厚生労働省「食品中の放射性物質に係る基準値案」に対してパブリックコメントを提出しました |
2012年2月1日 |
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株式会社大地を守る会、株式会社カタログハウス、パルシステム生活協同組合連合会、生活クラブ事業連合生活協同組合連合会の4団体は、「食品と放射能問題検討 共同テーブル(以下、共同テーブル)」を2011年9月に発足させ、食品に含まれる放射性物質の規制値のあり方を考えています。この共同テーブルとして2月1日(水)、厚生労働省がまとめた「食品中の放射性物質に係る基準値案」に対し、パブリックコメント※を提出しました。さらに低い規制値の検討や検査体制の拡充と情報公開など5項目について要望しました。下記、全文を記載します。
※「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令の一部を改正する省令及び食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件(食品中の放射性物質に係る基準値の設定)(案)等に関する御意見の募集について」へのパブリックコメント
厚生労働省「食品中の放射性物質に係る基準値の設定(案)」に対する提言
1.原子力発電および低線量被曝に対する共同テーブルの基本的な考え方
1)原子力発電所の速やかな全面廃炉をめざすべきです
- 福島第一原発の事故は、原子力発電は安全に管理できる技術ではなく、ひとたび事故が起きると広範囲かつ長期にわたって当該および周辺国の国民生活の安定を脅かすものであることを全国民に知らしめました。原子力発電は、事故が起きなくても半永久的に管理し続けなければならない放射性廃棄物が恒常的に生成され続けるという極めてリスクの高い技術でもあります。
- わが国のエネルギー政策の総合的見直しを進め、再生可能エネルギーなどへの一刻も早い切り替えをすすめ、速やかな全面廃炉をめざすべきだと考えています。
2)長期的な低線量被曝が人体に与える影響はほとんど判っていません
- 長期的な低線量被曝が人体に与える影響についてはほとんど知見がなく、研究が蓄積されているのはガンや白血病ぐらいです。心臓・腎臓・肝臓障害、記憶障害、発達障害などは、放射線被曝との影響が指摘されてはいますが、影響の度合いなどは明らかになっておらず、ヨーロッパにおいてようやく免疫疾患との関係が指摘されはじめた段階です。過去に研究論文がないことと、影響がないこととは同義ではありません。今後は放射線過敏による症状など、これまでにない臨床例も想定していかなければなりません。
- そのような現状においては、福島第一原発とチェルノブイリ原発の放射性物質の放出量を比較して楽観視することなく、出来得る限り慎重に考え、対処していくことが必要です。「直線無閾値仮説」に立って、放射性物質による環境や食品汚染の現実とリスク度は冷静に判断しつつ、総合的に被曝量を低く抑えるための政策と規制をおこなっていくことが国民の健康を守るために必要な選択です。
2.規制値の設定にあたって考慮すべき点
- 昨年12月22日に厚生労働省より発表された新基準値案で示された規制値の引き下げは一定の評価をするものです。しかし当初の暫定規制値が運用されてから9ヶ月が経過してからの発表であり、新基準値案の検討・運用はあまりにも遅すぎたといえます。
- 以下、規制値の設定にあたって考慮すべき点をまとめます。
1)内部被曝と外部被曝との総量を考慮すべきです
- 今回示された新基準値案では外部被曝分を計算外としています。しかし、線量限度の本来的な意味合いとしては内部被曝・外部被曝の総量が規制値を下回ることが当然であり、内部被曝のみの規制では実用的な数値とはなりません。
- 例えば、現在、空間線量は地域によって大きな差があります。空間線量が高い地域においては、低い地域に比較して、少しでも食物による内部被曝を低減させなければなりません。外部被曝の実態を考慮した、食品による内部被曝の規制が必要です。
2)日本人の食文化に合わせた細かい食品群の分類が必要です
- 今回の新基準値案では、飲料水・乳児用食品・牛乳以外の食品を「一般食品」として一括しています。しかし、食品には日常的に大量に摂取する物、そうでない物などがあるため、例えば米のように摂取量の多い食品は厳しい規制値を設定すべきです。日本人の食文化に合わせた細かい分類とそれぞれの規制値の設定をおこない、内部被曝を少しでも減らす努力をすべきです。
3)規制値や食品群の分類は継続して見直していく必要があります
- 今回発表された新基準値案は、あくまでも2012年度版の暫定規制値とすべきです。より詳密なモニタリング体制を強化するとともに、規制値の定期的な見直し(規制値の引き下げ、食品群の分類の見直し)などを継続しておこなっていくべきです。最低でも2年毎、できれば毎年の更新が望ましいと考えます。たとえ結果的に変更がない場合でも、新しい知見やデータをもとに見直し・検討を重ねていくべきです。
- 国の新基準値案を一歩前進として認めつつ、"一歩前進"であるがゆえに引き続き暫定規制値(あるいは2012年版規制値)として、国が検討を継続されることを強く要望します。
4)経過措置は設けるべきではありません
- 新基準値案の施行にあたり、「準備期間が必要な食品には、一定の範囲で経過措置期間を設定することが必要と考えられる」としていますが、ただでさえ対応が遅れている現状において経過措置の設定は容認できるものではありません。
- 「市場に混乱が起きないよう」に経過措置期間を設定するとしていますが、新基準値が施行された後も新基準値に適合しない食品が流通し続けることのほうがより大きな混乱を招くことになります。新基準値を超過する食品は事故の原因者たる東京電力ないし政府が買い上げるべきと考えます。
- 経過措置期間は設けないか、設けるとしても必要最低限とし、その際は経過措置を設ける根拠およびできるだけ具体的な品目群を明確にし、その旨を広く国民に周知する必要があります。
- なお、一般の生産者・製造者や流通業者は、取り扱うすべての商品・品目について放射能を確認できる状況にはありません。国や行政によるきめ細かい検査の実施、超過した場合の速やかな流通制限の指示、またその際の東電と国による賠償の制度が必要です。
5)セシウム以外の核種の調査を拡大すべきです
- 現在、ストロンチウムやプルトニウムなどについては、セシウム数値を元に算出しています。しかし存在率が一定の比率であるとの知見が少ないこと、想定外の場所で検出された事例があること、人体に入った場合に蓄積される場所や人体に与える影響が異なることなどから、独自の検査が必要です。
- 特にストロンチウムの発するベータ線、プルトニウムの発するアルファ線の人体の影響は、ガンマ線よりも影響が大きいといわれています。測定時間などの問題から、核種別に規制値を設けることは困難かもしれませんが、まずは現状を正しく把握することからはじめる必要があります。ストロンチウムやプルトニウムは民間では簡単に測定できませんので、セシウム以外の核種については国が計画的に調査と情報公開をすべきであると考えます。
3.規制値を担保するための調査・検査のあり方(検査機器/検査方法/公表基準など)
1)汚染状況の調査について/放射性物質の動態の把握が必要です
- 放出された放射性物質の動態は良くわかっていません。水の移動に伴って、特定の湖沼や河川が高濃度になるなど、想定外の動態があります。市街地・田畑・山林などの土壌、湖沼・河川などの水系を広範囲に調査し、放射性物質の動態を把握して対策を講じていく必要があります。
- 海洋については汚染状況の把握がさらに困難です。海の潮流を考慮した、魚種別の長期的な測定が必要です。政府・行政がおこなっている検査に加え、漁協への放射能測定器の普及をすすめ、漁業従事者自身による放射能測定なども積極的に拡大していくべきです。
2)食品の検査について/検査の標準化を図るべきです
- 放射性物質に対する食品の安全性を可能な限り確保し、国民の食生活を安定させるためには、流通規制値の設定だけでなく、それが正しく流通されていることを担保するための測定体制と情報公開が必要です。
- 現在、国や行政のほかにも、民間でも独自の検査が数多く行なわれています。また、消費者が直接食品を持ち込んで検査ができるサービスも現れています。
- しかし、それぞれが独自に検査をおこない、結果を公表しているため、検査機器の機種の呼称から、モニタリングサンプルの抽出方法、検査方法(測定時間など)まで不統一であり、消費者にとって検査結果が非常に判りづらく、比較しづらい状況となっています。機種や検査方法ごとにスタンダードマニュアルを明確にし、検査結果の標準化を図ることが必要です。
4.国民への説明ときめ細かな情報提供
1)検査結果の公開について/検査結果公開の標準化を図るべきです
- 前項の検査方法と同様に、検査結果の公開・表示についても標準化する必要があります。
- 今回の新基準値案では、年齢区分を別に設けたのは乳児のみとなっています。しかし半年ぐらいからは離乳食が始まり、1歳を超えるとほぼ親と同じ食材を食すようになります。小児期間について十分な配慮がされているとはいえません。
- しかし同一品目について、それぞれ年齢別・妊娠中などの規制値を設けることは実質不可能と考えますので、親が子供に与える食品を選択・コントロールできるよう、検査結果等のきめの細かい情報提供が不可欠と考えます。このためにも、検査結果の公開・表示についても標準化が必要です。
- 標準化にあたっては、「基準値未満を確認している」というような表示ではなく、検出数値を公開することが望ましいと考えています。検出限界値の明示も必要です。
2)暮らしに関する情報提供/放射能から身を守る生活指針を積極的に発信すべきです
- 放射能・放射線は、調理・食事の仕方や食生活、その他の生活習慣で、摂取や影響を減らすことができるとされています。外部被曝から身を守るための生活指針―年齢や個人差を踏まえた自主的防護策を考えられるための正しい知識の普及と数値の活用方法など-や情報提供の体制を、多様な専門家の知見を取り入れる形でなされることが望ましいと考えます。
5.今後の放射能対策の前進のために
1)外部被曝の低減
- 緊急の課題は外部被曝を低減させることです。現在も各地で除染作業がすすんでいますが、国の責任において中間貯蔵施設を確保し、高濃度地域を中心に、速やかに作業をすすめていかなければなりません。
2)第一次産業の再生に向けた政策
- 事故以降、東日本産の作物から検出される放射性物質は減少しています。しかし、自然界に放出された放射性物質の動態は良くわかっておらず、数年後に高濃度の放射性物質が検出されるといった可能性があります。地域や品目によっては規制値を上回る可能性があります。
- 今回放出されたセシウムが半減期を迎える約30年後、大人になった今の子ども達に、食と暮らしの基盤である日本の第一次産業を責任持って継承していくためには、東日本の第一次産業を崩壊させるわけにはいきません。
- 食の安全のためには厳しい規制値の設定が必要ですが、これは農業や漁業などを再生させていく政策がセットでなければなりません。資源を集中して最大限の除染の努力をすることが前提ですが、基準を越えてしまう地域については、保護策・支援策を講じ、生産基盤を維持・再生していくことが必要です。
3)長期的な医療・検査体制について
- 子ども達を中心に長期的な検査体制を構築していく必要があります。
- 現在、福島県において「県民健康管理調査」がスタートしましたが、より一層の充実を図って長期的な検査を継続し、必要に応じた対策(汚染の少ない地域へのリフレッシュ旅行・一時退避などの斡旋や支援など)を講じていく必要があります。また同時に、知見を増やして低線量被曝に対する研究の一層の深化、予防対策に反映させていくことが必要です。将来のリスクを過小評価して禍根を生まないためにも、詳密な疫学的調査の継続を強く望むものです。
食品と放射能問題検討共同テーブル
株式会社大地を守る会、株式会社カタログハウス、パルシステム生活協同組合連合会、生活クラブ事業連合生活協同組合連合会の4団体は、食品に含まれる放射性物質の規制値のあり方を共同で考える「食品と放射能問題検討共同テーブル」を発足しました。これは国の「暫定規制値」見直しを待つだけでなく、「あるべき規制値」について市民サイドでも検討しようというものであり、流通・小売業による自主基準の乱立に伴う消費者や生産者の混乱を避けることを目的としています。放射性物質に関する科学的知見の整理や検討のプロセスを公開することによって、開かれた基準検討をめざします。
食品と放射能問題検討共同テーブルのいままでの歩み
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