
『パックスナチュロン』シリーズでおなじみの太陽油脂(神奈川県横浜市)を訪ねました。石けんシャンプーのやさしさの秘密を伺い、「洗うこと」について考えます。
すっきり洗えていい香り
きめ細かい泡に包まれて、洗い上がりは肌に残らず、すっきり。『パックスナチュロンシャンプー』をお使いの方は、その心地よさをご存じのことでしょう。
「家族みんなこの香りが好き」「男性の皮脂もすっきり洗えるので、夫の指定になっています」「それまでのシャンプーが合わなくなり、使い始めて20年。洗浄力も十分です」などの声が寄せられ、暮らしの中で愛されている様子が伝わってきます。
皆さんが共通して仰るのは、やさしい使い心地ということ。すっきり洗えるがしっとり。良い香りだが強過ぎない。その〝程よい〞やさしさはどう生まれるのでしょう。
人にも地球にもやさしく。そんな暮らしに向かう一歩として、石けんの特性を知り、付き合い方を工夫してみませんか。太陽油脂で石けん製品の普及に努める皆さんにお話を聞きました。


毎日のシャンプーがどう作られるか
神奈川県横浜市。かつての港町の風情が残る運河に面した場所に、太陽油脂の本社工場があります。普段何気なく使っているシャンプーがどのように作られるのか。まずは『パックスナチュロンシャンプー』の製造現場を見せていただきました。
「シャンプーを作るには、まずベースとなる液体石けんから作るんです。これが成分表示(※1)にある〝カリ石ケン素地〞ですよ」と営業部の金井秀之さん。
大きな釜の中では、水・油・アルカリが撹拌され、透明だった液面に白い泡がふわふわと立ち上がってきました。これが、油とアルカリが反応する「けん化」の始まりです。
「今日は反応が早いですね。天然由来の油が原料なので、同じことをやっても毎回違うんですよ」
釜いっぱいに泡が上がってきたら、水を打ち、7〜8時間撹拌して一晩寝かせる――昔ながらの「炊き込み法」と呼ばれる製法です。ここで油脂がアルカリと反応して、洗浄力を持つ物質に変わっていきます。
完成までは丸二日。石けんの製法には短時間で作れる「中和法」もありますが、炊き込み法では油脂に元来含まれるしっとり成分・グリセリンが自然に残ります。
「石けんの歴史の始まりも同じ原理なんですよ」と金井さん。「古代ローマの時代に羊をお供えした際、〝汚れが落ちる土〞ができたそうなんです。お肉を焼いた脂と灰が反応して、石けんのようなものができた。灰はアルカリの役割で、釜の中で起こっている反応も、同じことなんです」
昔の人はかまどの灰で食器や衣類を洗っていたとも聞きます。そんな暮らしの知恵から遠くない作り方により、油脂から「洗う力」と「うるおい」を引き出しています。



食べられる油で
石けんシャンプーの要は、油。原料がシンプルなだけに、その質が仕上がりに直結します。どのような油を使っているのでしょうか。
「太陽油脂は食用油の事業から始まった会社なんです。ですので、石けん製品もすべて植物油脂から作っています。同じ油で食用加工油脂も飼料も作りますが、原料は皆、〝食べられる油〞なんですよ」
使用済みのてんぷら油など、廃油には不純物が混ざるため、使うのは新鮮な油です。『パックスナチュロンシャンプー』には、スペインやイタリア産のひまわり油を使用。人の皮脂にもあるオレイン酸を含むため、肌になじみやすい性質があるといいます。
食べられる油というと、一見ぜいたくに感じますが、余計なものが混じらず、石けんにしたときにもその性質が素直に働きます。肌や髪に直接触れるものだからこそ、原料の確かさが大切にされているのです。



スモールステップから始めよう
「石けんは使うのにも手間がかかるんです。その手間をぜひ乗り越えてほしいですね」。営業部の大橋貴理さんが話します。
「石けんシャンプーは合成シャンプーと比べて、泡立ちが物足りなかったり、髪のきしみを感じたり、石けんかすが出ることもあるんです。最初のうちはその違いに戸惑う方もいると思います。でも、これは石けんの特性によるもの。専用のリンスを使う、汗を流してから洗うなどで上手に付き合うことができます。使い続けていくと、石けんの良さがだんだん分かってきますよ」
ほかにも、石けんには水に薄まりやすいという特徴もあり、これが環境へのやさしさにつながっているといいます。石けんは水に触れると界面活性作用(汚れを落とす力)をすぐに失うため、洗浄力は長く続きません。泡切れが良いのはそのためで、薄まった石けんは、微生物によって短い期間で分解が進みます。
これに対して、合成洗剤の多くは石油由来で、微生物による分解に時間がかかります。水に溶けても洗浄力が弱まりにくいよう設計されているため、石けんよりも〝しっかり洗える〞と感じる方が多いのです。
こうした性質の違いは、かつて社会的な問題にもなり、1970年代には日本各地で合成洗剤の使用を見直す「石けん運動」が起こりました。
特に滋賀県では、〝近畿の水がめ〞と呼ばれた琵琶湖が濁り、河川には合成洗剤の白い泡が見受けられました。そんな当時の光景を覚えている方もいることでしょう。
時を経て現在、下水道の普及や排水規制の強化、合成洗剤の改良によって、日本の水質はかなり改善しました。一方で、香りを長持ちさせるために香料を閉じ込めた微小な合成ポリマー粒子(香料マイクロカプセル)を使う製品が登場し、新たな課題も生まれています。このマイクロカプセルは、欧州では洗剤・柔軟剤・化粧品などで「意図的に添加されたマイクロプラスチック」として規制対象となっており、環境中への流出が国際的に議論されています(※2)。新しい課題が見えてきた今、自然に還りやすい石けんの価値があらためて見直されています。
私たちは日々、顔や髪を洗い、食器を洗い、洗濯をしてと、〝洗う〞ということを幾度となく行っていますが、その洗浄剤がどのように作られているのか、意識することは多くないでしょう。自分が使った洗浄剤が、どこへ向かうのか。毎日の〝洗う〞を考えることが、私たちができる環境への配慮かもしれません。

※1 パックスナチュロンシャンプーの成分
水…軟水
カリ石ケン素地…ひまわり油等の植物油
に水酸化カリウム(鉱物由来のアルカリ)を反応させて作った液体石けん
グリセリン…石けんを作る過程(けん化)で生まれる保湿成分
トコフェロール…大豆や菜種などの植物油由来で酸化防止のために配合するビタミンE
香料…ローズマリー、ラベンダー、ユーカリ、オレンジなど、植物の葉や果皮から抽出した精油を原料とした香り
クエン酸…トウモロコシなどのでんぷん由来で、アルカリ度(洗浄の強度)を調整するpH調整成分
※2 参考:環境省「マイクロプラスチックに関する国際動向」(令和7年公開)
https://www.env.go.jp/content/000354340.pdf
COLUMN
石けんかすは自然に還るの?
石けんを使ったときに「石けんかす」と呼ばれるものができます。これは石けんの成分が、水道水のミネラル(カルシウムやマグネシウム)と結びついてできた、水に溶けない白っぽい物質です。一見汚れに思えますが、川や海に流れると、もともとは植物などの「油」であるため、生き物たちにとっては貴重な栄養源となり、微生物や魚のエサになります。石けんかすを栄養にした生き物が、回り回って食卓にのぼり、あるいは自然に還って土壌を育む。そこからまた植物が育ち、油が採れ、新しい石けんが生まれる。石けんかすは、自然循環の一つのピースといえるでしょう。
はじめての石けんシャンプー Q&A
石けんシャンプーを使って3年という太陽油脂 営業部・宮島 葵さんに、使い方のコツを伺いました。宮島さんのルーティンは、❶ブラッシング → ❷お湯で予洗い → ❸シャンプー → ❹リンス → ❺タオルドライ → ドライヤー。特に「予洗い」と「専用リン ス」の2つが大切だそうです。
Q1 洗い上がりがキシキシしてしまいます。どうしたらいいですか?
A 専用リンスで“中和”することが大切です。
石けんは弱アルカリ性のため、きしみや広がりを感じることがあります。クエン酸系の専用リンス(※)でアルカリを中和すると、髪が落ち着き、まとまりやすくなりますよ。
※『パックスナチュロンシャンプー』には『パックスナチュロンリンス』を使用
Q2 今一つ泡立ちが弱い気がします。
A まず“予洗い”をしっかり行いましょう。
石けんは皮脂や汗が多い状態だと泡立ちにくく、ベタつきが残りやすくなります。シャワーで1分ほど、頭皮を中心にしっかり流してから使うと、泡立ちが安定します。泡がヘタるときはシャンプーを足して泡で洗い上げましょう。
Q3 ときどき髪に白いものが残ることがありますが、これは何でしょうか?
A 水道水の硬度や汗・皮脂の残りが影響しています。
石けんが水道水のミネラル(カルシウム・マグネシウム)と結び付くと「石けんかす」ができます。硬度が高い地域では出やすく、汗や皮脂が残っている場合も同様です。予洗いをていねいにすること、専用リンスで中和することで軽減できます。
Q4 カラー剤が落ちてしまうのでは? と心配になります。
A 一般的なカラー剤とは相性が良くありません。
石けんは弱アルカリ性のため、酸化染毛剤(一般的なカラー剤)とは相性が合わず、色落ちが早くなることがあります。太陽油脂では、石けんと相性の良い「ヘナ」をおすすめしています。
Q5 石けんシャンプーを続けるコツはありますか?
A “スモールステップ”で慣れていきましょう。
最初は使い心地に戸惑うことがありますが、予洗い、使用量の調整、専用リンスという3つを意識すると、石けんの良さが感じられます。手間を乗り越えると、やさしさが返ってきますよ。
写真:寺澤太郎
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