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1枚1枚丹精込めて

【NEWS大地を守る5月号】南風堂の石窯から

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400℃を超える石窯でわずか1分。発酵による気泡で生地が薄くなった部分が先に焼け、レオパードスポットと呼ばれる焼き目が浮かびます。黒く見えても苦みではなく、香ばしさをもたらす大切な表情。

ふっくらと膨らんだピザの耳に香ばしい焼き模様。ナポリピザのおいしさの証です。そんな自慢の生地に彩りをのせて20年。千葉県松戸市へ、南風堂の工房を訪ねました。

家で味わうしあわせを

吹く風に光が混じり、のびやかな空が広がる松戸市郊外の住宅街。県道から一本路地を入った奥に南風堂の工房はあります。小さな看板を掲げて営むそこは、もとは自宅の車庫だった場所。扉を開けるとわずか10坪の空間に、イタリア製の石窯が頼もしく構えていました。
大地を守る会でハレの食卓を飾るピザの作り手、南風堂は、2003年に江端正志さん(64歳)がお兄さんとともに開業したピザ工房です。当初は県内の別の場所でレストランとして始まり、2005年秋に通信販売用のピザ作りを開始。翌年には石窯を現在の場所に運び込んで、「店」ではなく、「家」で楽しむ冷凍ピザの製造を本格稼働しました。
「うちのピザは〝自宅で食べておいしいピザ〞。その中では一番だと自負しているんです」と江端さんは照れながら笑顔をほころばせます。そんな「家で本格」を追求したピザが生まれる場所を覗きました。

「私はしらす&桜えび。実家でも人気です」「僕は断然ジェノバ」「かぼちゃも、焼き芋もおいしいよね」。スタッフの皆さんのピザ談義が弾みます。後列中央が店長で取締役の江端正志さん。

香ばしくてもちもちの秘密

とんとんとん。作業台の前に立ち、生地玉を叩いては手のひらを上手に使って伸ばしていきます。この日、生地を扱うのは製造歴8年の加藤千典さん(41歳)。「手を置いた感じで厚みが分かる」と慣れた動作で形を整えたら、ソースを丸く広げます。するとすぐさま江端さんが隣から、生地の下にすっとピザショベルを差し入れて窯の中へ。
成形する人と焼く人。隣り合う職人の間に声なき声が響くように、生地を伸ばしては窯に入れ、窯から出してはまた入れてと、二人三脚でピザが焼き上がります。
ピザ作りの中心に据えられているのは、赤々と炎を抱えた石窯。床面の熱と上部の輻射熱が生地を一気に包み込み、400℃を超える高温で水分やうまみを逃がさず仕上げます。焼成時間は1枚たったの1分。
「これなんか非常にいい感じの焼き目ですね。たとえは変だけど、焼きちくわみたいでしょう(笑)」
江端さんが窯から引き出した焼き上がりのふちには、ナポリピザの世界で「レオパードスポット」と表現される斑点模様が現れています。
「もっと長く窯に入れればさらに焼き目は付きます。でも家であたためたときにかたくなる。なので数十秒短めに焼いて、自宅で火を入れられる余地を残しているんです」
最後の数パーセントを完成させるのは自宅。内側に水分を残し、表面パリッと、中はもちっと、「家でおいしく」仕上がるように計算しています。

生地を手で叩きながら広げます。厚みを手のひらで確かめながら素早く。
直径23cm前後を狙って円形に。サイズ感を「手が覚えている」と誤差は1cm以内。
焼き上げ1分の間に細やかに生地を動かす江端さん。まず一番熱い火のそばの左奥に入れ、膨らんだら反転させて右へと送り、変化する焼き床の温度を見極めながら均一に焼き上げます。

小麦が香る長時間発酵

あ・うんの呼吸で軽やかに焼き上げる舞台裏には、生地が育まれる長い時間があります。
生地の原料は北海道産の小麦粉と天然酵母、塩、水の4つ。これらを練り上げたら、145gずつカットして手で丸めていきます。1日目の生地玉は赤ちゃんの頬のようにやさしくやわらか。3日目、4日目と寝かせるにつれて、発酵による弾力が出てきます。ピザ生地の発酵熟成期間は一晩というところが一般的ですが、南風堂では3日以上も置くといいます。
「あるとき生地が余ってしまって、冷蔵でしばらく置いたもの、つまり低温で長時間発酵させたものを焼いてみたら香りの立ち方がまるで違ったんです。天然酵母の風味がまろやかになって、小麦の香りがふわっと広がる。さらに焼き色もきれいに付いた。この方向だと確信しました」
日々生地に触れ、変化を見逃さない感性で、常に味を磨いています。

小麦粉、天然酵母、塩、水を捏ねたら、重さを量って切り分けていきます。
切り分けた生地を1つずつ手で丸めていきます。表を内側に持っていき、空気を抜いてこんな形に。
7日寝かせたもの。高さがつぶれて横に広がります。発酵がすすんで弾力がしっかり。

素材を生かすナポリ流

小麦の甘みが広がる生地に、トマトソースとしらす、大葉だけ。隠し味にごま油が香ります。これが創業当時から評判の『しらすと大葉のピザ』。チーズを使っていないということに気付かず完食してしまうほど、うまみあふれる一枚です。南風堂のピザは、ソースもトッピングも、素材そのもの、あるいは素材から手作りするのが基本。その精神は、江端さんが開業前に通ったイタリアの料理学校で得たものです。
「アクアパッツァなら、材料は魚と水とハーブと塩、オリーブオイルだけ。なのに何でこんなにおいしくなるのかって驚いたんです。イタリアでは化学調味料や顆粒だしのようなものは使いません。材料は素材だけで以上終了、みたいなレシピをたくさん教わりました。それだけで本当にとてもおいしかった」
当時学んだレシピの中には、今もピザのトッピングとして作り続けているものがあります。『トマト煮込みの牛スネ肉』や『ラタトゥイユ』がその代表。どちらも材料はシンプルながら、うまみ豊かで、ピザとしても人気の一品です。余計なものを足さず、素材の声に耳を澄ませて手で仕上げる。その積み重ねが、確かな味につながっています。
トースターであたためるだけで、ナポリさながらの味を楽しめる南風堂のピザ。食卓に運べば、たちまち賑わいが訪れることでしょう。おいしく味わうこつは、「焼き過ぎに注意」、そして「焼いたらすぐ食べること」と江端さん。生地のおいしさを逃さず、堪能してみてください。

トースターであたためた『しらすと大葉のピザ』。ふっくらと盛り上がったコルニチョーネ(ピザの耳)にレオパードスポットが走り、火入れの妙がうかがえます。
トマト系のピザのソースは、ホールトマトに塩を混ぜるだけです。加熱せず、フレッシュさを大切にするナポリ流。
生地が焼き上がったらトッピング。大地を守る会でおなじみの、カネモのしらすをたっぷりと。
ソースのラタトゥイユも手作り。本場の家庭料理のように、素材を生かした味わいです。
イタリアから届いたゴルゴンゾーラの塊をカット。タレッジョチーズと合わせて『4種チーズのミニピザ』用のペーストを作ります。

COLUMN

国産小麦のピザは珍しい?

日本の小麦自給率は16%(※1)と低く、国内で消費される小麦の8割以上を輸入に依存しています。そのため、国産小麦で作られるパンやピザはまだ多くありません。特にパン用小麦は国産比率が8%(※2)にとどまり、ピザ生地に必要な強力粉は、たんぱく質量が低くグルテンが弱い国産小麦では「難しい」とされてきた面もあります。
南風堂では、イタリア産・オーストラリア産・国産など7 ~ 8種の小麦粉と3種の酵母の組み合わせを試し、香りと甘みが引き立つ北海道産小麦にたどり着きました。味を追い求めた結果でしたが、その選択は、国産小麦の需要を支え、日本の自給率向上につながる一歩にもなっています。

写真:寺澤太郎

南風堂のピザはこちら
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大地を守る会編集部

大地宅配編集部は、“顔の見える関係”を基本とし、産地と消費地をつなぐストーリーをお届けします。