爆図のように、ただ惨めな、酷い、被害者の絵ではない。
燃え上がる骸骨の、何という美しさ、高貴さ。
巨大画面を圧してひろがる炎の舞の、優美とさえ言いたくなる鮮烈な赤。
外に向かって激しく放射する構図。強烈な原色。
画面全体が哄笑している。悲劇に負けていない。
あの凶々しい破壊の力が炸裂した瞬間に、
それと拮抗する激しさ、力強さで人間の誇り、純粋な憤りが燃え上がる。
その瞬間は、死と、破壊と、不毛だけをまき散らしたのではない。
残酷な悲劇を内包しながら、その瞬間、誇らかに 『明日の神話』 が生まれるのだ。
岡本太郎はそう信じた。
21世紀は行方の見えない不安定な時代だ。
テロ、報復、果てしない殺戮、核拡散、ウィルスは不気味にひろがり、
地球は回復不能な破滅の道につき進んでいるように見える。
こういう時代に、この絵が発するメッセージは強く、鋭い。
負けないぞ。絵全体が高らかに哄笑し、誇り高く炸裂している。
<昨年の初公開でのパンフレットから>
完成して37年、太郎没後10年を経て、蘇った壁画は、
この 「時代」 への、太郎と敏子の “執念のメッセージ” そのもののようだ。
負けないぞ!
僕にとっては一年ぶりの再会。もういちど炎をもらう。
男鹿和雄展は観れなかったけれど、満足とする。
それにしても、ひしめき合う行列に、男鹿和雄 (とジブリ) の力を思う。
トトロの森に誘われて集まる人、人、人。
この半世紀の間に、私たちが捨て去ってきた世界が、実に大切なものであったことを、
我々に思い知らせている。
「男鹿和雄展」入場者は、この日で20万人を突破したそうだ。
時間を超え、空間を超えて迫る、3人の巨匠が、ゲージュツの力を教えてくれた一日。
さて、深川めしでも食べて帰るとしようか。
深川江戸資料館のある資料館通りでは、「かかしコンクール」 開催中。
いまふうのかかし。
カゴの中のお札は、盗まれそうで心配です。
これじゃ、かえって鳥の巣になるんじゃない?
通りもけっこう楽しめる。
しかし・・・・・もう午後3時近いのに、
資料館通りにある深川めし屋さんもまた、行列だらけ。
あきらめて帰る。
やけにクソ暑い、9月中旬の日曜日でした。