
使うのは、植物性の素材だけ。森の静けさのとなりで「ビオクラ」のスイーツは作られています。山梨県北杜市へ。やさしい味わいが生まれる工房を訪ねました。
八ヶ岳の麓で20年
小淵沢駅から車を走らせること10分ほど。八ヶ岳南麓の静かな森に囲まれて、ビオクラの小さな工房が佇んでいました。窓の外には木々の葉がさらさらと揺れ、都心よりも一段淡い高原の緑。自然豊かなこの場所で、3人のパティシエがスイーツ作りに励んでいます。
アルソア慧央(けいおう)グループは化粧品の会社として1972年に創業。1998年に自然との調和、共存を体現するために東京・渋谷から現在の場所に本社を移しました。その際には、何と社員も移住。当時は住まいを探すために貸切バスで山梨を訪れたそうで、自然の中で暮らし、働き、その価値を発信するという覚悟のもとだったといいます。そして、移転と同時に「体の内側からもきれいに」という思いで開設したのが、マクロビオティックの考え方に基づいた社員食堂。ここでの取り組みを原点に2007年にはヴィーガンケーキの販売を開始し、のちの食品ブランド・ビオクラの誕生へとつながっていきました。
マクロビオティックとは、穀物や野菜、豆などの食材を中心に、「陰陽」の調和を図る食生活法です。ビオクラは動物性食材や精製された砂糖を使わないといったその考え方にならいつつ、自らの基準を設けて植物性素材の菓子作りを実践しています。


チーズらしさを求めて
ざくざくっとしてほろり。土台はしっかりとした焼き加減のタルトに、香ばしいアーモンド生地。ホイップクリームのやさしさに包まれながら、有機いちごの甘みと酸味、発酵のニュアンスが溶け合って、すーっと喉の奥へ消えていきます。
甘すぎず重さもない、かすかな余韻。あまりの満足感に、これがチーズを使わないチーズケーキだと気付く人は少ないでしょう。『たっぷり苺のレアチーズ風ケーキ(豆乳クリーム使用)』の原材料は植物性の素材だけ。卵も乳製品も使っていません。
「たぶん皆さん、ショートケーキはこんな感じ、チーズケーキはこうっていうイメージをお持ちだと思うんですよね。クリームは白くてなめらかで、スポンジはふわっとして黄色っぽい。そうした味、食感、見た目の印象を、皆さんの持ってるイメージにいかに近付けるか、そこを大切にしたいんです」
ビオクラ誕生以来、開発製造を担ってきたチーフパティシエ・小倉勝弘さん(60歳)が、やさしげな笑顔で話します。イメージ通り、もしくはそれ以上のチーズケーキ。その核となっているのが、層の一つとして重ねるチーズクリームです。
「植物性のチーズ風クリームを作る場合、普通はレモンで酸味を整えることが多いと思うんです。でもレモン果汁だけだと単なるレモン味になってチーズ特有の発酵感には至らない。うちは豆乳ヨーグルトをベースに、レモン果汁と白ワインビネガー、そして、みりんの組み合わせで発酵感を出しています。酒粕や麹も試したんですが、主張が強くなりすぎてしまうんですよ」
チーズケーキにみりんという異色の隠し味。和の調味料が酸味の角を丸め、発酵の風味を支えています。
「もう一つ、チーズケーキを食べると、ねっとりとした口当たりを感じるでしょう。あのクリーミーな食感をどうしても表現したかったんです。葛を炊くと、粘りが出ますよね。そこにココナッツ油を足してなめらかさを出していくんです。初期のころは、ゆるくなったり、冷解凍するとざらついたり。何度も油の量や熱し具合を変えて試しましたね」







植物性ならではのおいしさ
使える材料は植物性のみ。だからといって、卵や牛乳を豆乳に、バターを植物油にといった単純な置き換えだけでは、このクオリティーにはたどり着きません。たとえばタルト生地の場合、豆乳・なたね油・てんさい糖シロップを使いますが、粉に対してどの程度の割合にするか、目指すイメージに到達するまでは脆すぎたり、かたすぎたり、油っぽかったり。何十回と試作した末に、ざくざくっとした食感の配合が生まれました。
デコレーションを施す豆乳ホイップクリームも、生クリームに近い口どけを叶えるために改良を重ねてきた三代目。豆乳とココナッツ油をなめらかに合わせ、体温ですっと溶ける油の特性を利用することで、口どけが実現しています。
1g、また1gと細かな調整を重ねるうちに、一つのケーキの形が整っていく。目指すイメージを追い続けてきた結果、「植物性だから」だけでなく、「おいしいから」選ばれる味へと結実しました。従来のケーキと比べて異なる点を唯一挙げるなら、それは後味の軽さでしょう。試行を積み重ねた先に生まれたのは、植物性だからこそ成し得た清らかなおいしさです。


ともに囲む幸せを
「僕自身、豆腐を使ったホイップクリームや寒天でかためたプリンに抵抗があったんです」。開発を手掛けてきた小倉さんが話します。
「クリームだと思って食べたらお豆腐の味がする。食感が違う。そうしたことを何とか打破したかった。自然に〝おいしい〞って感動してもらいたいですからね。スイーツってお誕生日会やクリスマスとか、特別なときに食べることが多いですよね。そこで同じものが食べられないのは、子どもながらに寂しいと思うんです。アレルギーのあるなしに関係なく、家族や友だちと同じものを囲んで〝おいしいね〞と言えることが、何より大きい。僕としては、そこをどうにか笑顔にしたいと思っています」
スイーツ工房ができて間もなく20年。ビオクラのもとには、「今まで誕生日ケーキを食べられなかった子どもが、みんなと一緒に喜ぶ姿を見られてうれしかった」という母親からの声も寄せられています。
地道な開発の道のりを越えても作り上げたいという思いの底には、食卓に笑顔をもたらしたいという願いがありました。植物性かどうかではなく、ただ〝おいしい〞と感じてもらえる味へ。静かな努力が、この一台のケーキに宿っています。


生産者の食卓より
社員じゃなくても入れます。玄米ごはんの社員食堂、予約して来てくださいね
会社が東京・渋谷からここ小淵沢に移転したときに、社員ごと引っ越しをしたんです。それとともに「まずは社員から健康に」という考えで、この社員食堂「ザ・ガーデン」もできました。予約制ですが、社員じゃなくても入れますので、ぜひお越しください。「ベジプレート」「魚プレート」があって、木曜日はサラダがデザートに代わります。ごはんは玄米か白米を選べますよ。
▼詳しくはホームページをご覧ください
https://www.arsoa.co.jp/thegarden/

写真:寺澤太郎
大地を守る会のケーキはこちら
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