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おいしいなすの秘密は「土づくり」
大地を守る会の生産者の中には、何を作ってもほんとうにおいしいという人が何人かいらっしゃいます。そのお一人が、埼玉県本庄市で有機農業を営む瀬山明さんです。
瀬山さんは有機JAS認定を取得しています。有機では有機許容農薬が使えますが、瀬山さんは農薬をいっさい使いません。生育期間の短い葉物野菜などは無農薬栽培が比較的簡単ですが、なすやきゅうり、トマトなど生育期間の長い果菜類は、成長しながら実をつけるということもあり、無農薬で作るのはかなり難しいものです。なすの例では、埼玉県の慣行栽培での農薬数を見てみると49成分(「特別栽培農産物に係る化学合成農薬の使用回数及び化学肥料による窒素成分施用量の基準について」埼玉県のWEBサイトより)にもなります。
49成分と言っても、ひとつの果実にこれだけの農薬を散布されているわけではありませんが、数だけを見るとりんごや梨よりも多いことに驚きます。なすを無農薬で栽培するのがいかに難しいのか、推して知るべし、です。木の健康を維持しながら実をつけるなすは肥料も多めに与えなくてはなりません。当然、病気や虫害のリスクが高くなりますから、どうしても農薬の散布数が多くなってしまうのです。そんななすを農薬をいっさい使わずに栽培している瀬谷さん、その秘密は何なのでしょうか。
瀬山さんの畑で支柱を地面に挿してみます。力を入れなくても1m以上すうっと入っていくのに驚きます。この土は、長年にわたって有機質肥料を投入したことで瀬山さんがつくりあげた土。このふかふかの土には大量の微生物が生息していることがわかっています。
微生物は、作物に有用な肥料分を作り出したり、土壌菌由来の病気を軽減したりと、農業においてものすごい力を発揮します。微生物たちが作り出す団粒構造は、作物の根の張りを促し生育をよくすることが知られています。瀬山さんの畑には微生物がたくさんいて、ここ数年、無肥料で野菜を栽培することもあります。この土が、瀬山さんの栽培技術を支えています。
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天候に左右される露地栽培だからこそおもしろい
瀬山さんが野菜栽培を始めたのは31歳のときでした。当時有機農業はあまりメジャーではなく、有機農家はそれぞれが農業技術を学び、知識を積み上げていました。そんななか瀬山さんは「栄養週期」という技術に出会います。瀬山さんの栽培の根幹になっているのが、この「栄養週期」理論です。ちなみに「栄養週期」はさくらんぼの達人・奥山博さんや、プラムの達人・古郡正さんなども実践しています。
栄養週期をベースに、天敵の活用などを組み合わせ、瀬山さんは独自の技術を構築し、さらに毎年何か新しいことにチャレンジしています。その中からいいものを取捨選択し、数年かけてブラッシュアップしていきます。今年は漢方の先生と知り合ったことをきっかけに、栽培に漢方を取り入れました。また、数年前からなすの仕立てを変え、より食味の良いなすがたくさん採れる方法を試しています。
そのほかにも、省力化できる人参のタネのまき方、じゃがいもの植え付け方法など、瀬山さんの畑に行くといつも「人のやっていない新しいこと」を見ることができます。瀬山さんは日々こういった試行錯誤を楽しんで農業を営んでいるのです。
「露地栽培はね、ハウスと違ってすごく天候に左右されるけど、それがおもしろいよね。農業やるなら自然にそってやれる露地栽培のほうがいい。そういう中で何ができるか考えるのが楽しいんだよね」。環境をコントロールできるハウス栽培をあえて選択せず、露地が楽しいという瀬山さんの畑は、露地ならではの工夫にあふれています。
露地栽培ではなかなか行われない土着天敵類の活用や、効率化・省力化にも余念がありません。天敵の研究者から様々な技術を教わり、コンパニオンプランツのほか、天敵を涵養する作物を積極的に植えて天敵を増やしたり、緑肥作物を畑にすきこむことで、有機物と肥料分の補充の一石二鳥を狙うなど、さまざまな工夫を凝らしています。そしてこれらは全て「おいしくて安心して食べられる作物」につながっているのです。
数年前、瀬山さんは、経営を息子の公一さんにゆずりました。「今は手伝いをやってるんだよねー」と言う瀬山さんですが、チャレンジ精神は衰えるどころか、新しいことにどんどん取り組んでいます。「今年はね、こんなことしてるんです。おもしろいよー」と笑う瀬山さんを見ていると、農業はとても楽しく、やりがいのある仕事に思えます。
「今年のなすは今までになくいい出来」という瀬山さんのなす。きっと何かまた新しい工夫が凝らされているのでしょう。達人のナスをぜひ食べてみてくださいね。
“野菜男子”の瀬山さん訪問記はこちら
文・写真/手島奈緖(てしまなお)
食料ジャーナリスト。2010年「ほんものの食べものくらぶ」を設立、食べる人と作る人をつなぐ活動に取り組んでいる。