異常繁殖した海のアオサを集めて、畑の野菜とニワトリの栄養にいかす。
食の安全を守る有機農法は、ゆたかな海を守るとりくみでもあります。
「ごみ」になってしまったアオサを何とかしたい
東京湾の最奥部にある三番瀬は、約1200haもの広大な干潟。河川から流れ込む生活排水を浄化してくれる天然のろ過装置です。生活様式の変化に翻弄されながらもなお、そこかしこに豊かな自然が息づいているところです。
ところがその東京湾では昨今、ノリの不作やアサリの死滅などの被害がにわかに深刻化しています。その原因のひとつが、海に漂う藻のアオサ。遮光性があり、窒素やリン酸を吸収して繁殖する性質によって、海中が栄養過多にならないようバランスをとってきた「浄化係」のアオサは、いつのまにか皮肉にも海の酸欠の一因とされるようになったのです。
江戸時代から代々この地で家業を継いできた生粋の漁師、大野一敏さんは、危機に瀕した三番瀬をなんとかしたいと、アオサの有効利用について大地を守る会にとりくみの提案をしてくれました。
大野一敏さんが代表を務めるベイプラン・アソシエイツと大地を守る会の共同プロジェクトの誕生でした。ボランティアのみなさんとともに三番瀬の干潟に流れつくアオサを集め、ニワトリのエサと畑の肥やしにする「東京湾アオサプロジェクト」はこうして2000年7月にスタートしたのです。
海の循環からミネラルたっぷりタマゴが
ボランティアのみなさんが年に3回集めてくださるアオサは合計約6トン。三番瀬に漂着するアオサの総量は300~400トンといわれています。それでも全体の5%と考えると、決して少ない数字ではありません。きちんと事業化するには、安定した回収・乾燥の方法、運搬や需給のバランスなど課題はまだまだありますが、「ごみ」と思われていたアオサの有機循環にチャレンジすることは、社会的な意義も大きいのです。
公的研究機関に分析してもらった結果、堆肥、ボカシ肥料、ニワトリのエサなどに適していることがわかったので、大地を守る会の農家や養鶏場で使うことしました。
アオサを水田に入れてみたところ、遮光性などのおかげで雑草が生えず、自然な除草効果が認められました。またアオサをエサにして育った鶏卵を調べたところ、黄身の総カロチン、ルテイン、ヨウ素の含有量が増えることもわかり、活用の期待が高まっています。
もともと海岸に打ち上げられたアオサを集めて田畑の肥やしにする「カワナ採り」は、半世紀前までは、漁師町でのごくありふれた風景だったそうです。海と陸の資源をともに活かしあうこと。
忘れられつつあったシンプルでムダのない、こうした循環型リサイクルは、自然と資源と人との関係を見直すきっかけとして大切なはず。陸の畑で安全な食べ物をつくる有機農業と、豊かな海を守ることはお互いに切り離せない関係であることを実感させてくれるとりくみでもあります。
アオサ
アオサ(東京湾に多いのはアナアオサ)はミネラルが豊富なので、かつては食用や有機肥料としても利用されてきましたが、現在は採算が合わないなどの理由から放置されています。
最近では農薬化学肥料農業の影響か、海に流れ込む窒素やリン酸の量が多くなったため、日本の沿岸各地でアオサの異常繁殖が報告されています。テーブルの大きさほどに成長したアオサは、干潟に貼りついてアサリなどの生物を窒息させます。
また、沖まで流れて腐敗して沈殿、窒素やリン酸、メタンガスなどを放出するなど影響が無視できなくなっています。
プロジェクト概要
アオサ回収ボランティア募集:毎年3回ほど
協力:ベイプラン・アソシエイツ
大地を守る会の協力養鶏場:本田孝夫(埼玉県)※アオサ入りのエサを食べて育つニワトリの卵は3分の1
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