ピープル

「マルディ グラ」シェフ 和知さんちの朝ごはん Vol.6

毎朝、一杯の“おみおつけ”に元気付けられる

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小さなお椀一杯の中で、できることは無限大

おみおつけ。東京の下町にある私の実家では、お味噌汁をいつもそう呼んでいました。祖母はもっと縮めて“おつけ”と呼ぶことも。ふだん、この連載ではお味噌汁と書いていますが、今日は、親愛を込めておみおつけと呼びたいと思います。

じつは子供の頃、おみおつけがあまり好きではありませんでした。毎日、朝ごはんには祖母や母がきちんとこしらえたおみおつけがありましたが、「いらない」と言うこともしばしば。父が家に友人を呼ぶと、決まって宴会の最後に「うちのお母ちゃんのおみおつけは旨いんだぞ。食べていけ」と、母におみおつけを所望するのを見て、どうしてそんなに好きなんだろうと不思議に思っていたのです。

和知徹

定番の豆腐と油揚げ、長ねぎ。刻んで冷凍庫に常備している“みやの油揚げ”と、玉ねぎ、キャベツ、大根、菜っ葉など、そのときどきの野菜を合わせます。

社会人になると、ますますおみおつけから遠ざかり、年に数えるほどしか口にしなくなりました。それが一変したのは、結婚してから。「朝ごはんにおみおつけ、食べたい?」「そりゃあ、食べたいに決まってるよ」。そうか、そうだよね。じゃあ、がんばってこしらえますか、と始まった、毎朝のおみおつけづくり。

幸いなことに、お味噌は和知の実家から、おいしい手づくり味噌が送られてきます。少し塩分が強いので、これに甘めの麦味噌を適当に合わせて。出汁は、昆布と鰹節が基本。2〜3日に一度、まとめてとって冷蔵庫にストックし、料理に使います。飽きないように、具も豆腐やわかめなどの定番のほか、季節の野菜をいろいろと考えながら。そうやって、いざ自分でつくり始めたら、なんだかとても楽しくなりました。お椀一杯の中で、できることは無限大にあるんだなと。

そして、気がつきました。実家のおみおつけは、具のローテーションもほぼ決まっていて、いつも味が一定だったのです。変わらない味に仕上げる難しさも、今ならよくわかるけれど、当時はそれがつまらなくて飽きていたんだなと。自分でつくり始めてみると、体調や気分、入れる具の水分などでも、味の感じ方がまったく違います。それもまた、楽しいのですが。

和知徹 

暑くなると八丁味噌で赤出しもよくつくります。すっきりとしたおいしさ。この日は皮をむいた茄子を入れて、仕上げに粉山椒。

 何より、あったかい汁物が体に沁みるのです。二人ともお酒が大好きなので、夜はよく飲みます。朝起きて、だるいなぁと思っても、おみおつけを飲むと、じわ〜っと体に元気が戻ってくる。お互いに仕事が忙しくて、きちんと朝ごはんを用意できない日々が数週間続いたときは、煮干しで簡単に出汁をとり、冷蔵庫の野菜を適当に入れたおみおつけを食べて、ホッとして泣きそうになりました。以前、二人でフランスの友人のところへ遊びに行ったときもそう。列車が遅れて到着が深夜になってしまったのに、滞在先のマダムが熱々のポタージュをこしらえて待っていてくれました。そのありがたさとおいしさに、救われた気がしたものです。国は違えど、汁物には心身を回復させる力があるのだと思います。

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わが家の一汁一菜も、おみおつけが主役です

いま、巷では“一汁一菜”という言葉が注目を浴びています。私も土井善晴さんの本を読んで、また、一汁一菜がテーマの雑誌取材などもして、共感するところがたくさんありました。わが家は二人揃って食事できるのが遅めの朝ごはんだけで、和知が仕事中の夜は、一人で食べたいものを食べたい時間に食べるので、ずいぶんと気楽なほうだと思います。せめて朝ごはんだけはちゃんとしたいと思って、おみおつけとごはんの他に、おかずを3〜4品こしらえるようにしていますが、自分も忙しいときには、それがどうしても辛くて、プレッシャーになることも。何十年も、朝昼晩、3食つくり続けてきた祖母や母には、到底かないません。

先日、仕事先の編集部の方に、「和知家の一汁一菜はなんですか?」と聞かれました。そこで答えたのが、この組み合わせです。具だくさんのおみおつけと海苔巻き。いろいろおかずを用意する余裕がないときには、だいたいこのパターン。いつもおみおつけは極力シンプルにしていますが、こんなときは冷蔵庫を見渡して、入れられそうなものは何でも入れてしまいます。

和知家の一汁一菜は具だくさんのおみおつけと漁師巻き。今日のおみおつけはキャベツに玉ねぎ、葉ねぎ、乾燥えのきと油揚げ入り。いつもより大きなお椀にたっぷりとよそいます。これにきゅうりとみょうがの即席漬けを添えて。

海苔巻きは、甘い卵焼きと、醤油をまぶしたおかか入り。これには、漁師巻きという呼び名があります。江戸前の海苔漁師だった祖父が、いつも海へ出るときにお弁当として持参していたもので、こんなふうに切らずに1本のまま、ホイルに包んで持って行き、小さなべか舟の上で仕事をしながら片手でむしゃむしゃ頬張ったのだとか。祖父の漁師巻きには、おかかしか入れませんが、祖母が私たち孫の分には卵焼きを入れてくれました。今では和知の大好物でもあります。

もう一つ、どんどん暑くなるこれからの時季によくつくるのが、冷や汁。干物をすり潰して入れるなどいろいろなつくり方がありますが、わが家のはとても簡単。すり鉢でたっぷりの胡麻をすったところへ、グリルで軽く炙って香ばしくした味噌を合わせ、濃いめにとった煮干し出汁でのばします。ここにきゅうりとみょうが、しそ、豆腐を崩し入れ、氷も入れた冷え冷えの汁を炊きたてごはんにたっぷりかければ、食欲が落ちたときにもサラサラと進んで、夏バテも解消。

夏場は冷や汁の登場回数も多し。味噌を炙るときは、ホイルに薄く広げて魚焼きグリルの弱火で2〜3分焼くだけ。煮干し出汁をとるとき以外、火を使わずにできるので楽チンです。

 そういえば、和知が海外の旅から戻ってきたときなども、いつも最初にリクエストされるのはおみおつけ。ひと口すすって、「ああ〜〜〜」と唸っている顔を見て、私もようやく、「あー、無事に帰ってきた」と、ひと息つけるのでした。おみおつけを漢字で書くと、御御御付け。御が3つもついて、本当にありがたい食べ物なんだなぁと、しみじみ思います。

 

Text by 鹿野 真砂美
Photo by 和知 徹

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鹿野 真砂美
フリーライター。『dancyu』などの食雑誌ほか、レシピブックの執筆、編集を中心に活動中。『銀座マルディ グラのストウブ・レシピ』、『銀座マルディグラ流 ビストロ肉レシピ』、『銀座ロックフィッシュのストウブ・レシピ』(すべて世界文化社刊)の執筆と編集、『シャトー ラグランジュ物語』(新潮社刊)、『これだけで、ラクうまごはん』(新星出版社刊)の執筆協力など。
東京都江戸川区生まれ。父、母方の祖父ともに、江戸前の海苔漁師だった。物心ついたころから台所に立つのが好き。十代のころは両親が居酒屋を営んでいたので、家のごはんは祖母と支度をするのが日課。いま、朝ごはんでつくる料理の多くは「おばあちゃんの味」がベース。

和知 徹
「マルディ グラ」オーナーシェフ。世界中を旅して、そこで得たヒントを自身の料理で表現するのがライフワーク。雑誌掲載、テレビ出演ほか、レシピの著書、共著も多数。カフェやレストランのメニュープロデュースも手掛ける。

Mardi Gras マルディ グラ
東京都中央区銀座8-6-19 野田屋ビル地下1階
電話 03-5568-0222
営業時間/18:00〜23:00(ラストオーダー)、日曜休み
料理はアラカルトのみ。岩手県山形村産短角牛を使った1キロ超えのビステッカなど、豪快な肉料理はもちろんのこと、パクチーどっさりの香菜の爆弾など、個性あふれる野菜料理も人気。

 

大地を守る会編集部

大地宅配編集部は、“顔の見える関係”を基本とし、産地と消費地をつなぐストーリーをお届けします。