ヒストリー

走り続けて40年、大地を守る会の原点をたどる

【第9話】学校給食に無農薬野菜を!

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「子供たちの未来のために」-みんな頑張っていた。様々な問題を語り合い、行動を模索しながら。運命的あるいは偶然にしては幸運過ぎる出会いというのは、そういう歩む努力の前に現れるんだと思う。東京の新宿区落合という町で、それは生まれた。

 

 大地を守る会が誕生して4年近く経った1979年、その地区には30人以上の会員(共同購入メンバー)がいた。当時の感覚では“密集地帯”だ。そこでこんな声が上がった。

「子供たちは、家では大地を守る会の食材を食べてるけど、昼は学校で給食を食べさせられている。学校給食は問題も多い。大地を守る会の食材を給食にも導入できないか。」

 その時、新宿区立落合第一小学校にいたのが、西山千代子さんという30年のキャリアを持つベテラン栄養士だった。西山さんは「食には栄養と味と安全の3条件が必要」を信念に、給食の改善活動を地道に実践していた。有機野菜にも関心を抱いていた。

母親たちからの願いを聞いた西山さんは、おそらく直感で理解したのだろう、猛然と走り出したのだった。校長にかけ合い、調理員やPTAとも話し合い、教育長には「私が全責任を取ります!」と談判した。

そうして1979年6月、全国初の無農薬野菜を使った学校給食が実現した。同時に、栄養士と母親たちが中心となった「学校給食を考える連絡会議」(現在の「全国学校給食を考える会」の前身)が立ち上がることになる。大地を守る会は、設立時からこの会の事務局を担い続けている。

学校給食全国集会

2015年3月28日に開催された学校給食全国集会の様子[会場:東京ウィメンズプラザ・ホール(東京都渋谷区)]

 しかし、問題はそこからである。持ち込まれた野菜は畑で採れた状態のものだ。丁寧に洗って泥を落とす、大根の葉を切る、そんな作業から始めなければならなかったし、設備の洗浄にも余計な時間を取られた。冷凍コロッケを揚げるのとはワケが違ったのだ。当然、調理員への負荷は増大した。それは「労働強化」そのものだった。

入社したてで落合一小に初めて納品に行った時のこと。調理室の裏で野菜の箱を降していたら、「そこじゃない!」と中から怒声が飛んできた。西山先生自ら調理場に立っていて、僕を睨んでいた、野菜を切る手を休めず。そして包丁を握ったまま右へ回れと指示する。調理室は戦場だった。度肝を抜かれるとは、あのような瞬間のことだ。

食材の調達にしても給食費には限界があった。大地を守る会でも納入価格はギリギリに抑え、かつ欠品は許されなかった。それは主婦から罵倒されるのと違って、尽力する栄養士もろとも社会的制裁を受ける可能性があった。

 

 落合第一小学校の事例は新聞でも紹介され、少しずつ無農薬野菜を導入する学校が増えていくのだが、どこも栄養士の孤軍奮闘によるものだった。しかし壁は厚かった。教職員の無理解、調理師の労働強化に対する反発、給食費値上げを恐れるPTAの抵抗、学校給食会や教育委員会という既成体制からの圧力、栄養士の異動、従来から学校に納品していた業者の怒り(権利侵害)……若い運動を諦めさせるに充分な現実が立ちはだかっていた。

 

一方で学校給食をめぐる制度も変化しつつあった。1校それぞれ独自に献立を立てて調理する自校方式から、複数校分をまとめて調理するセンター給食への移行が始まっていた。それは民間への外部委託という、栄養士・調理師と生徒たちの温かい関係など成立しない「効率的な食事提供システム」の採用であり、イコール人員削減を含む行政のリストラ政策であり、子供たちへの「食教育の一環としての学校給食」という本義が崩壊していく予兆でもあった。「学校給食に無農薬野菜を」とは、はからずも、この体制の流れに対する真逆の運動となったのである。

 

 公立学校の栄養士は教職員だから、入る組合は日教組である。一方、調理員さんたちは自治体職員なので自治労になる。調理師の労働強化とは、日教組と自治労の対立に発展しかねない話でもあった。そこで藤田たちは自治労とも話し合うことになるのだが、合理化反対&給食改善も反対、ではなくて、むしろ目指すべきは「子供たちの健康と未来のために」調理員の増員を求めるべきではないのか、という方向で一致する。粘り強い論議があった。

「全国学校給食を考える会」という財力のない任意団体がキーマンとなって、日教組・自治労も一緒に学校給食の改善に取り組むという、画期的な展開となった。この連携は、形を変えながら今も「学校給食を考える夏期学習会」として持続している。

 

「学校給食」は、“子供たちの未来のために”大地を守る会が初めて取り組んだ社会的テーマだった。この運動で一銭も儲かったことはない。持ち出しばかりだ。しかし今もこの旗を降ろすことはない。こんな活動を長くやり続けてきた宅配会社が他にあるだろうか。それは我々の誇りでもある。

大地を守る会は、たくさんの生産者・消費者・栄養士・調理師たちの不退転の意思と汗を背負って精神を鍛えてきた、その財産の上に成り立っているということだ。

 

学校給食運動は、大地を守る会を、もう一つの意味で成長させた。その話を次回に。

 

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戎谷 徹也

戎谷 徹也(えびすだに・てつや、通称エビちゃん) 出版社勤務を経て、1982年11月、株式会社大地(当時)入社。 共同購入の配送&営業から始まり、広報・編集・外販(卸)・全ジャンルの取扱い基準策定とトレーサビリティ体制の構築・農産物仕入・放射能対策等の業務を経て、現在(株)フルーツバスケット代表取締役、酪農王国株式会社取締役、大地を守る会CSR運営委員。 2008年農水省「有機JAS規格格付方法に関する検討会」委員。2013年農水省「日本食文化ナビ活用推進検討会」委員。一般財団法人生物科学安全研究所評議員。