<09>食べて守る生物多様性: 2009年11月アーカイブ
2009年11月26日
生物多様性-その重要性と名古屋会議 COP10/MOP5
09年10月27日晴れ(by ドクターMaekawa)
この日衆議院議員会館で、「食と農から生物の多様性を考える院内学習会」が開催されました。
きっかけは、来年10月に名古屋で開催される、COP10、MOP5の国際会議が開かれる予定と
なっているからです。まずは、COP10、MOP5の説明を。最初(①)はちょっとガマンして・・・
興味のない人は、2.からでも。
1.
COP/MOP:Conference of the Parties、Meeting of the Parties の略。ともに、なんらかの
国際条約締約国間での会議のこと。気候変動枠組条約などでも使用される一般略称。
COP10:来年名古屋で開催される第10回生物多様性条約締約国会議(→ウィキペディアURL)。
絶滅危惧種が急速に拡大しているのを背景に、世界の生物多様性の保全を目的に、「生物の
多様性に関する条約」が1993年に発効。その締約国会議(COP)が1994年から開催されている。
MOP5:来年名古屋で開催される第5回カルタヘナ議定書締約国会議
「生物の多様性に関する条約」の中では、生物多様性に悪影響を及ぼす可能性のある遺伝子組み
換え生物の移送、取り扱い、利用の手続きについて検討することになっており、2003年、スペイン
のカルタヘナで、「バイオセーフティーに関するカルタヘナ議定書」が発効。以後は、「遺伝子
組み換え生物(GM)バイオセーフティー議定書」と略。
「生物多様性条約」と「GMバイオセーフティー議定書」はセットで議論されるので、COP/MOP
会議と呼ばれています。COPが上位概念で、MOPがその下部にある形式になります。
ECO JAPANホームページからおかりした略図
2.
ここからは、院内学習会のライブ中継&解説になるので、読みやすくなります。
まずは、田島一成環境省副大臣の挨拶から。右隣は、大地を守る会の初代会長、藤本敏夫氏が
作った、鴨川自然王国の代表理事で、今回衆院選で初当選した石田三示氏。 左が市民バイオ
テクノロジー情報室代表、遺伝子組み換え食品いらないキャンペーン代表の天笠啓祐氏。
そして本番の海外ゲストの講演がはじまりました。今回のゲストがすごい人。クリスティーヌ・
フォン・ヴァイツベッカーさん。代々科学者の家系に育ち、太陽系の楕円運動を発見したあの有名な
ケプラーも祖先。1984-1994のドイツ連邦大統領のリヒャルト・フォン・ヴァイツベッカーさんは親戚。
分子生物学者でもあり生物学に強く、市民運動家でもある。日本にはこういう科学者、なかなか
いないのが残念です。
左から二人目が、クリスティーヌ・フォン・ヴァイツベッカーさん
まずは彼女の講演からはじまりました。この人の講演が素晴らしいの一言!論理的、科学的な
言論が進みます。印象に残った点をいくつかピックアップしていきます。
「生物多様性とは変わり行く世界のなかで未来への生命保険である」。くっー、カッコイイー!
ぐっとくる言葉ですね~ まずは生物多様性が生態系の働き中で十分に機能することによって、
健全な水、森、海が保たれ、それによって農地の健康が保証されます。そこから育つ作物や
取れる魚、育つ家畜が健全な人間のカラダを形づくるのです。具体的に卑近な例で説明すれば、
森に降った雨が地中のさまざまな微生物や植物でろ過され、川になって畑に使われ、そこに
健康な農作物ができます。そしてその水が海に流れ込み、健康な魚となっていくのです。海でも
砂浜などに住むカニやゴカイといった生物が水をさらにろ過しキレイにします。しかしその水が
農薬や化学物質で汚染されると微生物や植物の活力が弱まり、海が埋め立てられればろ過役
の小さな生物が死に、多くの環境が悪化の一途をたどっていくのです。
そして忘れてはならない点として、自然、生物多様性が人間の福利に及ぼす効果。自然で癒さ
れるってことは、生き物としての人間の本質です。現代社会はそれを忘れがち。日本のえらい
科学者なんて、「農作物は工場で遺伝子組み換えで作ればいい」、などと発言する人もいる
というのに。クリスティーヌさんこそ、人間の幸せを追求する本物の科学者!
クリスティーヌさんのスライド資料から
そして、現在の危機的な状況を科学的に数字で紹介。化石的な証拠などから、これまでの地球
では、絶滅する種はおおよそ1000年に1種くらいでした。それが現代は1年に1種、すなわち1000
倍にもなっているというのです。さらに悪いことに、このまま地球環境を破壊すれば、その絶滅
スピードは今の10倍になるという予想があるのです。クリスティーヌさんは、「今がターニング
ポイントです。名古屋会議は本当に重要な会議になります」と力説されていました。
クリスティーヌさんのスライド資料から
そして遺伝子組み換えの問題へ話題がうつります。今、メインに遺伝子組み換え生物
(ほとんどが作物)を輸出している国は、アメリカ、カナダ、アルゼンチンの三カ国。そしてそれらの
開発をしている企業は六社しかありません。そして重要な品種は、「除草剤耐性」と「殺虫性」。
それらの三カ国と六社、二品目が、生物多様性に重大な危機を与える可能性があります。
広大な土地に単一の除草剤を撒き散らし、むやみと虫を大量に殺し、環境を破壊し、生物多様性
を奪っている可能性が指摘されています。
そして大変理不尽なことに、これら三カ国は生物多様性条約とGMバイオセーフティー議定書
を締約していないのです。つまり、その他のほとんどの国が、GM作物の輸入国。特に日本は
大量のGM作物を輸入しています。輸出側三カ国は、「GM作物は絶対安全だ」と主張して
います。そして締約国はこれら三カ国が入っていません。ならば、COP/MOPの会議において、
万が一、GM作物によって生物多様性や人の健康、福利、文化に影響を及ぼした場合の
保障責任は輸出側にとらせることを制度を作ることはしごく合理的なことです。しかしそれが
うまくいっていません。それはなぜか?COP/MOPの会議出席国の中に、アメリカの代弁者
がいて、強硬に反対しているからです。その国が残念なことに日本なのです。日本は
COP/MOPに対して第1位(全体の22%)の財政支援をしており、その権威を利用するかたち
で、ほかの国の意見を封じ込める役目をずっとしてきたのです。
クリスティーヌさんのスライド資料から
一つの救いがここにあります。私はこれまで何度も院内学習会を見てきましたが、実際に議員
が自ら出てくることはほとんどありませんでした。多くても数人です。ところが27日の集会には
なんと、20名を越す議員が参加していたのです。ほとんどが政権与党の民主党や社民党です。
政権交代による劇的な変化を見た思いがしました。これらの出席議員がぜひとも積極的に
名古屋のCOP10/MOP5に建設的な意見を出して、日本のこれまでの態度を変えて欲しいと
切望します。少しだけ来年の会議への希望を持った日となりました。
大河原まさこ参議院議員とクリスティーヌさん 川田龍平参議院議員
大地を守る会ではこれまでにも、食べものの輸送距離を減らすことによるCO2削減を目的に、
「フードマイレージ・キャンペーン」を展開してきました。クリスティーヌさんの講演の中でも、生物
多様性を破壊する大きな原因の二つが、CO2による気候変動と化学物質だと説明されてました。
そして新たに、生物多様性保全に向けたキャンペーン、「たべまも」をはじめました。とくたろうさん
などの古来からの在来品種を守る商品は販売していたのですが、加えて、田んぼの生物多様性
に注目し、「コメニスト米」の販売をはじめています。大地を守る会の生産者には、冬季湛水に
よって冬鳥を田んぼによぶ活動をしている宮城の千葉孝志さんなど、多彩な人たちがいます。
また、千葉の山武では、20年間にわたって、会員の方々と一緒に無農薬でお米をつくっている
「稲作体験田」があり、そこには絶滅危惧種の生物も帰ってきていることが確認されています。
「たべまも」では、そういった情報を今後はどんどん出していくことを計画しています。
ご期待ください。
たべまもロゴマーク コメニスト米
20年間、無農薬で続けた千葉の稲作体験田で見つけた生き物たちです。
コオイムイ(準絶滅危惧種) オオカワトンボ(愛知県絶滅危惧1類)
環境保全に熱心に取り組んでいる秋田県大潟村、花咲農園代表の戸澤さん(戸澤藤彦ブログ)
から、最新情報が入っています。大潟村にはかつてから絶滅危惧種のオオセッカが確認されて
いたのですが、最近、チューヒという絶滅危惧種が群れで見つかったそうです。
チュウヒ(拝借写真)(絶滅危惧II類) オオセッカ(拝借写真)(絶滅危惧IB類)
大地を守る会の生産者の日々の環境を意識した営みのすごさを知ります。
大地を守る会 運動局 前川隆文