<07>海外とつながろう!: 2013年9月アーカイブ

2013年9月 3日

NEWS 大地を守る2013年9月号 有機農業から世界を変える!

中国で始まった若者たちの挑戦

有機農業から世界を変える!

天津市に開校した農民学院に集まった学生8名。大学で農業を学んだ者、別の分野で働いていた者とそれぞれ異なるが、有機農業で自立したい、安全な食べものを作り社会に貢献したいという気持ちに変わりはありません。紋切り型の報道からは見えてこない新しい世代が育ちつつあります。

現在、中国では都市と農村部の経済格差が進行するとともに、ほとんどの消費者が「食の安全、安心」について不安を感じているといいます。株式会社大地を守る会は、中国農村部の貧困問題に取り組むNGO「北京富フー平ピン学校」と提携して、北京で安全な食べものの宅配事業を立ち上げました。中国に、安全で信頼できる農業を広げることは、食の問題や農業、環境の問題を解決する一助になり得るだろうと、協力を決定しました。
(広報国際課 豊島洋)

中国が変われば世界が変わる

 中国は世界の人口の5分の1を抱える大国。この国の農業政策、環境政策が世界に与える影響は大きなものです。食べものの問題は生存の問題であり、奪い合えば対立がおきます。食料を自給できる国は、安易に他国から輸入しようとしないで自給する道を選択してほしい。日本では残念ながらそのことができていません。

 私たちの活動は、日本でも自給しようとすれば自給できるというモデルを作り、それを社会に示すことでした。食料を自給するためには、持続可能な生産方法、農民の地位の向上、消費者からの支持獲得などクリアしなければならない問題がたくさんあります。その活動を続けてきた私たちの35年以上の経験を中国に伝えることは意味のあることであろう、というのが今回の提携の理由です。中国が変われば世界が変わると考えたからです。

      2:                 1:

1:大地を守る会の藤田和芳社長の著書「ダイコン一本からの革命」中国語版が出版され、北京で記念講演が
   行われました。一般の消費者はもちろん有機農業関係者も多く集まり、意見交換が活発に行われました。
2:中国では食の問題は大きな関心事。現地の新聞に取り上げられるなど、大地を守る会の活動は注目されて
   います。

2:    1: 

1上: ハウス外観。日本のハウスと比べると巨大。内部の耕作面積は約10アール(1,000平方メートル)
       あります。無加温でも暖かいエコロジカルな施設です。30 棟借りているので、すべて稼働すれば相当量の
      作物が採れますが、土づくりがまず最初。
1下:ハウス入口(内側)は、塹壕(ざんごう)のようです。ハウスの片側はレンガや土を積み上げて壁となり、
      鉄のパイプを反対側に渡してビニールを張るかまぼこ型。立っているのは大地を守る会生産者のもとで研修を
      積んだ陳さん。技術指導を行っています。
2: 宅配物を受け取る場合、注文品が間違っていないか、傷みはないかをその場で、消費者と配送スタッフが
     お互いに確認します。留め置きは基本的にしません。


             
    最初の一歩は土を耕すことから

 2012年12月、北京市の南東に位置する、天津市に広がる広大な農地の一角。日本のものと比べるとはるかに大型のハウスのなかで、若者たちがスコップの先に体重を乗せて固い土を掘り返し始めました。地元の人々の力も借りて急ピッチで開墾が進められます。外は、土も凍る零下の世界。新しく建設されたこのハウスで、これから大地を守る会の基準に沿った野菜を作り、宅配事業を始めるために力を合わせて作業が始まりました。

異文化の壁を乗り越える

 準備は3年前からスタートしました。富平スタッフは、大地を守る会での研修を行い、有機農業運動の背景にある哲学的な考え方、さらに安心安全な野菜の作り方から、届け方までを学びました。言葉も習慣も異なるため、日本人の間では一瞬で伝わることもなかなか伝わらず激論となることもしばしば。大地を守る会の生産基準の翻訳や中国の事情に合わせた変更とその合理的な理由の確認、有機栽培が可能な農地の確保と土壌検査、現地の農業指導者の確保、流通経路の確保、そして合弁会社の設立などなど、何もかも初めてのことです。会社名は「北京富平創源農業科技発展有限責任公司(通称、富平創源)」となりました。

 日本と中国で最も大きく異なることは、農業形態の違い。日本では個人の農家が自分の農地を所有し独自の農法で栽培しますが、中国では農地は集団の所有で、指導者の指示により多数の人々が耕作する方法が一般的。中国では個人経営の農家は少数派です。まずは自分たちで安全な食べものを作ろう、と天津市のハウスで土づくりが始まったのです。

      

左:朝6時の点呼ののち各作業場に向けて出発。日本にはないタイプの車です。
     荷台に人と作業道具を乗せてポンポンと走ります。
中央:中華料理で炒めものによくつかわれるパプリカやピーマンが人気。青い服は作業服です。


 農民を育てるための学校を作ろう

 もともとこの事業は、安全な食べものを届けるだけではなく、農民の自立や環境改善という目的もあります。そこで自立した農民になるための学校「農民学院」を設立。有機栽培の技術を習得できるだけではなく、有機農業、環境保護の哲学をも学べる学校です。現在学院に集まった若者は8名。中国の農業を変えたい、安全な食べものを届けたいと集まった若者たちです。

 彼らの指導にあたるのは現地で有機農業に取り組んできたベテラン技術者1名、さらに大地を守る会の生産者のもとで3年間研修を受けた経験を持つ若者も加わりました。そして大地を守る会からは、35年以上有機農業業界に身をおく長谷川満、ベテラン農産・物流スタッフの市川泰仙や猪狩篤が年に数回現地で指導にあたっています。
 農地が広大なため、地元の農家約20名に農作業を手伝っていただいています。もちろん彼らにも農民学院の一員として有機農業を理解していただき、自立支援も行います。


7月下旬時点では、秋作の野菜の苗が育てられていました。
トマト、ナス、ピーマン、きゅうり、キャベツ、瓜、苦瓜、豆類、大根、白菜、ほうれん草などの野菜が栽培されます。















右上:日本ではあまり見かけない、尖った
        辛いピーマン。


 
左上:農業学院のファンファンファン君。
       「朝早くから夜遅くまで農作業が
      続くけれどとても充実しています。
      将来は農民として生きていきたい」。



下:ハウス内で作物を前に打ち合わせ。
    北京のスタッフと農場スタッフが野菜の
    育ち具合と出荷の調整をします。








信用とはお互いを知ること

 いったい何を信用したらよいのか。中国で食べものを選ぶとき、誰もが迷うといいます。北京や上海などでは、すでに多くの有機農産物の宅配業者が自らをアピールしています。信頼の根拠は「有機認証」。しかし有機認証のラベルまでもが売買されるので信頼できないという声も聞きます。大地を守る会では独自の生産基準を定めています。有機基準とは異なりますが、消費者への安全性を確保しながら生産者がより高い安全性を目指すための基準です。そして絶対にウソはつかないという関係性を築くことも大切にしています。

大地を守る会の生産者には有機認証を受けている方も、あえて受けていない方もいますが、大地を守る会の基準はクリアしています。担当社員による二者認証と、それを第三者によって担保する第三者認証。富平創源は大地を守る会の方法をモデルにしていきます。作る人と食べる人の信頼関係を築くのは、お互いを知ることから。大地を守る会の社員も、北京に駐在し支援を行っています。各種交流イベントや料理教室など、続々企画中です。
 配送は5月から開始されましたが、野菜の調整が難しいため、現在は4㎏の野菜セットのみ、500軒程度の家庭へテスト配送中です。野菜の栽培と配送の状況が安定次第、一般の方々にも販売する予定です。

 
左:収穫された野菜は、何度も検品されていねいに包装されたのち、宅配箱に箱詰めされます。
右:農場ツアーを企画し、消費者に栽培方法を確認してもらっています。
     写真は訪中時の大地を守る会スタッフ長谷川が質問に答えている様子。


 
左:北京にある事務所。若い女性が多いのが特徴です。北京のあちこちで出会うNGOも女性が優勢。
      社会を変える力は女性が担っているようです。
右: 北京市内数カ所で行われる青空市、有機農産物市に定期的に参加。
      野菜を販売しています。安全な食べものを求める人は多い。
円: 北京は車両の規制が厳しく大型車は路地に入ることができません。
      宅配はこのような三輪車で行われています。





富平創源(フーピンソウゲン)からのメッセージ

大地を守る会の35年以上の活動に触発されました。
現在中国が直面している食の安全の問題は、有機認証だけでは解決できません。お互いの信頼を取り戻すことがなにより大切。新しい農業のあり方のモデルになりたいと思っています。この事業が本当の日中の懸け橋になることを確信しています。

富平創源社長 沈東曙(シェンドンシュ)さん





NEWS 大地を守る2013年9月号 GLOBAL REPORTS


写真左:学前の学力テストを受ける男の子。学力によりクラスが決まります。何度も先生に質問しながら回答していました。
     学びたいという強い気持ちが伝わってきます。
写真右:集められた古着は品目ごとに分けられた後、50キロのベールに圧縮されてパキスタンに送られます。
     写真はベールをパキスタン向けのコンテナに積み込みをしているところ。JFSAの活動に賛同したボランティアの皆さんです。


古着で学校支援!

 大地を守る会では、衣類のリサイクルを通してパキスタンの子どもたちを支援するNPO法人JFSA(日本ファイバーリサイクル連帯協議会)の活動に賛同し、会員の皆さんに古着の回収を呼びかけています。JFSAは1998年から、パキスタンのカラチ市のスラムにある学校アルカイール・アカデミーを支援するために古着を回収しています。選別した古着をパキスタンに送り、現地で販売し、その売上を学校運営の資金に充てています。


義務教育のない国

 パキスタンには義務教育制度がありません。もちろん学校はありますが、通う義務はありません。パキスタンは階級社会のため、それぞれの階級によって通う学校が決まります。富裕層の子どもは高額で質の高い私立学校へ、下層の子どもたちは家族を助けるため、仕事に就く子どもがほとんどです。親もそれが当然のことと考えています。安い公立学校もありますが、先生が副業に専念して不在などの理由で、学ぶには不向きな場合が多いのです。がんばれば豊かな暮らしが手に入るということはまずありません。長い歴史のなかでそれが自然なことと考えられてきたからです。


それでも教育は大切

 アルカイール・アカデミーは、1987年にムザヒル校長先生が10人の生徒から始めた私立学校です。学費は無料、学科は宗教に偏らず広い知識と考える力が付くように組まれています。スラムの子どもたちにも教育を受ける機会を与え、自分で考える人が育てば社会も変わる、という考えを基本にムザヒル先生はスラムの人々に呼びかけてきました。アカデミーの子どもたちは現在3,000名を超えるまで大きくなりました。かつての生徒だった子どもが親となり、その子どもたちが通い始めています。地域の意識は確実に変わってきました。一方で、毎年何百人もの子どもたちが入学できないのも事実です。その理由は学校運営予算が不足しているからです。予算の半分以上は国内の寄付に頼っていますが、不安定なものです。皆さんの古着から得られる売上は大きな力となっています。古着の回収にぜひご協力ください。
 


大地を守る会の震災復興支援

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