江戸時代の島原の乱の後、山を開墾して作られた段々畑。赤土に覆われたこの地で、さまざまな野菜を有機栽培する長崎有機農業研究会(長崎県南島原市)の皆さんを訪ねました。
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種類も量も豊富な産地
靄(もや)が立ち込める海に薄っすらと見える天草下島、足元に広がる赤茶や 深緑、黄緑などの色に染まった段々畑。「濃い緑が玉ねぎ 、明るい緑がじゃがいもの畑やね」と、犬の散歩で通りかかった地元の人が教えてくれました。ここは 、長崎県最高峰の雲仙岳が中心にそびえる島原半島の最南端、長崎県南島原市。所狭しと並ぶ畑が 、野菜の一大産地だということを堂々と宣言しています 。
「長崎」と聞いて思い浮かべるのはカステラや魚などで、野菜はなかなか出てこないかもしれません。しかし、全国における生産量でじゃがいもは2位、玉ねぎは5位(※)。多い生産量で、幅広い品目を栽培している地でもあります。大地を守る会でも、新玉ねぎや新じゃがいもをはじめとして、長崎県産の野菜が届くこともよくあるでしょう。長崎県南島原市にてメンバー48名という大所帯で、さまざまな野菜を有機栽培しているのが長崎有機農業研究会です 。
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赤土とともに泣き、笑う
海を望む畑のなだらかな斜面を登って来たのは、松尾和昭さんと息子の康憲さん 。寒い日と暖かい日を繰り返しながら気温が上がる3月、畑では旬を迎えた新玉ねぎが収穫を待ちわびています。「〝初物〞になって高い価格がつくこともあるから、1月に新玉ねぎを収穫する所もあるけど、早すぎだと思う。やっぱり3月頃に穫れるのは品質が安定しとるし、一番おいしかよ」。そう言いながら2人は収穫を始めました。
江戸時代に起こった島原の乱の後、主に小豆島と北九州からの移民が山を開墾して作り上げた島原の段々畑。ゆえに 、傾斜が多く、所有する畑の位置も点々としています。そして、島原特有のもう一つが赤土です。「この赤土は粘りがあって、作業するのが大変。作物や手にくっつくし、雨が止んでもなかなか乾燥しない。でも、土の密度が濃い分、ゆっくり育って味がのるけんね」と松尾さん。赤土から一つ一つ手で抜いた、ずっしりと重い新玉ねぎの束を持ち上げました 。息子の康憲さんが茎を切り取ると、その断面からは水分が滴り、玉ねぎが水分や栄養をぎゅっと蓄えていることが見て取れます。作物も人も、赤土とともに泣いて笑ってきたからこそ味わい深いのです 。
山の中腹にあるハウスの中では、小田原一幸さん・しおみさん夫婦がミニトマトの収穫の真っ最中でした。「なんとかやってます」と笑う小田原さんは、農業 50年、トマト栽培31年のベテランで、長崎有機農業研究会の発足メンバーの1人でもあります。
発足のきっかけは、みかんへの農薬散布後の体調不良と、農薬に耐性のある病害虫の発生。水俣病などの公害、有吉佐和子の著書『複合汚染』やレイチェル・カーソンの著書『沈黙の春』などにもふれ、農薬や化学肥料を使わない栽培を25人で始めたのでした。「特に最初の何年かは作物がぜんぜん穫れなくて大変でした。他県の産地にまで勉強に行ったりしながら続けました」。暑すぎて栽培ができない島原の夏、ビニールハウスをマルチのように地面にかぶせ、太陽熱で土壌を殺菌する小田原さん。ミニトマトを一粒ずつ収穫するその手は、35年の努力の表れであり、長崎有機農業研究会を今も支えています。
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「ここで私たちが作りました」
地形や土質、そして品目・量においてまで努力を重ね続けてきた長崎・島原。それでも、じゃがいもは北海道、玉ねぎは兵庫県、トマトは熊本県と、現状、どうしても二番手になってしまいます。
じゃがいもを栽培する田口康文さんは、5月に収穫時季を迎える畑を見ながら話します。「だから今、長崎県で作られた品種『ナガサキコガネ』も栽培し始めました。300年以上の歴史がある段々畑は、日当たりがよくてミネラルも豊富で、じゃがの味が違う。この地で、この人たちが作ったものだと、もっと伝えたいんです 」。
後を継いだ子や新規就農者の次世代も、一緒にたくましく育ちつつある長崎有機農業研究会。長崎・島原はきっと、新たな歴史を刻んでいくことでしょう。
※農林水産省「2017年産野菜生産出荷統計」参考
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