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畑に育つうまみ

【NEWS大地を守る6月号】マッシュルームのなるほど

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収穫を迎えたブラウンマッシュルーム。最初は白い菌糸が小さな芽のようなかたまりを作り、それがすくっと立ち上がって、独特の形や味、香りが育っていきます。

西の空に月山を望む雪深い地で、マッシュルーム栽培に取り組む舟形マッシュルーム(山形県舟形町)。味も香りも濃厚と名高い滋味は、どのように育まれているのでしょう。そのおいしさの源をたどります。

日本のきのことどう違うか

「生で食べても甘みがあってとてもおいしい」「何に使ってもうまみが増す」「このマッシュルームのために、マッシュルームが主役のレシピを考えるようになりました」――。
ブラウン、ホワイトともに、舟形マッシュルームが作るマッシュルームには実に多くの声が寄せられています。サラダにすればしゃきしゃきと香り濃厚、炒めればこの上なくジューシーに。ひとたび口にすればその魅力に惹きつけられるものの、その卓越した味わいがどう育まれているか、知る人は多くありません。
「マッシュルームは、たい肥を栄養にして育つんです。畑から出てくるきのこなので、木で育つきのことは作り方が違うんですよ」
そう迎えてくれたのは、舟形マッシュルーム三代目の長澤大輔さん(37歳)。「菌舎」と呼ばれる栽培ハウスが立ち並ぶこの場所で、2024年から代表を務めています。
マッシュルームは、椎茸や舞茸といった日本のきのこと同じ仲間ですが、原産はヨーロッパです。日本のきのこの栽培方法は、主に「原木栽培」か「菌床栽培」。伐採木やおがくずなど、いずれも樹木の栄養を食べて育ちます。一方、マッシュルームは「たい肥栽培」。古代ギリシャの時代から、馬の寝藁が自然に熟したたい肥に発生した野生種を採っていたといいます。味の違いは、その〝土台〞から生まれています。

ていねいな手仕事でマッシュルームを届ける舟形マッシュルームの皆さん。中央が社長の長澤さん。
山間に佇む菌舎の中でマッシュルームが育まれています。

67棟の菌舎の畑で

舟形町の町内に2カ所、マッシュルームを栽培する菌舎が合計67棟も並んでいます。1棟の広さは42坪。菌舎の中には、5段の棚が天井近くまで重なり、きのこの畑が静かな森のように息づいていました。
長澤さんに案内されて畑に目を凝らすと、ぽつぽつと白い粒が見えます。これが種菌(たねきん)。植菌(しょっきん)したばかりの、まさに〝生命の始まり〞の状態です。次の棟を覗くと、畑に菌糸が伸び、表面がもやもやと白く見え始めています。植菌から2週間後の菌舎で、たい肥の藁の香りに、きのこのやさしい香りが混じり始めていました。さらに次の棟に入ると、空気が一気に湿り、肌にまとわりつく湿気を感じます。
「ここは〝ショック〞前の菌舎です。菌糸がしっかり広がっていますね。ふわーっと菌糸を纏っているように見えるのは、栄養生長の段階なんです。栄養を求めて菌糸が走っている状態。これを生殖生長に切り替える、つまり〝子孫を残すときだよ〞と促すために〝ショック〞を与えます。すると菌糸が寄り集まって芽を作る。芽が日に日に膨らんで、1週間ほどできのこになるんです」
長澤さんの言う「ショック」とは発生操作とも呼ばれ、外気を入れて温度とCO₂濃度を下げること。似た操作は他のきのこ栽培でも行われますが、温度差などの刺激で〝きのこが姿を現す〞という生態に、生物ならではの神秘が感じられます。
植菌から収穫まではわずか4週間。マッシュルームは生育が早く、菌糸は1日に1cmも伸び、発生が始まるとあっという間に大きくなります。67棟の菌舎で時期をずらしながら栽培しますが、1日に3トン、80g入りに換算すると約4万パック分を毎日収穫。その途方もない量に対し、直径3.5cm 以上になったものを一つ一つ人の目で見極め、傷付けないよう手でそっと摘んでいきます。

生長の過程でたい肥の上にのせるブラックピートモスという保水力の高い泥炭。こちらを被せて、 マッシュルームが育ちやすい「濡れた芝草」のような環境を畑に作ります。
植菌したばかりの状態。白く見えている粒が種菌です。
ショック(発生操作)を行う前の菌舎の培地。菌糸が縦横無尽にめぐっています。他の菌も共生していますが、マッシュルーム菌が優勢な状態。
発生操作を合図に、菌糸が意思を持つように寄り集まり、こんな形を描くとは驚きです。これはホワイト種。白と茶、それぞれの個性は種菌の違いから生まれます。
マッシュルームの傘の脇をやさしくつかんで採ったら、もう片方の手の指と指の間にそっと差し入れます。なるべく触らないように、静かに収穫が進んでいきました。
収穫したマッシュルームは軸を一つ一つカット。この軸も廃菌床とともに肥料に活用されます。

有機は目的ではない

舟形マッシュルームは2001年に創業し、2018年に有機JAS認証を取得。マッシュルーム生産者として、日本で初めてこの認証を受けた先駆けです。けれども、「大切にしているのは、有機という看板よりも、農業などの副産物からおいしくて安全なマッシュルームを作ること」と長澤さんは話します。
その姿勢は、畑の基礎となるたい肥作りに表れています。たい肥の原料は競走馬のトレーニングセンターの麦藁や近隣の有機農家の稲藁、鶏糞、コーヒーかす、石膏。これらを混ぜて酸素を含ませると、微生物が一斉に働き出し、藁を分解する熱で内部は自然と高温になります。火を使わなくても80℃もの温度に達するこの〝発酵熱〞が、雑菌を処理し、きのこが育つ環境を整えます。
「たい肥に使う藁やコーヒーかすは、食べ物ではないもの。そこからプロセスを経てアミノ酸やたんぱく質が生まれ、食べ物へと変わっていく。その仕組みに価値を感じているんです。食べ物じゃないものから食べ物ができる。あらためて、すごいことだと思います」
こうした考えの根っこには、長澤さんの幼いころの記憶があります。祖父母が冬場の仕事として、稲刈り後の藁を集めてマッシュルームを育てていたこと。雪深いこの地域では、昔から農家が藁を生かしてきのこを育ててきたこと。身近な素材を資源として循環させる営みが、暮らしに息づいていたといいます。
菌舎をめぐりながら、長澤さんが摘んでくれたマッシュルームを口にすると、「肉厚で身が詰まったものを作りたい」という思いをそのまま映すように、甘く、みずみずしく、力強い味わいでした。畑のそばにある素材を生かし、微生物の働きでゆっくりと〝食べ物〞へと育てていく。その積み重ねが、うまみにつながっているのだと感じます。
誰もが知っているようで、実は知らないマッシュルームのこと。和名の一つが「西洋まつたけ」だそうで、日本のきのこの代わりに炊き込みごはんや味噌汁に入れてみると、だしとしても具材としても存在が際立ちます。普段の食卓で味わってみてください。

発酵熱で80℃に達したたい肥を確認する長澤さん。たい肥は熟して茶褐色に。
舟形マッシュルームが営むレストラン「マッシュルームスタンド舟形」のランチ。ハンバーガーには大きく生長したジャンボマッシュルームのソテー、ピザには生のマッシュルームのスライスを好きなだけのせて。マッシュルームの魅力に開眼するおいしさ。

COLUMN

廃菌床も活用!?これこそ循環型農業

マッシュルーム栽培の現場では、収穫を終えると、畑の土壌(培地)はその役目を終えます。これらは「廃菌床(はいきんしょう)」と呼ばれ、一般的には廃棄物として処理されることが少なくありません。舟形マッシュルームでは、「有機物を無駄なく使っていきたい」と、年間5,000トン規模で排出される廃菌床に、70℃の低温殺菌処理と熟成工程を施し、近隣農家の肥料として還元しています。それを使用しているのが、大地を守る会のパプリカなどの生産者、戸沢村生産グループ(山形県戸沢村)です。地域で生まれ、地域を育てる資源の循環が成立しています。

戸沢村生産グループのパプリカ畑。舟形マッシュルームの廃菌床の肥料を使っています。

写真:寺澤太郎

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大地を守る会編集部

大地宅配編集部は、“顔の見える関係”を基本とし、産地と消費地をつなぐストーリーをお届けします。