社会貢献活動(CSR)

映画「カレーライスを一から作る」をめぐる ”関野吉晴×藤田和芳” 対談:前編

カレーライス作りから、「命を引き継いでいく」ことが見える

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素材の野菜と香辛料は種から作り、鳥はヒナから育て、そして絞める「カレーライス作り」ーー都会の美術大学でそんなユニークな授業を行っているのは関野吉晴さん。自らの脚力と腕力だけで世界を旅し続けてきた「グレートジャーニー」(※1)でよく知られる探検家でもあり、医師でもある関野さんが、学生たちに伝えようとしていることとは? このたび公開されるドキュメンタリー映画「カレーライスを一から作る」を通して、大地を守る会代表・藤田和芳がその真意に迫りました。

 

どうしてカレーライスだったんですか?

藤田 あのカレーライスはおいしかったんですか。
関野 参加者は「おいしい」とは言ってるんですけど、レストランのカレーと並べたらみんな後者を選ぶでしょう(笑)。じつはその前の年の方がおいしかったかな。カレーライス作りは今年で3年目なんです。

藤田 物事を突き詰めると本質が分かるといいますが、カレーの素材一つひとつから社会の真実や矛盾が見えてくる授業ですね。僕はどちらかというと啓蒙主義的な生き方をしてきたので「今の政治や社会はこうだ」とつい言いたくなってしまうんですけど、映画では先生の口から学生さんに「こうあるべきだ」といった言葉は一つも出てこないですね。
関野 僕なりの答えは持っているんだけれども、言葉では教えないで自分で気づいてもらいたいというのがあります。

藤田 そもそもどうしてカレーライスだったんですか?

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関野 
僕がアマゾンの先住民の生活から気がついたのは素材の分からないものが身のまわりにない。
藤田 我々の世界とはぜんぜん違いますね。
関野 それだけ私たちが自然から離れて暮らしているんですね。私が8年ちょっとかけて南米からアフリカまで旅をした後、2008年に始めた最後の大きな旅は、インドネシアから手作りのカヌーで日本に航海してくることでした。

藤田 それも武蔵野美術大学の課外授業としてですか?
関野 ええ、旅や探検の一番の醍醐味は「気づき」なんですが、自分だけではもったいないので学生と一緒に、アマゾンや太古の人たちがやっていたように、すべて自然の素材からカヌーを作ることにしたんです。
藤田 映画でも紹介されてましたけど、木を切る斧や道具まで手作りされたんですね。

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©ネツゲン


関野 
帆布、ロープまですべてです。砂鉄を集めて「たたら」で鉄製の道具を作り、大木から舟を削り出して1年間でカヌー作りをやり、航海まで入れると4年がかりでした。その旅からもう5年経ったんですけど、学生がまた何かやりたそうだったので、「だったらふだん食べているものを作ろうか」と。ラーメンでも八宝菜でもよかったけど、日本人が一番なじんでいて、具も多いし、「カレーライスを一からやったら」と言ったらみんな乗ってきたということなんです。

 

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©ネツゲン

 自分で問いを作って、自分で答えを出すということ

藤田 それにしてもかなり大人数の参加者でしたね。
関野 200人くらい集まったんですよ。

藤田 ところが参加者がどんどん減っていく。そこに対しては先生はどのように?
関野 来るものは拒まず、去る者は追わずという感じでやってるので。彼らは農業と家畜の世話をもっと楽してできると思っているんですよ。でも有機農業や自然農業というのは草とりが一番大変なんだということに気がつきはじめて、夏前にどんどん抜けていき、秋には雑草が背よりも高く……残ったのは1割くらいですかね。
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©ネツゲン


藤田 
ある程度予想はされてたんですか。
関野 ええ、ただ能動的に動ける人間がきわめて少ない。何かを一から作るというのは、自分で問いを作って自分で答えを出すということなんですね。いまの大学生はなかなかそれができないんです。僕自身が、自分の足で歩いて、見て聞いて、自分の言葉と写真で表現するということをやって来たので、とにかく動いて、外に出て汗かいて、そして考えてほしいという思いがあるんです。

 

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©ネツゲン

 生を全うさせるために殺すのをやめようか

藤田 鳥を絞める時、泣くような学生はいなかったんですか?
関野 それはなかったですね。顔をしかめている子はいましたけど。
藤田 実家が岩手の農家だったので子供の頃はたまに家で鶏を絞めるんですが、なたで鶏の首を切ると、首から血を噴きながらも30mくらい走ってバタンと倒れる。それを何度も見せられて、大学生になるぐらいまで鶏肉は苦手でしたね。

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関野 
ああ、そうですか(笑)。僕は東京の下町出身なんですけど、鶏は4羽くらい飼ってたんですよ。たまに暗くなるまで野球に夢中になりすぎて餌をやり忘れたりすると、晩飯抜きで鶏小屋に押し込まれたりして「俺より鶏の方が大事なのか」と思ってたけど(笑)、卵を産まなくなるとひねって、それが御馳走でね。

藤田 映画のなかではゼミ生の間で「鳥の生を全うさせるために殺すのをやめようか」という討論シーンもありましたね。
関野 彼らからそんな言葉が出てくるとは夢にも思いませんでした。例年は芝浦と場(※2)と、あと日本にただ一人残る鷹匠の狩りの現場を見学して、動物の死をいっぱい見てから殺してたんです。ところがこの年は順番が逆になっちゃって、免疫がないというかね。
藤田 でもあれはあれで考えるきっかけになってよかったと思うんです。

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命を引き継いでいく

藤田 「生を全うさせろ」という一言には、我々が命を奪うことにつきまとう矛盾が表れますね。人間が鶏やいろんな生き物を食べるということは、命を引き継いでいくという感覚が必要だと思うんです
関野 そうですね。この映画は一部の方々から非難されるかもしれないし、また、牛を飼うより大豆を育てた方がエコだという主張もあるでしょう。でも環境原理主義になると「じゃあみんなでアマゾンのような暮らしに戻れるのか」となっちゃう。

藤田 例えば何千年も羊の肉を食べてきたモンゴルの人たちに羊の肉を食べないことを要求するのはおかしいし、その土地の条件のなかで人々は生きているんで。都会のなかでもう少し考えたらどう? というのなら分かりますけどね。
関野 僕は植物だって生き物だと思っています。つまり人間は命を食べないと生きていけない。アマゾンに住んでいない我々でも、カレーライス作りを通してそうしたことに気付くことはできる。

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藤田 
今年のカレー作りはどうなんですか。
関野 今年は30人以上いるんですけど、烏骨鶏が6人、鶏が10人であとは「海鮮カレーでいいです」「野菜カレーでいいです」って(笑)。学生もちょっと変わって来てますね。


(※1) グレートジャーニー
アフリカで誕生した人類が、遠くは南米まで世界中に拡散していった行程を、イギリス人考古学者フェイガンは「ザ・グレート・ジャーニー」と名付けた。冒険家の関野吉晴さんは1993年、人力のみで約5万kmにおよぶこの行程を南米から逆にたどる旅を始め、8年を越える歳月をかけてアフリカへ到着した。この旅はテレビ・ドキュメンタリーや書籍で紹介されるや大きな反響を呼び、「グレートジャーニー」の名でいまなお語り継がれている。
(※2) 芝浦と場
東京都が運営する中央卸売市場食肉市場(港区)内の施設で、主に牛と豚の枝肉や内臓等を生産する。


【映画「カレーライスを一から作る」をめぐる関野吉晴さん×藤田和芳さんの対談:後編】はこちら

 

ドキュメンタリー映画「カレーライスを一から作る」

探検家・関野吉晴さんと武蔵野美術大学・関野ゼミの学生たちによる途方もない活動の記録。米、野菜、肉、スパイス、塩など、一杯のカレーライスに必要なすべての材料を、種植えからはじめて9か月かけて作った。悪戦苦闘の日々の中から見えてきたものとは…
11月19日からポレポレ東中野ほか全国順次公開予定
http://www.ichikaracurry.com/
関野吉晴:
1949年東京都生まれ。一橋大学在学中に探検部を創設し、南米アマゾンを中心に活動。その後、医師免許を取得し、探検先でも医療活動に従事する。1993年より、南米最南端からアフリカまで人類拡散の足跡「グレートジャーニー」を人力で遡る旅に取り組み2002年にゴール。1999年植村直巳冒険賞を受賞。現在、武蔵野美術大学教授(文化人類学)。
大地を守る社会貢献活動(CSR)をすすめる会

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