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【NEWS大地を守る7月号】清らかに育つ

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奈半利川の地下水で育つ西岡養鰻のうなぎ。流れに身を任せてのびのびと泳ぎます。元気がないと逆方向に泳いだり、食が細くなったり。小さな変化を見逃さないよう常に目を配って育てます。

高知県の東部を流れる奈半利川(なはりがわ)。澄んだ流れには、はるか遠く赤道付近からうなぎの稚魚が上ってきます。奈半利川のほとりでこの稚魚を育てる西岡養鰻(高知県田野町)を訪ねます。

水の力に引き寄せられて

冬の新月の晩。奈半利川(なはりがわ)の河口に、きらきらと透き通るうなぎの稚魚が姿を見せます。これがシラスウナギ。体長はまだ5cmほどです。
「うなぎの稚魚は、山深い川にしか寄ってこん。奈半利川は、四万十ほど知られてないけんど、利き鮎会で日本一にもなった川(※1)。上流には手付かずの森が残っちゅうき、山の養分が溶け出して、水に力があるがですよ」
のびやかな川景色が広がる場所で迎えてくれたのは、西岡養鰻(高知県田野町)の代表・西岡丈豊(たけとよ)さん(56歳)。2017年に養鰻業を始める前は、シラスウナギ漁に長く携わってきたという、うなぎの目利きです。西岡養鰻では、この川で揚がった稚魚を仕入れ、すぐ隣の養鰻場で育てています。養殖池を満たす水もまた、奈半利川の地下水。銘木・魚梁瀬杉(やなせすぎ)を育む馬路村(うまじむら)から山を伝って湧き出る、豊かな伏流水です。
では、なぜ新月の晩にシラスウナギが獲れるのでしょうか。ガラスのように透明な稚魚は、月明かりのもとでは水鳥などの天敵に見つかりやすく、泳ぐ力も弱いため、大潮に乗って川へ運ばれてくるそうです。さらにこの稚魚たちは、太平洋の沖で孵化し、数千kmを旅して奈半利川にたどり着くのだといいます。その果てしない道のりを思うと、私たちが口にする一匹がどれほど貴重なものか、気付かされることでしょう。

奈半利川の河口。奥に見えるのが土佐くろしお鉄道の鉄橋で、西岡養鰻はこの袂にあります。
奈半利川の地下から地下水をくみ上げています。豊富な水が養鰻には不可欠。
西岡養鰻の皆さん。中央が丈豊さん。

育ちを支える池作り

「私ら人間はうなぎの邪魔をせんと、ただ環境を整えるだけ。うなぎが本来持っちゅう力で育っていけるように、手を貸すだけなんです」
西岡さんは「うなぎの活性が何より大切」と話します。活性とは、うなぎがよく動き、よく食べ、よく育つ状態のこと。そのために欠かせないのが、池と飼料です。養殖池を覗くと、水の色は深い茶色。
「これがいい池の状態。焙煎したような香ばしいにおいがしゆうでしょう。善玉菌が働きゆう証拠やき」
養鰻業と並行してなす農家も営む西岡さんは、「池の水作りは、畑の土作りと同じ」と言います。
夏の終わり、出荷がひと段落すると池を空にし、底の泥をしっかり乾かす。続けて窓を閉め切って数日蒸し、池を〝リセット〞したところに地下水を張る。こうして整えた水は、微生物が動き出すにつれて茶色味を帯び、うなぎが過ごしやすい〝生きた水〞へと育っていきます。 この日は朝6時にエサやりが始まりました。飼料を入れると、うなぎが勢い良く寄ってきます。
「うなぎはしゃべらんき、こっちが察してあげんと。エサには『美丈夫』(田野町の地酒)の酒粕を混ぜゆう。腸にいい思って試したら、調子が良うなったがよ」
「養殖」というと人工的な飼育と思いがちですが、西岡さんのやり方は自然の営みに手を添える形。稚魚は川から揚がり、水は地下水、投薬も行わない。うなぎの力を引き出す養鰻です。

池の水が茶色なのは、栄養豊富な証拠。うなぎを育てながら、水も育てるのだそうです。
ハウスの中に設えた養殖池は全12カ所4,980㎡。中はぽかぽかとやさしい暖かさです。
養鰻歴5年、丈豊さんの長男・西岡直哉さん(26歳)が朝のエサやり。「うなぎは繊細で、ちょっとした水質の変化でも体調を崩してしまいます。状態をよく見てあげることが大事」。
魚粉に酒粕と乳酸菌を混ぜた飼料。つみれのような良い香りがしていました。
飼料への食い付き具合が元気の目安。調子が悪いときは量を減らして様子を見てあげます。
出荷のために一度うなぎを池から出す“池上げ”中。大きいうなぎを選別して、成長が足りないうなぎは池に戻します。
1匹200g以上のものを一瞬で選別。長年の経験が光ります。

ふっくらやわらかの秘密

箸を入れるとほろりと崩れ、口に運べばふっくら、皮はパリッと香ばしい限り。骨も臭みも感じられず、素直なうまみが広がります。
西岡養鰻では、毎年土用の丑の日に、田野橋の横に立つ屋台でうなぎの販売を行いますが、評判を聞きつけた人たちで、長蛇の列ができるそうです。また、高知市内の百貨店のレストランでは、白焼きを白ワインでいただくスタイルが人気を呼び、地元の方々が集います。
「西岡という自分の名前で売るからには、嘘はつけん。一匹でも納得いかんかったら出さんがです」。そう誇るおいしさの理由の一つは、うなぎの〝若さ〞。うなぎは一般に2年かけて育てるところもありますが、西岡養鰻では約1年。水温を高めに保ち、活性を上げることで、骨も皮もやわらかいまま出荷を迎えます。焼き台にのせると、若いうなぎ特有の軽い脂がじゅっと上がるといいます。
もう一つは〝メス〞だということ。うなぎの性別は、生後2〜3カ月ごろの環境で決まりますが、一般の養殖場では9割以上がオスに。メスはオスよりも大きく成長し、脂がのって皮がやわらかいのが特徴です。西岡養鰻では、大豆由来成分を与えることでメスに育てる養殖技術を取り入れており、これにより多くがメスになるそうです。
ご承知の通り、ニホンウナギは絶滅危惧IB類(EN)に指定されています。絶滅の危険度を表すランクの中では、上から3番目に深刻なステージにあたります。この事実を思うと、食べるのを躊躇することもあるでしょう。しかしだからこそ、どこで育ったか、分かるうなぎを選ぶことが、持続可能な養殖に取り組む生産者を支援し、未来のうなぎを守ることにつながります。
西岡養鰻では、売り上げの一部を『緑の募金』に寄付。弊社でもうなぎの資源保護・回復を目的とした『ささエールうなぎ』の活動に売り上げの一部を活用しています。
「うなぎは山のミネラルを感じて奈半利川に来てくれる。山の緑を守ることが海を、魚を守ることにつながっちゅう。山に恩返しせんと」と西岡さん。山と川と海がつながるように、西岡養鰻のうなぎ作りもまた、ひとつの循環を生んでいます。

実家が鮮魚店という丈豊さん。「うなぎに悟られないように」手際良く捌きます。
焼くそばから脂の甘い香りが広がります。製造工程は丈豊さんの弟で料理人の賢次さん直伝。間に蒸す工程を挟む関東風に近い作り方です。
蒲焼きをうな丼に。肉厚でふっくら。

COLUMN

「国産うなぎ」ってどこまで国産?

うなぎのパッケージには「国産」「中国産」といった原産国が表示されていますが、ここに書かれているのは「どの国で最も長く養殖されたか」という情報だけです。食品表示基準では原産地の表示義務はありますが、稚魚の原産地までは示されません。
実際、2024年のうなぎの国内供給量のうち、輸入が70%以上を占め、国内養殖は30%以下。その国内養殖に使われる稚魚の半分以上は海外由来で、「純国産」(国内で獲れた稚魚を国内で育てたうなぎ)、全体の約11%にすぎません(※2)。西岡養鰻のように、稚魚から一貫して国内で行う生産者はごくわずかなのです。

「皮をカリッカリに焼くのが高知流。白焼きがうまいんです!

おいしいうなぎ屋さんは、皮がカリッとしているのが高知流。特に白焼きがほんとうにおいしいんです。オーブントースターでも魚焼きグリルでもいいんで、焼いていると脂がじゅわっと浮いてくる。揚げた状態みたいになって、こんがり焼けたら最高です。うちの白焼きは、焼き加減を少し手前で止めゆうき。家で焼くときに焦げんようにね。ぜひ、自宅でカリカリに焼いて、わさび醤油か塩で食べてみてください。九州の甘い醤油もよう合いますよ。

西岡養鰻 西岡丈豊さん
こんがり焼くと脂も美味!

※1 2022年高知県友釣連盟主催「第23回清流めぐり利き鮎会SPG」(鮎の品評会)で奈半利川の鮎がグランプリを受賞
※2 出典:「ウナギをめぐる状況と対策について」/水産庁(令和8年3月)
https://www.jfa.maff.go.jp/j/saibai/attach/pdf/unagi-265.pdf

写真:寺澤太郎

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大地を守る会編集部

大地宅配編集部は、“顔の見える関係”を基本とし、産地と消費地をつなぐストーリーをお届けします。