8月中旬になると、スーパーマーケットの店頭に幸水が並びます。色合いをしみじみと見たことがありますか? 幸水って緑色だっけ? なんて思ったことはありませんか? 大地宅配の幸水を食べていると、その色の違いに驚きます。なぜ違うのでしょう。その理由のひとつに、流通と小売側の事情があります。
お店で売られている幸水がなんとなく緑色っぽいのは、店頭に長い間置けるよう、農家が早くもいでいるからです。
これは桃やすももなどのくだもの全般に言えることですが、樹上でよく熟した果実はトラックで輸送する際に傷つきやすく、またそういったくだものをお店に並べると店持ちが悪く廃棄率が高くなります。過熟になったくだものは売り物になりませんから、少し、というかかなり早めに収穫し、そういったリスクを減らします。
熟した梨は甘くてジューシーでとてもおいしいのに、味がのる前にもがなくてはならないのは残念なことですね。しかし現在の日本の流通・小売事情ではいかんともしがたい、必要悪といったところかもしれません。
さて、新萌会では、梨の色合いをひとつずつ吟味し「この色なら大丈夫!」という梨を出荷しています。長年梨を作ってきたプロだからこそわかる「完熟一歩手前の色」を見極め、熟期が来たからと言ってごそっと全部収穫してしまうのではなく、ひとつひとつ大切に収穫します。「ウチらが作るおいしくて甘い、自慢の梨を食べてもらいたいからね」と斎藤宏道さん。ひとつひとつの梨に作り手の思いがこもっています。
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意外と多い一般栽培の農薬数
梨の栽培風景を見たことがありますか? 和梨は棚栽培と言って、同じ高さの棚に枝を這わせて栽培します。果実のなる枝は棚に這わせ、冬の間に不必要な枝を切る剪定を行うのですが、春先に休眠から覚めた梨の木はこの棚の上に新しい枝をぐんぐん伸ばします。この若い枝は病気にかかりやすく、菌が蔓延すると果実も病気になるため、和梨は農薬数が多いことが知られています。
では、一般的な栽培の幸水にどれぐらいの農薬が散布されているのでしょうか。新萌会のお二人が幸水を栽培している福島県の一般栽培の農薬数は、なんと40成分(※)。梨の花が咲いて出荷するまで、約1週間に一度農薬をまいているという計算になります。多いように感じますが、1週間に一度農薬をまいて若い枝や果実を守る必要があるのです。
新萌会の梨は「特別栽培農産物」。これは特栽と呼ばれていますが、地域の防除暦の農薬・化学肥料を一般栽培の1/2に減らして栽培したもののことです。一般的な農薬数の40成分を20成分にするということは、1週間に一度農薬散布ができないということ。したがって、病害虫に弱い梨を栽培するためには、農薬散布のタイミングや病害虫の観察力、剪定技術、日々の管理などの技術が必要です。永年作物である果樹類は、簡単に農薬の散布量を減らすことができません。何か失敗したら、翌年、翌々年まで影響が残ってしまうからです。新萌会のお二人の日々の努力と達人の技があればこそ、安心して食べられる梨ができるということでしょう。
また、化成肥料はいっさい使わず、独自の配合のボカシ肥を使います。この有機質肥料もおいしさの秘密。一般栽培ではまだまだ化成肥料主体の栽培が行われています。有機質肥料を与えると、土壌中の微生物が増え、木にいい影響を与えることがわかっていますから、梨の味が変わってくるのは当然のこと。つまり、減農薬栽培が可能な達人の栽培技術と、有機質肥料を使った土づくりが、新萌会のおいしい梨の秘密なのです。
甘くておいしい幸水の出荷は9月下旬まで。その後、豊水が出荷されます。おいしい梨の旬はあっという間。今年の新萌会の梨を楽しんでくださいね。
※特別農産物ガイドラインに係る慣行基準・福島県ウェブサイトより
文・写真/手島奈緖(てしまなお)
食料ジャーナリスト。2010年「ほんものの食べものくらぶ」を設立、食べる人と作る人をつなぐ活動に取り組んでいる。