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3.11とともに在る

【NEWS大地を守る3月号】石巻だより2025

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成型されて加熱工程に入っていく『ソフトはんぺん』。製造機械は被災した本社工場で使っていたもの。震災後まだ水道も復旧していないときに県外までトラックで運び出して、石けんできれいに洗ってくれた人たちがいました。

隣町の高台に新しい工場を設立して、新たな雇用の場となる野菜加工工場も作りました。東日本大震災から14年。髙橋徳治商店(宮城県東松島市)が歩む〝心の復興〞の道のりを見つめます。

この場所を照らす灯りになる

「3つの工場をすべて失くして、従業員も解雇して、何のために生きてるんだ、再び歩き出す理由はどこにあるんだと自分に問い続けました。たどり着いたのが、『被災地で必要とされる会社になろう』という答えでした」。髙橋徳治商店三代目社長・髙橋英雄さん(74歳)が震災当時の胸のうちを語ります。
髙橋徳治商店は石巻市に創業して今年で120年。髙橋社長60歳、創業から106年を迎える年に東日本大震災がありました。3カ所あった工場と自宅が被災。無念にも全従業員79人を解雇せざるを得ませんでした。全壊の工場が瓦礫に覆われ、泥にまみれ、途方に暮れるなか、多くの人が訪れて復旧に力を貸してくれたといいます。なかには大地を守る会の会員の方もいます。
その数のべ1500人以上。
たくさんの支えによって、震災からわずか半年後に本社工場の1ラインを稼働させ、看板商品『おとうふ揚げ』を製造しました。さらに2013年には隣町の高台に新工場(東松島工場)を設立するに至ります。
「震災を経験したからこそ分かったことがある。見えたものがある」
髙橋社長はそれを石巻の言葉で『灯りっこ』(ほのかな小さい灯り)だと例えます。震災によって、人、町、心に灯りがともるような温もりに出会いました。それは「お金で買えないもの」だといいます。
「今度は自分たちが自ら光って、地域を照らす灯りっこになる」
あたたかな支援に後押しされ、事業再開を決意したと話します。

左から長男の髙橋利彰さん、社長の英雄さん、次男の敏容さん。
被災した本社から門柱を運びました。1962年に建造したもの。
東松島工場の屋根にはソーラーパネルを設え、機械を洗浄する水は地下水をくみ上げて浄化する設備を整えました。災害時には近隣住民を受け入れられる設計に。
復興の旗印となった髙橋徳治商店のロングセラー『おとうふ揚げ』が次々揚げ上がります。豆腐も毎回状態が異なるため、手で崩してみて確認するところから製造がはじまっていました。

”ほぼ魚”の練り物作り

ぷりぷりではなくザクッとしたちくわの歯ごたえ。過度に膨らみも萎みもしないはんぺん。髙橋徳治商店の練り製品を食べたことのある方は、違いをご存じのことでしょう。それは1980年代から「食品添加物に頼らない」と培ってきた、「魚を生かす」製造によるものです。次男の敏容さん(40歳)が練り物工場を案内してくれました。
「うちの場合、原料の7〜9割が魚です。ちくわに至っては約9割。ほぼ魚なんです。海の生き物なので当然、身の弾力も味も香りもと、あらゆることが毎回違います。今日の魚はどんなかな?と向き合うところから練り物作りがはじまるんです」
9割の中身はというと、主原料は北海道産のスケソウダラの冷凍すり身。一般で使われることの多いリン酸塩やソルビトールではなく、塩と砂糖だけで作ったすり身です。これに、近年水揚げが少なく貴重となったサメや、前浜で獲れた小魚をブレンドします。
ちくわの場合、そうした魚に加えるのはつなぎのでんぷん、わずかな塩、砂糖、みりんだけ。〝ほぼ魚〞でおいしく作るには、経験が頼りです。
「一見機械ばかりの工場ですが、人の手の感覚が大切な〝もの作り〞の場です。麵でいうところのコシを練り物では〝足〞といって、足があるすり身は鮮度高く強度があって良いとされています。食品添加物の力に頼らずに、製品ごとの特徴に合わせてこの足をいかに実現するか。それが品質基準です。その日の魚を見極めて、低速で長く、高速で短くと練り加減を調整します。長く練れば足が出ますが、練りすぎると温度が上がるので臭みも出ます。この見極めです。1品作れるようになるには最低3年、全品だと20年以上かかりますね」

1枚の重さ10㎏の冷凍すり身。生ものなので常温にさらすと鮮度が落ち、品質が変わるため、ここから真剣勝負の製造がはじまります。食品添加物を使わずに作ってくれるところは少なく、髙橋徳治商店の思いに共感してくれた北海道の会社が製造しています。
練り原料を手に取ってまとわりつく感触を見ます。この間にも原料の温度が上がってくるので、手早く集中。練りを任せられるようになるには最低3年かかります。
練り上がったすり身を串に巻きつけて『ぼたんちくわ』を焼いていきます。1℃違うだけで表面の焼き色も食感も味も変わるためここを手掛けるのは熟練の職人。
おでん種セットにも入っている『ぼたんちくわ』。スケトウダラのほか、三陸沖で水揚げされるサメ、地魚を配合した豊かな食感。

見ていると、成型機から出てくるはんぺんを蒸し機に送るのも一つ一つ手作業です。機械だともろくて崩れてしまうといいます。製造ラインの間を行き来し、仕上がりを見ては火加減を微調整する人も、練り原料を手に取って、へばりつく状態やきめの細かさを確かめている人もいました。機械ではできない人の力が活躍しています。

機械で扱うとこわれてしまう、儚いはんぺん。成型機から加熱ラインに人の手でそっと移します。
ていねいに蒸し上げられた『ソフトはんぺん』。ゆでずに蒸しているので、余計な水分を抱えず、うまみも抜けません。髙橋徳治商店の『ソフトはんぺん』が、焼いても縮みにくいのはそのためです。
練り物作りを背負って立つ皆さん。1年や2年では到底練れない髙橋徳治商店の練り製品。熟練の技術がここで育まれています。

支え合う新たな挑戦

かまぼこの会社が野菜を?東松島工場の敷地内には、木の香りが心地よい南三陸の間伐材で作られた野菜加工工場があります。ここは2018年にはじまった髙橋徳治商店の挑戦の場。心に傷を負った人たちの居場所として設立されました。
「震災後、人と目も合わせられない、ありがとうの声も出ない。そんな子たちに出会いました。きっかけは震災もありますが、親からの虐待や職場での罵りなどさまざまです。町はきれいに片付いても、心の復興は追いついていない。そう思って雇用の場を作りました」と髙橋社長。
野菜加工工場を運営している長男の利彰さん(44歳)も話します。
「工場ではスピード、効率を必要としません。まずは自分を大切にして、家のほかにもう一つ場所ができたように考えてほしいと話しています。最初は包丁を持つ手も覚束なかった子たちでした。当初8時間で30㎏しか製造できなかったのが、今では1トンにもなったんです」
下を向いていた子たちも挨拶ができるようになり、その子の家庭や近所にも〝灯り〞が広がっていくことを実感したといいます。
この日は国産のレモンを手洗いして、輪切りにする作業の真っ最中。
「人の顔が違うようにレモンにも個性があります。原料は、市場が求める規格に合わずに値が付かず、農家さんが泣く泣くあきらめていたもの。買い支えることで、こちらの若者たちも支えられています」と利彰さん。
一方的な支援ではなく、人と人、生産者と生産者が、支え合うやさしい眼差しがありました。

野菜加工工場でレモンの加工中。これまで100人以上が就労体験をして巣立っています。

さらなる前進も

髙橋徳治商店では、現場はもちろん、事務所のスタッフも毎朝味見を行います。ここで合格が出なければ、製造はやり直しです。「今日のはんぺんは発泡が弱いね」「味は大丈夫」と、朝一番に練り物を囲んで侃々諤々。好みではなく、髙橋徳治商店の基準に合わせて客観的に見ます。皆さん口のなかの食べ物がどうなっていくかという「設計図」があるそうで、噛む回数やつぶすタイミングといった味わい方も決まっています。震災以降にはじめたこの試食も、今年3200回を超えました。 
髙橋社長は以前、各所で「3・11を忘れない」と記していたものを、あるときから、「3・11は忘れない」と改めたそうです。あの経験が私たちを忘れることなく見ている。震災が教えてくれたことを忘れずにいようということです。
あれから14年。髙橋社長は次の挑戦もはじめています。ここ数年、福島県南相馬市に通い、孤立分断を越えたいという思いから、農家、障がい者のコミュニティー作りや自然体験の企画に取り組んでいます。震災で得た教訓を決して無駄にしないと自ら動き、課題解決に挑む姿が胸に響きます。

社内のキッチンで常に開発商品の試作を行っている髙橋徳治商店。『ソフトはんぺん』を炙ってから汁物に。スキレットで『おとうふ揚げ』を焼く。そんな提案もしてくれました。家庭で焼くことで新たなおいしさが広がります。

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大地を守る会編集部

大地宅配編集部は、“顔の見える関係”を基本とし、産地と消費地をつなぐストーリーをお届けします。