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すこやかに育まれて

【NEWS大地を守る9月号】やさしいたまごの話

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朝10時。鶏舎の卵を集めたら一つ一つ拭いて計量します。「子どもたちと一緒にいたいからこの仕事を選んだ」とフジタファームの佐野洋介さん。1歳になる文太君に声をかけながら出荷の準備。

小さな雛から鶏を育て、その健康を見守り、毎日産まれる卵を大切に届ける家族がいます。長野県富士見町の卵農家、フジタファームが育む卵の話。

水と空気がきれいな場所で

人の営みのすぐそばで、ともに暮らすように鶏の生命が息づいています。切妻屋根の母屋を囲むように鶏舎が18棟。裏手の木立を進むと、澄んだ小川が瀬音を響かせていました。
「最近は夜になると蛍が飛ぶんですよ。空気もいいんでしょうね。あ、今、鹿がいましたね。見えましたか?」
小川から飼料作りの水を運びながら話すのは佐野洋介さん(39歳)。大地を守る会の「国産穀物育ち・さっぱり平飼卵」の生産者の一人、フジタファームの代表を務めます。
フジタファームは、1985年に藤田孝広さん・悦子さんが富士見町に移り住んで採卵養鶏を始め、大地を守る会への出荷は1990年代から。2年前に娘さん夫婦である洋介さん・さと子さんに代替わりをして、2家族で卵を届けています。

両端が藤田孝広さん(69歳)・悦子さん(66歳)夫妻、中央が佐野洋介さん(39歳)・さと子さん(39歳)夫妻と次男の文太くん(1歳)。

当たり前の自由がある

だれが教えたわけでもないのに、鶏が1羽、鶏舎にある産卵箱に入っていきました。鶏はほぼ1日1回、産卵するときが来ると、自らこの箱にこもります。敵に襲われる心配のない場所で隠れて産みたいという本能があるからです。しばらくして、「コケーッコケーッ」とひと際強い声が聞こえてきました。
「産卵した合図ですね」
見るとあたたかな卵がひとつ増えていました。洋介さんはそっと手に取り、バケツに集めて回ります。
ひとつの鶏舎は約10坪で100羽、合計1800羽ほどを飼育しています。畳2畳分に10羽というと十分な広さであることが分かるでしょう。
「鶏たちは走り回ったり、突っついたり、自由ですよね。ほら、砂浴びに夢中の子もいます」
地面の穴に入り体を擦り付ける砂浴びは、人間でいうなら入浴。汚れを落とすだけでなく心地よいものだそうで、鶏の目元がゆるんで見えます。
鶏舎の中には止まり木で休む鶏もいれば、羽繕いする鶏も。何気ない動きですが、鶏にとっては本能的に必要な行動です。掻きたいところを掻く、羽を大きく広げる、地面を啄む。そうした自由が当たり前にある。健やかな平飼いの姿です。

鶏舎に並ぶ産卵箱。鶏たちは安心できる場所に自らこもって産みます。これも本能。
産卵箱の中の卵を集めて回ります。健康状態が卵の殻に現れるため、よく見ながら集卵。「今絶好調に産んでくれている」日齢160日の若鶏。

雛から米で育む

黄身の色が淡いレモン色。大地を守る会が「国産穀物育ち・さっぱり平飼卵」としてお届けしているフジタファームの卵は、通常見る卵よりも黄色味がやさしい印象です。
「うちの鶏はくちばしも肢も色が薄いんです。お米を食べて育ってるから白っぽいんですよ。トウモロコシで育った鶏はもっと黄色っぽくなりますよね」と洋介さん。
飼料は鶏の体にも、卵にも直結。食べたもので体は作られるといいますが、人間以上にはっきりと現れるのだと驚きを覚えます。
自家配合の飼料の穀物は、近隣の酒蔵が日本酒を醸造した際に出る、国産米の米粉と米ぬかを100%使用。米だけでは足りない栄養素を補うのは、田畑の周りの草を刈って与える緑餌です。草が豊富な夏は黄身の色も濃くなりますが、「色は目的ではなく結果」。鶏の健康が優先です。
フジタファームがもうひとつ大切にしているのは雛から自分たちの手で育てること。鶏は日齢150日ごろから産卵し始め、180日が産卵のピーク。生産性を考え、産卵間際から飼育するところもあります。
「それでは醍醐味がないでしょう」
洋介さんが「一番近くにいる先生」と敬う義父の孝広さんが話します。
「生まれたてでうちに来ることで、ここの気候、風土に慣れて、丈夫な鶏になってもらうことを大事にしてきました。ヒヨコが大きくなるまで、少しずつ穀物の配合を変えたり、水桶も徐々に大きくしたりと、人間が鶏の歩みに合わせてあげます。あぁ、子どもを育てるのと同じだなと思うんです」
雛から育てるのは手がかかりますが、「わが子のように」あたたかい眼差しで鶏を見守ります。

黄身はやさしいレモン色。この日のおかずは悦子さん直伝「たまごコロッケ」で中身はじゃがいもとゆで卵を潰したもの。卵を香りごと味わう卵農家ならではのおいしさです。
夕方になると翌日の飼料作り。米粉、米ぬかのほか、自家製の発酵飼料や魚粉、カキ殻、籾殻燻炭、ごま油の搾りかすなどを配合。
米では賄えないビタミンを緑餌で補います。鶏たちは特にクローバーが大好き。鶏舎に放つと、すぐなくなる人気のおやつです。
羽が生え変わる日齢50日。鶏舎に積んだ土嚢は、地面を掘って侵入してくるきつねから守るための対策です。「お父さんとお母さんが僕らに引き継いでくれた知恵」と洋介さん。
日齢90 ~ 100日。肢の白さがわかるでしょうか。"お米育ち"が肢の色にも現れます。
右が日齢150日の初産みで殻がかたく小さめ。左が11カ月ほどのベテラン鶏の卵。歳を重ねるにつれ、卵は大きく色は薄くなります。

未来を作る卵の選択

八ヶ岳の山麓で平飼い一筋に取り組んできたフジタファームですが、フジタファームを立ち上げた孝広さんの実家は青森県の畜産農家でした。家業ながら「肉牛を輸入飼料で太らせ、解体して、高ランクになると高い値が付くという繰り返し。不自然だと感じていた」と話します。
妻の悦子さんと出会って、岐阜県で暮らす中、「薬を与えず、自然を与えよ」と提唱された「自然卵養鶏法」に共感。悦子さんの実家が所有していた現在の地に移り住んで、100羽ほどから採卵養鶏を始めました。
5年前に継承を申し出た洋介さんも「鶏がどれだけ元気かが一番。鶏が健康なら卵もおいしいんです」と、健やかに育てる志を受け継いでいます。
のびのびと育った鶏の卵をいただくと、飼料がお米ということもあるでしょうか。すっきりとして清らか。自然とのどを通る澄んだ味わいが感じられます。移住者が増えた地元・富士見町でも、口コミで評判が広がり、洋食屋さんのオムライス、うどん屋さんの温泉玉子など、多くの飲食店で使われるようになりました。
日本人1人当たりの年間鶏卵消費量は300コ以上(※1)。ほぼ1日1コを食べています。しかし、その卵の出自を辿ると、94・3%がケージ飼い(※2)。フジタファームのような平飼い養鶏はごくわずかなのです。
一人ひとりが卵を選ぶ際、健康に育まれたものを選ぶことで変わる未来があるのではないでしょうか。これからも大地を守る会は、平飼いの卵を届け続けていきたいと思います。

「自分が作ったものを子どもにも鶏にも食べさせたい」と5年前に田んぼを始めました。鶏舎の鶏糞を肥料に使い、収穫したら玄米を雛の飼料として与えて循環。
八ヶ岳の湧水が流れる小川がすぐ裏に。ここから発酵飼料を作るための水を運びます。

COLUMN<日本の卵はケージ飼いが9割>

「アニマルウェルフェア」の考え方が世界的に広がり、採卵鶏の飼育形態もケージフリーが叫ばれています。EUでは2012年から、ケージ飼いのなかでも「バタリーケージ」(止まり木や巣箱などがない従来型)による飼育を禁止し、2021年の段階でケージ飼いの割合はフランスで36%、ドイツは5.5%にまで減少しています。ところが日本ではいまだに9割以上がケージ飼いです。(※2)ケージ飼いの鶏舎のスペースは1羽当たりB5サイズ程度といわれ、なかには、日の光を見ることなく卵を産み続けるウインドレス(無窓)鶏舎もあります。

※1 出典:「Consumption in selected IECcountries(eggs/person/year)」/IEC(国際鶏卵委員会)(2021年)
※2 出典:「アニマルウェルフェアに関する新たな国の指針について~採卵鶏~」/農林水産省(令和5年10月)

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大地を守る会編集部