学ぶ

森に育つうまみ

【NEWS大地を守る2月号】山のだし香り立つ

【送料無料】おいしい・便利・安心がかなう宅配!まずはお得に、お試しセット1,980円!
ひんやりとした針葉樹の森の中、原木の樹皮を破って顔を出したしいたけ。原木を分解して自らの栄養にして育つしいたけは、密度高く身が詰まり、野生の趣。干してなおうまみが高まります。

しいたけの名産地、八女の山を望む地で干ししいたけの製造販売を行う武久(たけひさ)(福岡県筑後市)。静かな森の原木栽培からはじまる干ししいたけ作りを訪ねました。

家庭の味を支える

12月のはじめ、年の瀬が近付いた武久の店先に、地元の方々が途切れることなく訪れています。お目当ては干ししいたけです。
「お正月のお煮しめにね。お雑煮にも使うけん」「戻すのが面倒?うちでは水に浸けて冷蔵庫に置いてありますよ。切干大根とか茶碗蒸しとか、毎日何かしらに使うわね」「しいたけの含め煮の残り汁で魚を煮てごらん。おいしいわよ〜」
どの人も口々に、台所に欠かせない、何にも代えられないと話し、味噌汁に使う方がほとんどでした。
干ししいたけは、カツオ節、昆布とともに三大だしとされ、なかでも唯一の山のだし。うまみを含んだ具材としても楽しめる優秀な食材です。
けれども年間消費量は1世帯当たり47g。わずか10コ程度と少なく、10年前から半減しています(※)。水で戻さなくてはならず、調理に手間がかかる印象があるからでしょうか。しかし、卓越した味わいは、それ以上の手間をかけて育まれていました。

武久の三代目社長・武久和生さん(73歳)。産地から届いたものを15℃の温度の中で管理します。
ひだが薄黄色で乾燥具合も良く、きれいな冬菇。2024年産は暑さによって冬菇が少なく、仕入れ価格が倍近くに高騰しています。「天候にまかせる原木栽培。神頼みで願うしかない」と和生さん。

2年もかかる原木栽培

薄日が差す杉林にクヌギの原木3000本あまりが、きれいに組まれて並んでいます。2本が寄り添うこの組み方を合掌立てというそうです。ここがしいたけの畑、「ほだ場」。
「気持ちいいでしょう。空気がひんやりして、澄んでいますよね」
武久の四代目・武久景子さん(41歳)が八女市星野村の産地を案内してくれます。武久で取り扱っているのは、ここ福岡県や大分県、熊本県で作られる原木栽培の干ししいたけです。
原木しいたけは、主にクヌギの木の原木に「種菌」を植え付けた「ほだ木」を、森の中の「ほだ場」で栽培します。原木栽培は畑でいう露地栽培。原木は土といったところでしょうか。
古来、森の樹木に自然発生していた環境を人の手で再現したようなほだ場は、屋根や壁や空調に守られているわけではありません。気象条件をそのまま受ける「風まかせ、天まかせ」の栽培で、収穫まで2年もかかると聞くと驚かされます。
まずは1年目の秋に原木を伐採して切りそろえるところからはじまり、種菌を植え付けたあと、伏せ込みといって菌を原木に行き渡らせるために1年以上寝かせます。ほだ場に移すのはそのあと。最初のしいたけが出るまでに2回もの夏を越えます。
さらに、「原木栽培はじつは相当な重労働なんですよ」。
そう聞いて、ほだ木を両手でぐっと持ち上げようとしてみますが、簡単には動きません。1本は太いもので20㎏にもなるといいます。
「しいたけは針葉樹の山で育つので、ここの場合、クヌギの山で伐採してほだ木を別の杉の山に移すんです。傾斜を上ったり下りたりしてですね。大変な山仕事ですので、担い手も減っています」

八女市星野村のほだ場。葉の落ちない杉林の中は木漏れ日が差す程度で山の下とは5℃くらい気温が違いました。この急斜面を行き来してしいたけを栽培します。
武久四代目・武久景子さんと、原木しいたけの生産者・山口ひとみさん(左)

冬枯が採れない

この日、工場では干ししいたけの選別がはじまっているところでした。
「傘が丸いのが冬菇(どんこ)」「ぺったんこなのは香信(こうしん)」「ヒビが入ってるのが天白(てんぱく)。寒いなってときに出てくる貴重な冬菇ですよ」。手を動かしながら皆さんが教えてくれます。5人の方が向かい合い、流れてくる干ししいたけを一つ一つ手作業で選別。大きな箱15㎏に1時間あまりが必要です。
よく聞く「どんこ」とは、しいたけの品種の名前ではありません。寒さの中でじわじわ太り、傘が開ききらない段階で収穫したものを「冬菇」、全開したものを「香信」と呼び、冬菇と香信の間のものが「香菇(こうこ)」。気象条件によって一気に傘が開くため、時機を逃すと採れない冬菇は価値が高いとされています。
「気温が高かったり、雨が降ったりするとわっと開いて、冬菇が香信になってしまいます。最近は気候が変わり、とにかく冬菇が採れません」
多くの作物が気候の変化によって影響を受けているように、原木しいたけも同様でした。重労働と高齢化で作り手が減少し、天候によって生産量も減っている現状があります。

傘が開いて平たい香信。薄葉とも呼ばれます。水戻しが早く、だしが取りやすい。
こちらが冬菇。傘の開き具合6~7割で収穫されるため、縁が内側に巻いて肉厚です。
寒さの中で育ち、傘の表面に亀裂が入った天白冬菇。茶色っぽいものは茶花冬菇。希少価値が高く選別の際に分けられます。
一つ一つ手に取り、大きさ、形、傘の巻き具合を見て選別します。
工場で選別、パッキングを行う皆さん。この日は『大分産乾しいたけ(どんこ)』の袋詰めを行いました。良い冬菇がラベルの下に隠れないようにていねいに。

食の豊かさも届けていく

今年で創業90年。武久では5年前から、隣接するカフェで和食の基本とされる豆・ごま・しいたけといった「まごわやさしい」の食材を使ったランチの提供をはじめました。原木栽培が苦境に立たされる中、干ししいたけを販売するだけでなく、その魅力を広め、「食の大切さ」を届けたいと景子さんは話します。
「口から入れたものが結果的に体を作ってくれるんだと思います。食べ物が変わると体が変わるんですよね。私自身、おにぎりと味噌汁の食事に変えたことで、体が変わったという経験をしました」
今から11年前、出産したてのころのこと、何をしても治らなかった娘さんの湿疹が、母乳をあげる景子さんの食事を変えることで良くなったと話します。〝体が変わった〞という味噌汁は、お母さんがずっと作ってくれていたという、干ししいたけを使った味噌汁だそうです。
「食べることは心の豊かさも作ってくれるのでは?と思います。地のもの、季節のものを食べる、収穫したものを食べる、そこで会話が弾むといった豊かさも、武久では提供していきたいと思っています」
前の晩に鍋に水を張って、そこに干ししいたけを2〜3コ。翌朝だしも具も使えば一挙両得のまろやかな味噌汁が完成します。そんな食生活が定着すれば、いつしか心身ともに健康に。水戻しのハードルは気にならなくなるのではと思います。乾かすことで栄養価もうまみも高まる不思議な力を秘めた干ししいたけは、山の滋味そのもの。皆さんの家庭料理に、もっと取り入れてみませんか?一食一食の意識が、産地を、日本の伝統食を守ることにもつながっていきます。

隣接するカフェ「陽より子」のランチ。メインのフライは含め煮を揚げたもので景子さんの祖母の十八番をメニュー化。体を満たしてくれると評判のランチです。

※出典:「きのこ類の年間世帯購入数量の推移」/令和元年度 森林・林業白書
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/r1hakusyo_h/all/chap2_2_1.html

乾しいたけはこちら
※該当商品の取り扱いが無い場合があります。

大地を守る会編集部

大地宅配編集部は、“顔の見える関係”を基本とし、産地と消費地をつなぐストーリーをお届けします。