2011年1月20日

狩猟をテーマにしたシンポジウムに参加してきました!

とらちゃんこと虎谷健です。

「エコツーリズム」というと皆さん、どんな言葉を連想するでしょうか?

熱帯雨林にでかけての生き物観察や船に乗ってのホエールウォッチング?

ガイドさんと山を歩くトレッキング?

大地を守る会が岩手県久慈市で行っている「久慈市山形べこツアー」などでしょうか?

 

これまではエコツーリズムに関するシンポジウムというと、環境教育やアウトドアライフ、

安全登山などをどのように普及させてゆくかなどを話し合われることが多かったのですが、

今回、「狩猟」をテーマにしたシンポジウムが開催されました。

「たべまも」キャンペーンでエゾシカを食べて生態系を守ろう!と皆さんに呼びかけている大地を

守る会としてはほっとけません!さっそく参加して参りました。

 

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農家さん、環境教育を実践するNPO、環境省、研究者の方が、それぞれの立場から基調報告

をして下さいました。

奥多摩の山々をフィールドに長年シカ・カモシカの研究をされてきた研究者の方は、捕獲頭数を

増やしてもなかなか適正頭数に減らないシカの習性について、実体験を交えて臨場感たっぷりに

報告してくれました。さらに大都会・東京のすぐそばでクマ・シカ・イノシシ・カモシカ・サルという

日本に生息する5大大型哺乳類が生息している自然の素晴らしさを語ってくれました。

(なお、上記映像中の動物たちはすべて東京都内で観察できる動物たちだそう。)

 

虎谷も以前、丹沢を山歩きしていた時に、雪の上に点々と残るツキノワグマの足跡を見つけた

ことがありました。ふと遠くに視線を移すと横浜の町並みやランドマークタワーが見え、クマの足跡と

大都会が一緒に視線に入る違和感が痛快だった事を思い出しました。

日本ではオオカミやカワウソなど絶滅(...したとは認めたくありませんが...)した動物もいますが、

まだまだ自然が残っているのですね!

 

欧米の自然保護は「一度徹底的に自然を破壊してしまった反省」に基づいている事に比べ、

日本では自然が里山という身近な形で残ったため「あって当たり前」という感覚なのかもしれません。

評価しにくいですが里山や水田を守り続けてきた農家や林業家が自然環境維持に果たした役割はかなり大きいようです。

 

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次いで、環境省の方が省庁の役割説明から始まり、現在日本の山で何が起こっているかを

データを元に冷静に語ってくれました。

最近、クマに関わる報道をよく目にしますが、渓流釣りや登山中の事故などより、山菜取りや

農園脇、中山間地に住む農家さんの庭でのクマ遭遇による事故が増えているとのこと。

クマがより人里に近い場所に来ている事が想像できますね。

その原因は・・・

・奥山の乱開発で餌を得るために仕方なく人里に下りてきた、

・限界集落や耕作放棄地が増えて人間の近くの方が食べ物を得やすくなった、

・狩猟人口の減少で人に追われた経験のないクマが増え、人里近くに出没する事が増えた、

など、諸説あって「これが原因!」とは特定できておらず、実際にクマが増えているのか、減って

いるのかの正確なデータも今のところはないそうです。

 

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農家の立場からの報告も。

この方が住む集落は限界集落を通り越して、唯一の人間の住人は彼の家族だけだそうです。

どこの山奥から来たんだろう...と思ったら神奈川県の西部地域でした!丹沢周辺にもそのような

限界集落があるのですね!

ここ数年は柵を作ったりして獣害を防いでいたようですが、動物たちもだんだん大胆になって

柵を壊して畑に侵入しだした、とのこと。「明日が収穫だな。」と思った翌日に収穫にいくと、すでに

食べられているということもしばしばだったそうです。

「サラリーマンで例えるともらったばかりのお給料を落して失くした感じ。」だそうです。

よく分かります!それは悔しい!戻ってこい!給料!

「柵で獣害が防げないので、狩猟免許をとって畑に出てきた鹿やイノシシは罠で捕獲して食べる

ことにしました、肉をあげると喜ばれます。」とのこと。

農村では野菜は豊富にありますしおばあちゃんが作る野菜の方がずっと美味しかったりしますが、

肉はなかなか手に入りません。なので、若者が集落に溶け込む手段として集落の肉の供給元に

なることは良いことかもしれませんね。

 

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環境教育を行っているNPO団体でも狩猟をプログラムに入れています。

主に神戸から移住してきた若者たちが子どもたちを対象に環境教育プログラムを行なって生計を

立てているそうですが、冬場はどうしても仕事がない。

そこで畑を荒らす獣たちを仕留めて地域振興に役立てよう!と頑張っている例を報告してくれました。

 

捕獲して肉にするだけでなく加工品も作り始めました。

イノシシの骨でダシを取った「猪骨(ちょこつ、と読みます)ラーメン」です!

大人を対象に猟師体験企画なども開催するそうです。足跡を追跡して獲物を追う体験をしたり、

すでに仕留めた獲物を使って解体を体験したり...。なかなか頑張っている若者たちでございます!

就職難で安定した大手企業に就職希望が集中している、などのニュースを見聞きしますが、

好きな土地に飛び込んで自分たちで仕事を作っちゃえ!という気概は立派でございます。

「最近の若いモンもなかなかやるじゃないか!」と思わず父親の眼差しを投げかけてしまいました。

 

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色々な色の紙をかざして危ない団体の様ですが(笑)、これは参加者の属性を調べている様子です。

「学生は赤、会社勤めは黄色、NPO勤務は緑」などと色分けし、どのような参加者が、どんな動機で

来ているのか調べています。環境教育を長くやっていた人ならではの調査方法ですね!

ちなみに色紙の計測は野鳥の会の皆さんが担当していました。

人の計測は年末の紅白歌合戦の時だけではないようです(笑)。

 

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基調報告が終わって次はテーマごとのディスカッションです。

話をしながら話題に出た内容をどんどん紙に書き込んでいきます。何を話したかが残るため、

どんどん話がふくらんでいきます。

右の口髭の方はこの企画の世話人、広瀬敏通さんです。

広瀬さんは静岡県で家畜動物や富士登山、洞窟探検、熱気球体験などを通して自然を体験する

「ホールアース自然学校」という自然学校を主宰していました。

自然災害があるとスタッフを被災地に派遣する硬派な活動をする一方、修学旅行などを受け入れて

経済的にも成功していたのですが、経営をスパッと後進にゆずり(譲られた方々はかなり戸惑った

そうです)NPO法人日本エコツーリズムセンターを立ち上げ、日本にエコツーリズムを浸透させる

ために「世話人」として日本中を駆け回る日々だそうです。

生涯現役の方でございます。

 

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「猟師」をテーマにエコツーリズムが話し合われる時代が来るとは想像もできませんでした。

「命の重みを感じる機会になると思う。」

「奪った命は最大限食べて供養してあげなくては。」というマジメな意見の他にも

「猟師ってモテる?」といった若者らしい感想まで...。

何にしろ、話し合われるって良い事でございます。

 

しかし、ほんの少し前までは自然環境に関心がある人たちの集まりでは「いかにダムやゴルフ場

建設による環境破壊をやめさせるか。」、「河口堰建設反対!」など、環境を守って動物を増やそう!

という話し合いが主流だったはずです。

それが、自然環境のバランスをとるために増えすぎてしまったシカやイノシシを獲ってどう活用しよう、

なんとか環境教育のプログラムに活かせないだろうか、などと話し合っているのですから、時代は

変わるものですね。

 

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テーブルごとに話し合った内容は最後に発表!

解散後は居酒屋で打ち上げとなり楽しい時間を過ごすことができました。

 

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ちなみに今回テーマになった猟師さんですが、日本では平均年齢は60歳以上で、20年後には

絶えてしまうであろう、と言われています。

いわば、レッドデータブックに載せたい「絶滅危惧種Ⅰ」でもあります。

本業として行っている人はおらず、趣味として行っている人がほとんど。

猟期は11月から2月までの冬季。

シカやイノシシを獲るには、「まき猟」と呼ばれる10人ほどの射手と勢子と猟犬で構成されたグループで

行なうのが一般的です。

山の一斜面の各所に射手が待機して犬に追われてきた獲物を狙います。

冬の山道を1時間以上歩いて持ち場についたら、後は勢子に追われた獲物が通るのを木陰で息を

殺してじっと待ち続けます。

獲物の姿を見て発砲できれば獲物が獲れなくても運の良い日。

木陰で寒さに耐えながら何も起こらずに一日が過ぎても当たり前、という忍耐の世界であります。 

 

運よく獲物を手に入れられたとしても、山中で獲物を解体して内臓や骨、皮などはちゃんと埋設しな

くてはならず、手に入れた数十キロの肉も近くに誰もいなければ一人で背負って山から降ろさなくて

はなりません。(※山中で解体した肉は販売等できず自家消費のみ認められています)

勢子を行う人はさらに獲物を追う為の犬の訓練も欠かせません。

このような厳しい世界で若者が敬遠するのも無理はないのですが、それにも関わらずこの世界に

飛び込んでいこう!という若者が増えることは心強いことです。

私も「たべまも」キャンペーンでシカ肉を消費してお手伝いしたいと思います。

 

大地を守る会 交流局 虎谷健

大地を守る会の震災復興支援

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