2010年7月31日

鹿の増殖で山の自然はどうなっているのでしょう~丹沢山系の様子~

とらちゃんこと虎谷健です。

 

昨年から始まった「たべまも」キャンペーン。

キャンペーンで取り上げた食材は米、在来種野菜、そして鹿肉です。これらの食材を食べ支える事で周囲の環境を守り、「生物多様性」を守りましょう! というキャンペーンです。

 大自然の一員である鹿を食べることによって山の環境と生物多様性を守ろう、というわけですがでも、どうして鹿を食べて頭数を減らす事が自然環境を守る事につながるのでしょうか?

日本各地で甚大な被害が出ているといわれている鹿の大増殖。

もともと繁殖力が強い動物のうえ、

・ニホンオオカミの絶滅、ハンターの高齢化、減少で天敵が減った。

・地球温暖化により降雪が減少して冬に死ぬ鹿が減った。

・植林のため森林伐採を行ない、鹿の餌場、草地が増えた。

・ゴルフ場造成などで生息域を追われた鹿が分散した。

・限界集落、耕作放棄地の増加で里に近寄りやすくなり作物の味を覚えた鹿が居付くようになった。

...など様々な理由により大増殖が始まったと言われています。

 

鹿が増えすぎて次のような課題が浮かび上がっているようです。

・牧草地や畑、植樹への食害。

・山の下草を食べ尽くしてしまうことによる植生の貧弱化と山の保水力の低下と土砂流出、水源地へ   の影響。

・高山への生息域拡大による希少な高山植物への食害、天然記念物のライチョウの営巣地の破壊、同じく天然記念物のニホンカモシカの生息域への侵入によるカモシカの生息域の減少。

などが指摘されています。

 

では、実際山の状況はどうなっているのでしょうか?

関東平野に住む私たちにとってハイキングなどで身近な山、丹沢に登って実際の鹿被害の様子を

見てきました。

 

歩いたルートはヤビツ峠から入って塔の岳を経て丹沢山に登る一般的なルートです。

ヤビツ峠から入って1時間ほど登ると二の塔と呼ばれる休憩所が現れます。ここでは丹沢自然保護協会

主催する植生回復のための広葉樹の植樹が毎年行われています。

昨年私もこの植樹に参加してきました。昨年植えた木がどうなっているのか植えた場所を目指して

登り始めました。

 

 

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少し山に入ると食害にあった笹が目立ち始めます。

7月下旬の今、もっと青々と葉をつけてないといけないはずですが葉を食べられてしまっています。

 

 

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ちなみにこちらは比較的食害の少ないように思われる笹です。

同じ季節なのに下草も含めて葉のボリュームが違います。

 

 

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下草が生えている場所ではホタルブクロの花が咲いていました。

 

 

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こちらの笹はほとんど葉が残っていません。これでは笹は枯れてしまいます。

対照的に繁茂しているのはマツカゼソウ。独特の臭気がある植物のため鹿が食べないようです。

鹿の食害(食圧)が進むと、鹿が食べない種類の植物ばかりが増えることになり、植生が貧相に

なってしまうんですね。

 

 

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広葉樹が主に茂る林の地表ですが、笹をはじめ下草が育っていません。まるで間伐が行き届いていない針葉樹を植樹した林のようです。

このような土壌では保水力が低下するので大雨が降った時など土壌流出の原因になります。

また、クマザサなどの笹藪には、雨の時など鹿が雨宿りに集まってくるそうです。

笹藪自体消滅してしまう事は鹿にとっても良いことではないはずです。

 

 

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ちなみに植樹された針葉樹の林の下草もこのような状態です。

太陽の光が差し込まず、下草が生えにくくなります。保水性が落ちるため大雨が降ると一気に

土砂が流れるおそれがあります。

 

 

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広葉樹を植林した場所に到着。鹿に食べられないようにプラスチックのネットでガードされています。

ここでもマツカゼソウだけが繁茂していました。 

 

 

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斜面に立ち並ぶ鹿食害防止のネットの様子です。下草が食べられ土がむき出しになっている場所もあります。

 

 

 

ネットに守られて花が咲いていました。

本来ならこのような花があちらこちらで見られるはずなのですが...。

 

 

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針葉樹の植林地全体を囲む植生保護柵も山のあちらこちらにありました。

これらは鹿の食害を防ぐだけでなく、他の動物たちの往来も妨げてしまいます。目の細かなネットを

張っているのはノウサギの侵入も防ぐためです。

 

鹿の侵入だけを防ぐ植生保護柵は目の大きなネットのみ張られていますが、それでもツキノワグマなど大型動物の往来は妨げられてしまいます。

 ちなみに、ツキノワグマは丹沢山系にわずか20頭ほどしかいないと言われています。

しかも、富士山系・奥多摩山系とは道路で分断されてしまっているため、クマ同士の往来がしにくい状態です。近親交配による生殖力の弱体化が心配されています。

 そこで、富士山系・奥多摩山系とコリドー(緑の回廊)で結んでクマの往来を活発にする事が検討されています。

でもそれ以前に、山の中の自由な往来が柵で妨げられてしまっているようです。

 

 

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ネットも倒木や大雪で壊されてしまいます。壊された後には鹿が侵入した足跡がついていました。

 

 

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こちらはだいぶ大きく育った木です。「これだけ育ったらひと安心!」とはいきません。

樹皮を食べられてしまうとせっかく育った木も枯れてしまいます。

 

 

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午後になって霧が出てきてしまいました。ぼんやりと鹿柵が立ち並んでいる様子が分かります。

登山道からは見えにくいのですが、このような柵が延々と続いていて万里の長城の様です。

う~ん、健全な森の状態とは言えません・・・。

 

 

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ちなみにこちらは鹿ではなく、登山者の踏み跡の植生回復中の様子です。

ネットを張って土壌流出を防ぎ下草を生やしています。

皆さんも山を歩く時は登山道を踏み外さずに歩きましょう!

 

今回の山歩きでは鹿には出会いませんでしたが鹿の痕跡を至るところで見ることができました。

ちなみに今、丹沢では登山者がヤマビルに吸血される事が多くなっていますが、ヤマビルも鹿に付いて生息域を広げているとのことです。(虎谷も2回ほどかまれてしまいました!)

 

鹿の大増殖の問題は地球温暖化や限界集落、林業、リゾート開発など今の日本が抱えている課題の表われようです。

鹿を食べて数を減らすことで全ての課題が解決できるとは考えられませんが、鹿の食害を少しでも減らすために今私たちにできる事は、鹿肉を食材としておいしく食べることだと思います。

食材という「価値」をつけてあげることによって、害獣として駆除され処分されている鹿たちが

「地域の大切な資源」として見直されることが期待できます。

資源が活用されることで雇用が生まれ、お金が循環することによってその地域が元気になり、

自然環境と人間が共存できるようになるといいのですが。

 

 

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丹沢産の鹿のグリルです。(調理:レストラン THE WAKO)

エゾシカに比べて脂肪が少なくあっさりした味でした。塩と胡椒のみで頂きましたが美味しかった!

「たべまも」キャンペーンに関わり鹿肉に親しむ機会も増えたため今ではすっかり鹿肉の味が我が家の味に定着してきました。鹿の猟解禁は秋。待ち遠しい秋の味覚になりました。 

まだ鹿を召し上がったことのない皆さんもこの秋はぜひ鹿肉デビューをしてみてください。

もちろん、大地を守る会でも鹿肉とその加工品を紹介していきますので注文してください!

 

大地を守る会 交流局 虎谷健

大地を守る会の震災復興支援

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