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透き通る夏の味

【NEWS大地を守る7月号】海が香る

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寒天の原料となる天草。水揚げされたときは赤紫色一色だったものが、日光に晒すうちに色が抜けていきます。変わるのは色だけでなく、寒天になったときの味、香り、食感も。

夏の光にきらめく海の植物。むつみ(東京都八王子市)が作る寒天は、南伊豆の下流(したる) 、愛媛県の日振島(ひぶりじま)など日本の海の天草(てんぐさ)から生まれます。昔ながらの寒天製造の現場を訪ねました。

“赤”を生かす寒天らしさ

東京都八王子市。北浅川のおだやかな流れに面した工場に近づくと、海から遠く離れたこの場所に、潮の香りが漂っています。天草から香る海の匂いです。
無色透明、無味無臭。
そんな印象のある寒天ですが、むつみが製造するものは正反対ではないでしょうか。光に透ける海藻の緑と、磯の香り。素直な歯ごたえ。そこに赤えんどう豆と粒あん、黒糖みつが絡んで、のどの奥に吸い込まれるように消えていきます。
寒天は天草、つまり海藻からできています。普段そう意識することは多くないでしょう。
「天草は獲ったときは色が赤いんですよ」と、むつみの五代目・代表取締役社長の原嶋勝さん(56歳)。
「水で洗って天日に晒す作業を繰り返すと、白っぽくなるんです。色が抜けた天草で作ると寒天は透明度が出る。食感はコリコリとかたくなるんですよ。うちはわざと赤く色の付いてる方を多くしてもらってます。そうすると天草の風味も残って、かたすぎない弾力がちょうどいい。〝昔食べた寒天の味がする〞って言ってくれる方も多いですね」
「寒天らしい寒天」と感じる味わいは、海にあるがままの風味を、あえて残すことで生まれています。

右から内田大輔さん、原嶋社長、三輪匠さん、吉川家治さん、営業担当の青木政夫さん、モンゴルから来て2年めの実習生Zoloさん。

日に晒して草をブレンド

5月、夏の光に変わり始める空のもと、真水で洗った天草が一面に広げられています。むつみと40年来の付き合いという天草加工会社、鈴木物産での天日干しの様子です。
この日は西伊豆の仁科で獲れた天草を、日光に晒す作業が行われていました。朝7時半から天草を手洗いして平らに広げたら、1時間半おきに熊手で端から返していきます。赤紫色だった天草が徐々に黄色っぽく変化。端から端まで返していく一連の作業を3〜4回繰り返し、午後には全体の色が抜けました。

天草を天日に晒して半日ほど。色が抜けて、次第に黄色っぽくなりました。
裏を返すとまだ赤い天草もあります。
山盛りの天草は乾いても結構な重さ。たっぷり抱えて圧縮する機械へと運びます。

天草はこの晒しの有無に加えて獲る場所でも個性が異なります。多くの生き物が自然の中で逞しく変化するように、天草もしかり。「波が荒いと草も荒い」といいます。
たとえば外海に面した南伊豆の天草に触れてみると、太くてゴツゴツ。波のおだやかな西伊豆産は、すらりとしてなめらかでした。また、徳島県産は、北泊(きたどまり)のものはやわらか、室撫佐(むろむさ)のものは少々かため。同じ鳴門市でも感触が異なります。
どれも皆、似て非なるもの。
天草を生業とする職人は、こうした産地の特徴を踏まえて天草を組み合わせる、「草割」と呼ばれるブレンドを行います。この日のむつみ用の草割は5産地にも及びました。赤い色のままのものも配合され、寒天職人の手に渡ります。

天草の中でも原料となるのは主にマクサ。赤、青、黄の色味だけでなく感触も異なります。

角が立ち、香る、昔ながらの釜で

寒天製造は、天草を煮出した抽出液を冷やしかためて行われます。まずは天草を洗いながら水戻し。ゴワゴワとした乾燥の天草がなめらかな海藻の姿に戻ったら、圧力釜で2時間、煮汁を搾り出します。
「圧力を強くかければたくさん搾れますが質が落ちます。逆に圧力が足りないと粘りが出ません。寒天になったときに角が立つように、粘りはあるか、うまみ、香りは確かかを見ながら煮出します」と、むつみの内田大輔さん(38歳)。
一般にはもっと強い圧力で大量に抽出する機械もあります。けれども天草以外の材料を加える必要があるため、むつみでは40年超の釜を大切に使い続けています。ここでも優先するのは天草らしさ。うまみ豊かな寒天液が抽出され、この日は1万パックの寒天になっていきました。

むつみ専用にブレンドされた天草が到着しました。1コ20kgを抱える内田さん。
40年以上丁寧にメンテナンスしながら使い込んだ釜で天草を煮ます。煮たときに溶けにくい赤草から重ねて、偏りなく混ざるように。
煮出した寒天液を少しずつ成型缶の中へ。
1本10kgほどの成型缶を包装用の機械に運んで、寒天を横たえます。海藻の色が残る緑色がよく分かります。
歯がすーっと入る食感に仕上がりました。
さいの目にカットした寒天を次々袋詰め。
一緒に充填するのは保存料代わりの酢水です。原材料名には「米酢」としか書かれていませんが有機JAS認証取得の純米酢を使用。

素材のままでおいしさに挑戦

「天草と水だけで作ってうまくいくなら、その方がいい」。原嶋さんがごく自然にそう話します。むつみは寒天に限らず、豆腐や油揚げなども「なるべくなら素材そのものだけで」と、長年伝統的な製造方法を守ってきました。 
3年前から社長を務めている原嶋さんは今年で勤続40年。聞けば16歳、高校時代のアルバイトのころからむつみで働いているという生え抜き中の生え抜きです。「好きで楽しくていつの間にかこうなっていた」と20代から担当している商品開発とパッケージデザインは、今も原嶋さんの仕事。ですが、商品を開発する中で〝作り方〞に関して心傷む出来事があったといいます。
「牛乳の代わりに豆乳を使ってスイーツ商品を作ったんです。動物性の原材料を使わずにこくを出すのが本当に難しかった。やむなく今まで使ったことのなかった食品添加物を入れたんです。そうしたらお客さんから〝むつみらしくない〞と手紙を頂戴しましてね」
当時の苦い思いを振り返ります。「でもそのときに自分たちの仕事を見てくれている方々がいるんだと原点に立ち返りました。以来、できるだけ素材のままでやってみようよと、皆で工夫しています」
寒天の材料は天草と水のみで混じりっけなし。加える保存料は「酢で代用できるならその方がいい」と有機純米酢の酢水を使います。添付する粒あんの小豆、赤えんどう豆は北海道産。黒みつは沖縄県産黒糖のみを使用。粒あんにはてんさい糖を用いて、「豆の味を味わえるように」糖度を最小限に抑えています。
透き通るように体に入っていく。むつみのあんみつの無垢なおいしさの理由が分かりました。天草を獲る人、晒す人、寒天を作る人。私たちが昔なつかしい甘味を口にするとき、これほど多くの手が携わっているとは想像できないでしょう。その誠意ある仕事のおかげで、日本の食文化がつながれています。

寒天、粒あん、赤えんどう豆、黒糖みつと、むつみ自慢の味が集結した『贅沢あんみつ』。甘みを抑えているため、常温保存はできませんが、その分素材の味が際立ちます。

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大地を守る会編集部

大地宅配編集部は、“顔の見える関係”を基本とし、産地と消費地をつなぐストーリーをお届けします。