
東京郊外の多摩ニュータウン、永山駅から徒歩20分の住宅街に店を構えて36年がたちました。会員の皆さんに長く親しまれてきたナチュランド本舗(東京都多摩市)の菓子製造を訪ねます。
茶色い砂糖で甘みおだやか
扉を開けるとそこは、3人も入ればいっぱいになる小さな空間。隣客と肩を寄せながらガラスケースをのぞけば、かぼちゃのプリン、いちじくのタルト、渋皮栗のモンブランなど、30種類近くもの生菓子が並んでいます。よく知る洋菓子店と違うのは、値札にある「有機」「オーガニック」「国産」の文字。そして、ケーキそれぞれが、家庭のおやつにあるようなぬくもりを放っていることです。きらきらと飾ったよそいきではない、自然体の愛らしさが感じられます。
「ナチュランド」は、山本道子さんが1988年に開業した洋菓子店です。大地を守る会との付き合いは1991年から。クリスマスケーキのスポンジを山本さんに依頼したことにはじまりました。現在はクリスマス商品だけでなく、年間通してケーキや焼き菓子など多彩なスイーツを、大地を守る会用に手掛けています。
ところで、山本さんには開業以前から決めていたことがありました。
「ケーキ屋をやるならこの砂糖でと決めていましたね。鹿児島県産のきび粗糖です。たいていお菓子作りに使われるのは上白糖やグラニュー糖。けれども私は白い砂糖特有の強い甘みが苦手だったんです」
山本さんが選んだのは精製度が低い砂糖で、粒が粗く色は茶色。当時この砂糖をケーキに使うところは少なく、手本もないまま店をはじめたため、簡単ではなかったと話します。
「砂糖からカラメルソースがやっとできたとか、やっとレアチーズケーキに砂糖が使えたとかそんな感じ。この砂糖はね、すごくアクが出るんです。生地も生クリームも茶色くなって、見た目のきれいさが求められるケーキには向かない。ざらざらがなくなるまで混ぜなくてはなりませんし、手間がかかります。ですが、おいしいですね。甘みがおだやかなんですよ」


ふわふわにならなくて
スポンジはふわふわ、生クリームは真っ白というのが、洋菓子の一般的なイメージかもしれません。とりわけハレの日を飾るデコレーションケーキは、何から作られているかというよりも、仕上がりの美しさに目が向けられることが多いでしょう。
しかしナチュランドでは、砂糖選びに見られるように、原材料一つ一つを大切にしてきました。たとえば小麦粉は、ポストハーベスト農薬の影響を考慮して、国産のものを使用。卵は非遺伝子組み換え飼料で育てられた鶏の卵、なたね油も非遺伝子組み換えの菜種で作られた石橋製油のものと、安全性を重視して吟味しています。
「今では国産小麦の品種も増えて、さまざま組み合わせてふんわり仕上げられるようになりましたが、昔は小麦粉といえばうどん粉。コシが出すぎてふわっとならなかったんです」と山本さん。開業当初、でき上がったケーキはかたく、生クリームはセピア色だったと振り返ります。
「パティシエというと外国に行ったり、学校に通ったりして学ぶものですが、私はそうした修行を経験していません。菓子製造の常識を知らなかったからできたことかもしれないですね。当時のケーキに付き合ってくれた皆さんに感謝です」


基本から手で仕込む
ナチュランドの厨房は、店の裏手に回った建物の1階にあります。「甘さがしつこくなくておいしい」「ケーキなのに軽い」。会員の皆さんからそんな声を頂戴する、お菓子が生まれる場所を見せていただきました。
朝9時の朝礼が終わったあと、厨房ではすでに3人の職人の方が、生クリームを泡立てたり、クッキー生地を伸ばしたりと、真剣な面持ちで仕事に臨んでいます。きびきびと立ち働く手元を覗いてみると、養鶏場から仕入れた卵を、一つ一つボウルに割り入れていました。キャロットケーキの人参は、大地を守る会の生産者であるさんぶ野菜ネットワーク(千葉県山武市)や、ベジタブルワークス(北海道真狩村)から届く規格外の人参を皮ごと使っていて、洗うところから下ごしらえ開始。クリスマスに販売するケーキのいちご生クリームも、有機いちごを鍋で煮るところからはじめます。
このように、基本の材料を素材から仕込む洋菓子店は少なく、卵なら「液卵」といって、すでに溶かれたもの、さらには、黄身と白身が別々になった液を使う方法もあります。
「それだと、だれがどこでどう育てた卵なのか分からなくなってしまいます。もちろん、おいしくなかったらいくら体に良くても選びません。嗜好品だからおいしくないとね。楽しくなくなってしまいますから」
大事にしたいのは、安心して食べられること、と山本さん。そして、おいしい、楽しいということ。そのためには、「手間をかけるのは当たり前。野菜、果物そのものから作るから、全部手がかかるんです。だから特別なこととは思いません」と、仕事のていねいさも自然体でした。




これからも小さな店で
「ナチュランド」とは、ナチュラルな世界を作りたいという思いで山本さんが付けた名前です。菓子作りの原点を伺うと、山本さんの娘さんが食物アレルギーで市販のものが食べられず、マドレーヌやチーズケーキを作りはじめたことが今につながっているといいます。ナチュランドのお菓子からやさしいぬくもりを感じるのは、子どもの体を気遣いながら、台所で研究を重ねてきた愛情が伝わってくるからかもしれません。
「長くやってきましたが、規模は小さいままで気持ちも全く変わりません。心のこもったお菓子を届けられる範囲で、これからもぶれずにやっていきます」と山本さん。「末永くよろしくお願いします」と朗らかな笑顔を見せてくれました。
秋も深まり、お菓子が恋しくなる季節。年末に向けてクリスマス用のケ―キの予約もはじまっています。日常のテーブルにあたたかな光が差すような手作りのおいしさを、どうぞ楽しんでみてください。




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※該当商品の取り扱いが無い場合があります。
※撮影のためマスクを外していますが、実際はマスクをして製造しています。