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一年かけて米から菓子を

【NEWS大地を守る9月号】稲から自分たちで

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三和農産の米作りを担う農産部門の皆さん。自転車のような乗り物は、水田に水を巡らせるために溝を作る乗用溝切機。右手の田んぼでは合鴨が除草に励んでいます。

昔ながらの玄米おかき『いづも美人』を、もち米の栽培から手掛ける三和農産(島根県出雲市)を訪ねます。担い手は、人と、田んぼの生き物たち。

田んぼの仲間と育む

合鴨たちは、泳ぎ方を覚えたころでしょう。田植えから1カ月。水田の静けさの中に、まだ幼さの残る声がぴぃぴぃと響きます。
「草の芽をついばんでくれたり、水を掻いて濁らせてくれるんです。結果として雑草が大きくならない。合鴨は、田んぼの仕事を手伝ってくれる仲間なんですよ」。代表の渡部祐三(わたなべゆうぞう)さん(52歳)が、おだやかに目を細めて合鴨の動きを見守ります。
島根県出雲市。斐伊川(ひいがわ)からほど近い社屋から車で向かった先に、青々とした田んぼが広がっていました。三和農産では、この場所を含む合計26haでうるち米・もち米・黒米を栽培し、8割の圃場で有機JAS認証を取得。農薬や化学肥料に頼らず、種もできる限り自家採種し、昔ながらの方法で米を育てています。そして、その米で餅を搗き、餅からおかきを作っています。日常のお菓子であるおかきを、稲の種採りから一年かけて作っているのです。

生後ほどなくして放った田んぼ歴1カ月の合鴨。夜は小屋で休み朝6時の朝食後に田んぼへ出ていきます。時折戻って羽繕いをして18時には夕食。「除草のお給料代わりにエサをあげてる社員みたいな存在」とやさしく見守ります。
『古代米入り』には原種に近い長粒種の黒米が入っています。

草との向き合い

「除草って言葉は簡単だけど、重みは何倍もあるんです」と渡部さん。除草剤に頼らずに水稲栽培を行う場合、避けて通れないのが雑草対策です。見渡す限りの青田に、稲だけが都合よく育つわけはなく、生命力の強い草が次々と現れます。
「雑草のほうが多いぐらいですね。半々かな。あの背の高いのが稗(ひえ)なんです。このぐらいなら問題ないですが、増えると厄介ですね。水や養分も取られて、実りが減って粒も小さくなる。なので稲が草負けしない程度に刈り取ってあげます。田んぼも人の体と同じ。悪玉を一掃するんじゃなくて、善玉が悪玉に負けないバランスに持っていくんです」
雑草、害虫と区別するのは人間であって、皆、自然界の生き物です。
「草も虫も全くない田んぼって好きじゃないんです」と、作業の手を止めて農産部門のリーダーを担う野間健史さんが微笑みます。稲の成長を阻む草を見分け、腰を屈め、「僕らは稲が健やかに育つように補助するだけ」と、黙々と草刈りに取り組んでいました。

紙マルチのすき間から伸びる雑草を見分けて手刈りの作業。
溝切りの作業中。目線の先を一畑電車が通り過ぎていきます。
稲の大敵・カメムシを食べてくれるカエルも田んぼにいます。

しっかり玄米の味

こうして育てた米は、玄米のまま餅にし、揚げおかき『いづも美人』になります。原材料は米、なたね油、塩だけです。
「どうせお菓子を召し上がるんだったら安心して食べられるものがいいですよね。『いづも美人』は素材3つだけでできているのでね。それってなかなかないんです」と渡部さん。すでにおいしさを知る方は、「確かに」と頷くのではないでしょうか。パッケージの裏面には「もち玄米、菜種油、食塩」とありますが、内容を紐解くと、米は自社栽培、なたね油は非遺伝子組み換えの一番搾り、味付けは沖縄の海の塩という顔ぶれ。
会員の皆さんからも「揚げおかきなのに、ちっともしつこくない」「体調が悪くて食欲がないとき、唯一喉を通ったのがおかゆとこれ」と声が寄せられる、まるでごはんのように体になじむお菓子です。
この日は朝7時から、もち米の玄米を蒸す作業が始まっていました。蒸し器に重ねた蒸篭から湯気が立ち上ります。40分蒸したら餅つき機へ。搗きたての餅を試食させていただくと、玄米の甘みと風味が強く迫り、伸びの良さに驚きます。
「原料そのものっていう味がするでしょう」と渡部さん。「だから味付けはなくてもいいくらいなんです。これだけ玄米の味が濃いんでね」。
餅をのして一日置いたら、カットして乾燥。揚げの工程に移ります。
「白米で作ったこともあったんですが、揚げ油の減り方が格段に違ったんです。仕上がりも油っこい。玄米だと油を吸い過ぎないので、軽く揚がるんですよ」
工場内は油臭さがなく、まろやかな香りが漂い、油の色も透明感があってきれいな状態。『いづも美人』の軽やかさの理由が、ここからも伝わってきました。

伝統的な木製のせいろで玄米を蒸すところから、おかき作りが始まります。
その年の米の水分や出来で蒸し加減も調整。米を知る一貫製造ならではです。
杵つきの要領で搗くことでコシが出ます。製品の餅とおかきになる餅が同じとは驚き。
油の動きがおとなしくなり、色がこんがりしてきたら揚げ上がり。
たっぷりとなたね油を満たした油槽で、ていねいに手揚げ。揚げの工程も機械任せではなく、その日の気温や湿度で揚げ時間を見極める、熟達した職人の仕事です。
塩を振って完成しました。本日の揚げ担当は社歴10年の神田さん。

はじまりは家族のため

米の栽培から加工品の製造・販売までを一貫して手掛け、いわゆる6次産業化を実践する三和農産。けれども、もともとは農機具の販売会社だったと言います。米作りのきっかけは「家族」への思い。
「自分が中学生のころ母の体調が悪くなって、知り合いの方に玄米食をすすめられたんです。まず食事から見直さないと根本は変わらんよって。そこから親父が、家族が食べる分だけの米を作り始めました」
最初は小さな田んぼを借り受けて始めたそうです。
「玄米は白米と違って表皮まで食べるんでね。だから農薬や化学肥料は使わないほうがいいだろうと、合鴨を使ったり、籾殻を肥料にしたり。すると何年かしていろんなところから声がかかるようになった。うちの玄米をわけてほしいと」
各所から産地直送販売の依頼を受けるようになり、次第に栽培面積は拡大します。その後、「玄米でお餅も作ってほしい」「お菓子は作れないか」と相次ぐ要望に応える中で、『いづも美人』も誕生しました。
「最初から米や餅を商いにしようと思ったわけじゃないんです。やっていくうちに縁を得て今のような形になった。運はどうすることもできないんですが、縁は大事にすることができる。縁を大事にすると、縁は運を連れてきてくれるんです」大地を守る会の会員の皆さんを始め、「おいしかったから」と『いづも美人』のお礼にお菓子を送ってくれる方もいれば、「こんなおいしいおかきを作ってくれてありがとうございます。感激して」と電話をくれる方もいるそうです。
家族のために始めた米作りは、縁が縁を呼び、ものづくりの形を広げてきました。その積み重ねが、『いづも美人』の味につながっています。

社屋の前に加工部門の皆さんが集合。右から3人目が代表の渡部さん、左隣は妻のあかねさん。「日本では昔から藁や籾殻を再利用し、家庭の肥やしを畑に戻す循環型農業を続けてきました。SDGsと言いますが、昔の知恵を生かせばいいと思うんです」と話します。目の前の山には氏神・船津神社が祀られ、土地の営みを見守るように鳥居が佇んでいます。

「毎日食べとるのに、まだ食べたくなるね!

三和農産の加工部門の皆さんの休憩時間にお邪魔しました。2種類のおかきに交互に手を伸ばしながら「揚げたてもいいけど冷めてもおいしい」「毎日食べとるのにまだ食べたくなる。止まらんわ」「おいしいけん。やめられん」と休憩室が沸きます。さらに「これ作ったのは神田さんかもしれんな。塩味がちょうどいいわ」と言う声も。仕上げに塩を振るのも熟練のさじ加減で、神田さんは10年選手。塩を振っておかきをボウルごと混ぜる手順は家庭で作るのと同じ。しかし見事に絶妙な塩味に仕上がっているのでした。

 

 

写真:寺澤太郎

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大地を守る会編集部

大地宅配編集部は、“顔の見える関係”を基本とし、産地と消費地をつなぐストーリーをお届けします。