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土に育つ、ゆえに

【NEWS大地を守る3月号】いちごの素顔を訪ねて

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栃木有機いちごの会(栃木県さくら市)の戸村剛英(とむらたけひで)さん(41歳)が育てるいちご。このように色づいた状態を〝完着″といい、ここまで畑に置くと、甘みも十分蓄えられます。

大地を守る会では2007年ごろまで、いちごの安定供給ができていませんでした。赤く甘い一粒は繊細で、虫や病気に弱く、栽培には特別な困難があったからです。栃木有機いちごの会、土で作るいちごの話。

ハレの果実を届ける

1月の終わり、栃木有機いちごの会・戸村剛英(とむらたけひで)さんの畑を訪ねると、いちごは土から茎を伸ばし、大きくしっかりとした葉を広げていました。日が照って温かくなったハウスの中では、巣箱から出てきた蜜蜂が花から花へと受粉に働いています。
いちごを土で育てるというと当たり前のように響くでしょうか。いちごの栽培には、パイプで台を組み立てた上のプランターで育てる「高設栽培」と、苗を直接大地に植える「土耕栽培」があります。
戸村さんの畑が位置するさくら市は県の北部にあり、福島県に近い寒冷地。いちごが根を張るプランターの下に空間がある高設栽培では、生育に十分な地温が保てないため、土耕栽培が行われてきました。
いちごの病気は土壌から伝染することが多く、土耕栽培ではいっそう発病のリスクが高くなります。当然、農薬を用いて防除(害虫や病害の予防および駆除)を行う必要が出てきますが、大地を守る会では、極力農薬に頼らず、原則、各地方自治体が定める地域慣行栽培基準(※)の半分以下に抑えることを定めています。加えて土耕栽培を基本としているため、基準に合う生産者が見つからない時期が長くありました。
そうした中で出会ったのが栃木有機いちごの会。2007年に剛英さんの父、弘一さんの代で大地を守る会との取引を開始し、現在では戸村さん含む4人のメンバーが大地を守る会に出荷しています。お正月の食卓やひなまつりのデザートなど、日常を華やかに彩るいちごを届けてくれています。

左から栃木有機いちごの会の高久昭夫さん(55歳)、戸村剛英さん(41歳)、石橋洋二さん(64歳)、本橋文雄さん(55歳)。ハウス栽培とはいえ、昨年は風でハウスが倒されてしまったという石橋さん、苗が病害にあってしまった高久さん。自然に左右される栽培は一筋縄ではいきません。
温度が上がると巣箱から出てくる蜜蜂。定植後10月ごろにハウスに放ちます。
長さ100m近いハウス内での収穫。午前中は地温を上げるため、いちごと蜜蜂が耐えられるぎりぎりの27℃、午後は光合成に適した24℃、夜は8℃を下回らないようにと、温度管理を徹底。畝は40㎝と高く作り、側面からも日光が当たるようにしています。

やわらかな土で育つ

「畑の端、踏みしめていないところに棒を刺すと、1m下まで刺さりますよ。面白いでしょう」と戸村さん。ハウスの中を歩くと、保温用に張ったビニールを挟んだ下からも、やわらかな感触が伝わってきます。
「機械で耕しているのは50㎝くらいの深さまでです。それでも1mのところまでやわらかくなるのは微生物のおかげ。〝空気が嫌い〞という菌もすき込んでいるから、空気がないところに向かって下へ下へと耕してくれるんですよ」。人の手の届かない奥深くまで耕してくれる、何とも頼もしい微生物が味方です。
12月、育苗ハウスの中で親苗を育て始めて、できた子苗を本圃(いちごを収穫する畑)に植え付けるのは翌年9月。育苗と並行して本圃では、5月の終わりから畝をならして土作りを始めます。その際に与えるのが、こうした微生物とその餌。
「土がやわらかいのは微生物が餌を食べて活動して、土をふかふかにしているからです。土がやわらかければ根もしっかりと張り、水も栄養も吸いやすくなる。結果、作物自身が健全になり、虫、病気にやられにくくなるんです」

親苗から子苗を育成中。この育苗ハウスにも「病気を入れない・出さない・増やさない」を心掛けているという戸村さん。いちごの葉や茎に異変がないかを細かく観察します。
戸村さんのいちごのハウスは3カ所48棟。那珂川水系のせせらぎに面したのどかな場所。
稲わらと籾殻が届いたばかりの自家製たい肥場。発酵を経て1年ほどで完成します。

農薬を減らすのは「目的というより結果」と戸村さん。「不思議に思うかもしれませんが、弱ってる株にだけ虫も集まるんですよ」と話します。
土壌と作物を強く保つことが基本。けれども虫や病気に負けてしまうこともあります。
「いちごの収穫は6カ月間。苗の状態から数えると栽培期間は16カ月にも及びます。長い栽培期間の中、病気になった株を触った手で他の株を触るだけで、感染が広がるんです。灌水(水やり)でうつる病気もありますよ」
厄介な病気の対策として戸村さんが大切にしているのが「病気を入れない・出さない・増やさない」の3カ条。「早期発見が大事」と葉の状態や土を毎日よく見て、異変があったらすぐ対処すると話します。
てんとう虫がアブラムシを食べることは知られていますが、そうした害虫を食べる益虫(アブラムシの天敵)を投入するなど、知恵を絞って、繊細ないちごを土で育てています。

表面に見える黒い点が見えるでしょうか。これがアブラムシ。収穫の際とパック詰めで、注意深く見つけて、選り分けます。
虫がいないか、小動物の食害がないかなどを確認しながらパック詰め。活躍しているのはベトナムからの技能実習生たちです。

触らないようにやさしく収穫

人差し指と中指の間に、いちごの茎をすっと差し込んで手のひらにいちごをのせたら、茎を折り、摘み取ったいちごをカートの上のコンテナに並べていきます。戸村さんのいちご畑では、総勢10人で、朝7時から始まった収穫の真っ只中でした。
「良いいちごでしょ。あんまり触んないように採るんだよ。手をこういうふうに入れてぽきっとね」と、この道10年のスタッフの方。
いちごは強く触ると、そこから傷んでしまうため、やさしく手を丸めるようにして一つ一つ注意深く収穫します。細い畝の間にカートを走らせながら、姿勢は腰を屈めたまま。
100m近い畝1本分を終えるころには、コンテナ数枚にぴしっと整列した姿でいちごが収まっていました。

今年から出荷を始めた「とちあいか」。粒がしっかりと大きく育ち、甘い品種。

赤いから甘いわけではない

「昨日の収穫は300パック、今日は3,500パック。天気でこんなに変わるんですよ」と戸村さん。いちごは温度によって赤く色づきます。
私たちが訪ねたこの日、当日と前日は晴天でしたが、それ以前は悪天候が続いたため色づきが進みませんでした。収穫するのは、下から半分以上が色づいたタイミングですが、色の具合で収穫量が変わるため、このように差が出るのです。
赤白半々くらいで収穫して数日置くと、上まで赤くなるものの、茎と切り離したあとは、熟度は進みません。収穫後に甘みが増すことを追熟といいますが、いちごの場合、赤みは増しても甘みは増さない、追熟しない果物なのです。
「一番おいしいのは、畑に生った状態で〝完着(かんちゃく)〞といって上まで赤くなったもの」と戸村さん。いちごの表面の粒々(じつはこれが果実)まで赤くなるとさらに甘みが濃くなります。しかしこうした状態で出荷すると、届くころには傷んでしまいます。
ですので、少し手前で収穫して、消費者のもとに届くころに赤くなっているというのが今の主流。大地を守る会では、色だけでなく味ものった状態でお届けしたいため、会員の皆さまに届いたときに傷まない程度にまで熟度を上げて収穫するよう産地にお願いしています。とはいえ、熟度を上げると輸送中の振動であたりや擦れが出てしまうこともあります。多少のあたりや擦れはご容赦いただけると幸いです。
いちごはその姿の美しさから、どうしても色や形に惑わされてしまいますが、おいしさと見た目は必ずしも一致するものではありませんでした。見た目だけでなく、味も重視してお届けしたいと思います。
さて、栃木有機いちごの会では、今シーズンから新しい品種「とちあいか」の出荷を始めました。「まだ試行錯誤しています」と戸村さんはいいますが、かみしめると甘みとともに水分がこぼれ、粒に収まらない生命力を感じます。皆さんも召し上がってみて、ご感想をお寄せください。

ランナーと呼ばれる蔓状の茎を伸ばした先の茎は通称「かんざし」。この先に花実がついて段階的に大きくなり先から色づきます。
晴れると色づくいちご。明日が休みのため今日は白めのものも収穫しました。

※栃木県におけるいちごの地域慣行栽培基準は、化学肥料施用量(窒素成分量):20㎏/10a、化学合成農薬の成分使用回数:52回
出典:栃木県ホームページ「化学肥料施用量及び化学合成農薬成分回数の慣行基準(2016年3月18日)」

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大地を守る会編集部

大地宅配編集部は、“顔の見える関係”を基本とし、産地と消費地をつなぐストーリーをお届けします。