飯能焼
自宅から車で10分少々のところに陶芸の窯がある。
「飯能窯」 と称し、地元飯能の山の土で焼く。
江戸時代、天保年間から明治時代にかけて焼かれたようだが、廃れてしまった。
それを1975(昭和50)年、
虎澤英雄さんという陶芸家が土岐のほうからこの地に入り、
100年ぶりに飯能焼を復活させた。
実はその程度の知識しか持ってないのだが、
たまに何かの折に覗きに来る。
飯能焼体験教室なども開いている。
この日も軽い、失礼、明るい若者たちが来ていて、楽しそうにやっていた。
展示室がある。
鉄分の多い飯能の土100%で焼く。
それに白絵土による “イッチン”描きの絵付け、これが特徴である。
和紙などで筒をつくって釉薬や泥将を入れ、
指で押し出しながら陶磁器の肌に盛り上げの文様を描くやり方。
へえ。エビにそんな素養があったの?
いえ。説明にそう書いてあります。
加えて 「翠青磁」 と名づけられた独自の青磁釉の技術を持つ。
国際陶芸展はじめ、数々の賞を受けた深い色合い。
青でもなく、碧ともちがう、これが翠と表現される色なのか
-といつも見入ってしまうのである。
今回覗きにやって来たのは、
20年以上も大地で勤めてくれた女性が退職されることとなり、
どうしても送別会に出られない事情もあって、
何か用意したくなったから。
色々と眺め、二つの展示室を行ったり来たりして、迷うこと小一時間。
ずっと目から離れない一品-「やっぱりこれ」。
思い切って、翠青磁のぐい呑みをひとつ、求める。
その方は、杉並区永福町のセンターから始まって、
調布センター、そして幕張まで付き合ってきてくれた。
大地にとって、この年月は大きい。
酸いも甘いも……と言ってもいいだけの時間を共有した、
まあ僕にしてみれば、“同志” のようなものだ。
勤務が幕張に移ってから、体調もあまりすぐれず、退社となった。
ちょっと抜け駆けの感もあるが、20数年来の仲間ということで、
許していただきたいと思う。
陶芸家・虎澤英雄さん自ら箱の蓋に一筆したためてくれて、
嬉しい気分で窯をあとにする。
窯の裏手にある東屋と雑木林が、なんともいい佇まいである。
この盃に我が銘酒 「種蒔人」 をつけて贈ることにする。
じゃあHさん、これからの人生も楽しくありますように -乾杯!