<05>知って学ぼう!: 2011年8月アーカイブ
2011年8月17日
2011 米生産者会議報告 in 北海道
今回「お米の生産者会議」が行われたのは、「涼しく短い夏」というイメージの北海道でした。
講演して頂いたのは、菊池治己先生。元上川農業試験場長。
まずは、北海道の開墾の歴史から。
森林を開墾して水田にしたそうですが、ユンボもない時代に相当大変なことだったと思います。
田んぼに残る木の切り株が当時の苦労を伺い知れます。
稲作は、明治10年頃からどんどんと北進していったそうです。
明治33年を見ると、ちょうど今の札幌辺りまできています。
ちなみにこの年は、エゾオオカミが絶滅してしまった年でもあります。
北海道は、やはり内地と違って寒い。
4年に一度は冷害に見舞われるという状況があって、以前としてそのリスクはあるそうです。
そんな厳しい環境条件の中、育種をどうやって進めていったのか?
育種のプロジェクトが始まったのは1980年。なんと、今から30年以上前にさかのぼります。
稲は普通に作ると1年に1作しかできませんが、もし1年に2作、3作とできれば、
育種のスピードを早めることができます。
それを実現する為に最初は鹿児島県や沖縄県にお願いして作ってもらったこともあったそうです。
その後、道南農試に大型の水田温室を用意し、2期作の体制を整えました。
30年で60年分の仕事ができるというわけですから、すごいことです。
冷害に強い個体を選抜する為には、人工気象室も用意。
「冷害に強く、生産量も多い」という性質だけではお米は売れません。味も重要な点です。
そこで「北海道のお米はまずい」といわれる理由を分析したところ、
アミロース含有量が低くなりにくい為、粘りが無くなりおいしくない、ということが判明。
(アミロースが0になるとモチ米になる)
夏場に高温になりにくい北海道では、どうしてもアミロース含有量が低下しないという
気候的要因が良食味をはばかっていることがはっきりしたのです。
そこで、低温下でもアミロースが低くなる系統を作るという育種目標が掲げられました。
その為に、様々な品種を導入。
「おぼろづき」に至っては、なんと新規の低アミロース遺伝子を見つけ出すこととなりました。
カリフォルニア米で有名な「国宝ローズ」の血も入れたんですね。
正直、これには執念と気合いを感じました。
また、純系を短期間に作る為にも重要な葯培養の技術も導入。
教科書ではよく習う技術の1つですが、葯培養で実用品種を作った例というのは
あまり知らなかったので、非常に興味深く話しを伺っていました。
このような工夫と努力が実って、北海道の寒い気候でも育ち、
しかも高アミロースにならないという品種が誕生したわけです。
食べ比べをしてみましたが、「おぼろづき」「ゆめぴりか」には正直びっくりしました。
炊き加減もあったのかと思いますが、食べ比べの値を集計しても
コシヒカリより上の評価がついていました。
これだけの時間と努力をしてきたのですから、「素直に評価したい!」と思いました。
話の終わりに、産業用大麻の話がありました。
麻は、どうしてもマイナスの側面ばかり取りざたされますが、
THC(向精神薬)を殆ど含まない産業用大麻というのがあります。
大麻は本来伝統的に日本で栽培されていた作物で、植物体は繊維やプラスチックとして、
また「実」は大変栄養価に富んだ食料として我々に大きな恵みを与えてくれる植物です。
最近では、その秀でた成長力と吸肥力から、放射性物質を吸収してくれる可能性についても
示唆されています。
この植物の持つポテンシャルを日本でももっと活用できる日がくればいいですね。
最後に気になった生き物を一つだけ。
北斗会の水田に生えていた糸状藻の一種、アミミドロ。
過去の観察経験を踏まえてお話すると、水田では、温度が低い時期にサヤミドロが出現し、
その後アオミドロやアミミドロなどが出てきます。
サヤミドロは非常に細い細胞でできていて、イネには殆ど影響を与えません。
初期にこれがあることで抑草効果もあることが報告されています。
アオミドロは、場合によってですが風などで一カ所に集まってしまうことがあり、
その結果イネを倒してしまう害も報告されています。
アミミドロは、全体がネット状に繋がっていて風の害を受けにくく、
場合によっては抑草効果もあります。
田んぼに生えている藻は、全部アオミドロだと思っている人が多いですが、
同じように見える生き物でも、時期や環境によって種類が違っているという状況があります。
地味な側面ですが、そんな生き物の営みもあることを知って頂けると嬉しいです。
以上、北海道生産者会議の報告でした。
CSR運営委員・陶武利
2011年8月12日
大地を守る会 パキスタン洪水支援報告
お久しぶりです。とよまるです。
昨年2010年の7月下旬から8月中旬にかけてパキスタンのインダス川が氾濫し、国土の20%が被害
を受けたというニュースを憶えていますか。
大地を守る会ではNPO法人JFSAを通して、会員の皆さんに古着をお送りいただくことにより、カラチ
市のスラムの学校運営に協力しています。昨年11月からそのスラムの学校、アルカイール・アカデミ
ーの生徒たちの発案により被災地支援が始まり、大地を守る会は、会員の皆さんからご支援を募り
支援に協力をすることにしました。集まりました支援金は、2,391,000円! 直ちに現地に送られまし
たが、今回はその現地報告です。
いきなりですが、ここはパキスタンのカラチ市から北へ約500キロの村、シター郡ダドゥ村です。踏み
固められていますが畑です。洪水が引いてから、塩が表土に出てきて作物が植えられません。
私は7月2日にここに到着しました。気温40℃以上の暑さでしたが、外で農作業をしている人もちらほ
らいました。酷暑期は58℃になったと聞き、頭がくらくらします。アルカイール・アカデミーの子どもた
ちは、畑の復旧作業を手伝ったそうです。今回は、まだ暑い時期なので子どもたちの支援は一休み。
9月過ぎから再開するそうです。
同じ村の別の畑では、オクラが育てられていました。畑の復旧は急務です。オクラはカレーによく使
われる食材ですね。
洪水で壊れた家屋です。もともと地震が少ない地域のせいか鉄筋を使わずにレンガを積んだだけな
ので、水の力で簡単に崩れてしまうようです。レンガも乾燥しただけの安いものが多くつかわれてい
るようでした。レンガは焼くと硬くなります。陶器と同じですね。値段も高くなりますが、再建するとき
は焼いたレンガも使用しています。
住むところが無くなった村の人々は、国連をはじめ様々なNGOからの援助物資を頼りに生活してい
ます。後ろに見えるようなテントで暮らす人が多いのですが、暑さを考えると過酷です。
パキスタンの農民は、大地主の農地を借りて耕していることが多いのですが、酷いところでは地主が
援助物資を横取りしてしまうこともあるようです。この村の地主さんは村人を大切にするとのことなの
で、支援を行うことにしました。もちろん日本人の我々にはわかりませんので、アルカイール・アカデミ
ーのムザヒル校長先生やスタッフが現地のあらゆるネットワークを駆使して決定しました。
(JFSA西村氏撮影)
他団体からの支援金を合わせて970万円のうち、500万円を使って家を建てることになりました。現時
点では、最も困っている農家15軒分を建設中です。どの農家の家を建てるかは、外部の者だけでは
決められないので、地主と村人と何度も話し合いをします。
これは小麦のもみ殻や茎を裁断したもので、家畜の餌になります。村人とアルカイール・アカデミーの
事業部が新ビジネスとして販売する予定で、支援策の一つの柱です。
これは、今年の1月にアルカイール・アカデミーの生徒たちが支援に来た時のひとコマです。農地を復
旧させるのと同時に、サトウキビの収獲も手伝いました。援農作業も支援の一つとなっています。
都会の子どもたちと村の子どもたちとの交流の場にもなり、お互い刺激を受けたそうです。
(JFSA西村氏撮影)
これが新たに建設中の堤防です。日本語で堤防というとコンクリートの巨大なものが頭に浮かびます
が、ここでは土を3メートルから5メートルくらいに積み上げて固めたものです。村の周りにぐるりとつく
ります。簡単なつくりですが、洪水時には頼りになります。
この写真も1月にアカデミーの子どもたちが支援にきたときのものです。村の生活もスラムの生活も
厳しいと思いますが、笑顔が良いです。 生活が厳しいところほど人と人の強い繋がりを感じます。
(JFSA西村氏撮影)
被災地支援とは別のお話です。アルカイール・アカデミーには、女性自立のための縫製学校もありま
す。アカデミー内では選抜された女性チームが日本から来た縫製のプロフェッショナルFさんからエプ
ロンづくりを学んでいます。チームの皆さんは日本で通用する縫製技術を身につけようと必死に話を
聞いていました。近い将来、大地を守る会でも販売できるようなものが出来ればと思います。
上記の通り、皆様からお預かりした洪水支援金は、きちんと有効に使われていることを確認致しまし
た。新たな動きがあり次第、またご報告致します。
とよまる こと CSR推進室 豊島でした。