2013年1月 8日

NEWS 大地を守る2013年1月号 糀蔵の冬

同時配布ツチオーネ「手作り味噌を始めよう」連携特集

糀蔵の冬

信州木曽を訪れ、日本の発酵食文化に出会う
 

寒仕込みという言葉があるように、冬は味噌や酒などの仕込みの季節。
気温が低いために雑菌の繁殖が抑えられ、ゆっくりと発酵が進んで味に深みが出てきます。
そんな味噌や酒の発酵に欠かすことのできないのが糀(こうじ)の存在です。
昔ながらの糀作りを通じて、発酵食品と日本の食文化を見つめ直してみましょう。
                                                                         (NEWS大地を守る編集部)

洗った米を桶で蒸す作業。何度かに分けて、つぎ足していきます。均等に蒸し上げるために真っ平らではなく、ふちの部分を少し高く湾曲させます。




  江戸時代に京と江戸を結んでいた中山道。長野県木曽福島は、江戸と京の中間地点に位置する重要な島関所があった宿場町です。町を歩いてみると、古い建物が並ぶ風景や、迷路のように通じている細い道、豊かな水をたたえる木曽川が当時の面影を今に伝えています。木曽川のほとりに建つ崖家造りの家々を眺めながら行人橋を渡れば、正面に小池糀店の姿が見えてきます。

 引き戸をガラリと開けると、奥の釜場に備えられた大きな木の桶から温かな湯気が上がっていました。


 「いま米を蒸しているところです。山形県のおきたま自然農業研究会の村岡謙二さんが有機無農薬で作ったお米なんですよ。きっと、大地を守る会の会員さんたちにもお馴染みのお米だと思います」と話すのは、専務取締役の唐沢尚之さん。桶のそばで米の様子を見守っているのは、尚之さんの弟で工場長を務める裕之さんです。

 糀店とは、文字どおり糀を製造・販売しているお店のこと。糀は、米を蒸して糀菌を繁殖させて作ります。
以前は、何軒かの糀店がありましたが、いまでは木曽郡に小池糀店、一軒だけだそう。昔ながらの糀づくりを拝見しながら、日本の発酵食品の魅力に迫ります。


食卓が多彩で味わい深くなる!
    発酵食品がもつチカラ

 みなさんの家には、どんな調味料がありますか? 
砂糖、塩、酢、醤油。それから、味噌、みりん、酒......。これらの和食に欠かせない調味料のなかで発酵の工程を経ていないのは、なんと塩と砂糖だけです。もし、日本に発酵食品がなく調味料が塩と砂糖だけだとしたら、私たちの食卓は、ずいぶんと味気ないものになっていたはずです。多彩で奥深い味わいを楽しめていなかったに違いありません。

 ここで、発酵食品とはどんなものかを簡単におさらいしておきましょう。発酵食品は、目に見えない微生物の働きで原料を発酵させることで、食品の香味を豊かにしたものです。でも、注目すべきは味だけではありません。発酵させることで保存性が高まり、栄養価が増すのも大きな特長です。例えば、日本の発酵食品の一つ、納豆は、茹でた大豆よりビタミンB2が6倍ほど、遊離アミノ酸は200倍以上にもなり、発酵によって血栓を溶かす働きがあるナットウキナーゼなども生まれると言われています。

 昔は、ほとんどの家庭で味噌や漬けものなどを手作りしていました。糀屋は、きっと身近な存在だったに違いありません。その後、時代とともに機械化が進んだ工場で大量生産した食品が売り出されるようになりました。なかには、自然な発酵の力に委ねるのではなく、加温発酵させている味噌や、アミノ酸を使って味付けをしたり、酒精で発酵をコントロールしている漬けものも少なくないようです。

 そんな大量生産とは異なり、少量生産で品質重視の糀作りを続ける小池糀店は、唐沢さんご兄弟と、社長の上村三枝子さんを含めて7人の家内工業。
「少人数だからこそできることがあります。大量に作ろうと思うと、機械に頼らなくちゃならなくなる。そうすると、人間の都合のいい時間に機械を動かしたり発酵させたりすることになるんです。うちでは、人間の都合ではなく糀の都合に合わせて仕事をしています」と、唐沢尚之さん。


糀の顔色を見ながら
   菌の働きの"お手伝い"

   小池糀店が木曽福島の地で糀店を始めて130年余り。手作りの糀はもちろんのこと、糀を使用した味噌や甘酒なども作っています。経験と勘、過去のデータを元にしながらの作業ですが、一度として同じ米、同じ日はないのだと話します。
「糀は生きています。同じ作業を繰り返しているようでも、季節や湿度などで条件は異なります。だから、いつも糀の顔色を見ながら作業をするようにしているんですよ。糀のわずかな状態の違いを見極めながら、糀菌がいちばん活動しやすい状況になるよう、お手伝いをしている気持ちです」。

 糀の製造には、洗米から約4日間を要します。近年の塩糀ブームで、小池糀店にも糀を買い求めるお客さんが増えているとか。手作業で1回に作れる量は限られていますから、注文が込み合うと、1日も間を置かず糀を製造することになります。それでも大量生産できなかったので、「糀ブームにそれほど便乗はできなかったですね」と尚之さんは笑います。

 先祖代々受け継がれてきた建物は、増築や改修を繰り返しながらていねいに使っているもの。眼前には木曽川が流れ、建物の裏手はすぐ山。先代が岩山を掘って建てたそうで、糀室(こうじむろ)と呼ばれる部屋の一部は山の斜面に埋まっている構造です。

 岩の中なので一年を通して温度を一定に保ちやすく、空気が湿っていて発酵にぴったりの環境です。目には見えませんが、130余年に渡りたくさんの糀菌がすみついていて、静かに発酵の営みを続け、米を糀へと変えてくれるのです。














放冷からは糀室(こうじむろ)の中での作業。壁や道具は洗剤を使わずに洗うなど、糀菌のすみやすい環境を壊さないように心掛けている。





小池糀店の「木曽の手づくり甘酒」。
ツチオーネ104号[注文番号1621]で
ご注文いただけます。
日本の食文化を支えている
   シンプルなひとつの想い

 蒸しあがった米は、糀室に運び、糀菌を蒔いて種付け作業を行います。糀室の中へ入ってみると、ほんわかと温かな湯気と、米の独特な甘い香りがたちこめています。

 蒸した米に種糀を付ける作業は、地元に暮らす女性たちの仕事。一粒一粒に糀菌が均等に付くように、ていねいに手作業で行います。
「人の手は、どんな機械よりも繊細で複雑な感覚を持っているんですよ。手を使うことで、まんべんなく糀菌が混ざっていく感触やお米の微妙な硬さの違いもわかります」。

 日々、種付け作業をしている皆さんの手に触れさせてもらうと、米や糀の保湿成分のせいか、驚くほどしっとり、つるつる。皆さん、蒸しあがった米の蒸気の中で作業をしているからか、お顔もつやつやと輝いています。

 一次発酵、二次発酵と進み、洗米から4日目に完成した糀は、米粒同士がくっつきあっています。つるんとしていた米の表面は、ふわふわとした白い花のような菌糸でおおわれています。「糀」という字は、この様子から日本でつくられた国字。なんとも趣のある、先人たちの表現です。糀をひと口食べてみると、やさしい自然の甘みが口いっぱいに広がりました。
「おいしいものを作りたい。ただ、それだけなんです。その手段として選んだのが、この先祖から受け継いだ環境と昔ながらの製法です。恰好よくいえば、日本の食文化を守っていることになるのでしょうが、そんな気負いはないんですよね」と、尚之さんは笑顔を見せます。

 小池糀店のみなさんからは、シンプルながら力強い糀への想いが伝わってきました。「おいしいものを作りたい」という気持ちと真摯な姿勢が、日本の食文化を守ることにつながっています。

 糀から、味噌に、醤油に、酒に――日々、何気なく口にする食べ物にも、影の立役者としての糀という知恵、技術の恩恵があります。日本の風土に根付いた"発酵"という食文化は、職人たちが連綿と磨き上げてきたものであり、一方で、津々浦々の家庭に伝えられてきたもの。

日本が培ってきた食文化を見つめ直すとともに、手作り味噌など、この伝統的な食を家庭にも取り戻していきましょう。改めて、食の大切さと、食に関わる人たちへの感謝の気持ちが持てるのではないでしょうか。




明治12 年(1879 年)創業。昔と変わらぬ手間を惜しまない製法で、力強く自然な味わいの糀をつくっています。大地を守る会とは2004 年からのお付き合い。手づくりの糀で作られた「木曽の手づくり甘酒」が人気です。









ができるまで

1日目
洗米      ていねいに米を洗います。

浸漬      15時間水に浸します。

2日目
蒸す   




 ムラができないよう、少しずつ米の量を増やしていき、米をへらでならしながら蒸します  












放冷




1時間ほどかけて蒸した米を糀室(こうじむろ)で平らに広げ、手やへらでほぐしながら35℃くらいまで冷まします。










種付け


適温まで下がったら、糀作りでもっとも大切な作業。
種糀をまき、糀菌を一粒一粒にまんべんなく付けます









保温



種付けした米を山のように高く積み、布をかぶせて6 時間ほど保温します。












手入れ   米の山を崩して手入れし30℃まで温度を下げてから、再度、米の山をつくります。
                均等に糀菌の増殖を進め、空気に触れさせることで雑菌の繁殖を低下させます。


3日目
保温


14時間後、米の山の温度は40℃くらいまで上がっています。60℃くらいまで元気いっぱいの糀菌は、まだまだ発酵を続けます。






手入れ     二度目の手入れ。
                 発酵の進み方は毎回異なるので、手入れのタイミングは糀菌に合わせます。


4日目
温度調節  少しつ温度設定と風量を上げていきます。これも糀の発酵の進み方に合わせて
          昼夜を問わず調節します。


完成




糀菌が中まで入り込み、米粒が白く輝いています。


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