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水辺のれんこん仕事

【NEWS大地を守る2月号】れんこん百景

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親れんこんから子れんこんへと、次々ふくらんで育つれんこん。右が親、左が切り離した子れんこんで、孫れんこんが生えていることもあります。

12月の水田で泥をかき分け掘り上げるれんこん。食卓でなじみ深いれんこんですが、私たちは知らない景色の方が多いのかもしれません。茨城県土浦市で「常総センター」の代表を務める木間塚祐一(きまづかゆういち)さんの収穫の現場を訪ねました。

夜明け前に始まる収穫

茨城県土浦市、霞ケ浦の西の端近くに何枚ものれんこん田が続いています。遠くに望む山々の色づきとは対照的なモノクロームの世界。私たちが訪ねた木間塚祐一さん(47歳)の水田には、師走の冷たい風が吹いて水面が波立っていました。
朝の5時台。まだ日が昇る前の暗く静かな中で収穫は始まります。
「年の瀬は注文がいっぱい来るから、どれだけ朝早くなろうがやる。12月は休みなしですね」と、繁忙期を前に木間塚さんは逞しく語ります。
正月料理の縁起物として好まれるれんこんは、年末が書き入れ時。お節のお煮しめや酢れんこんで楽しんだ方も多いでしょう。皆さんの注文に応じた量を午前中に採り終えるため、注文が多ければその分、開始時間が早まっていきます。

葉茎が枯れた12月のれんこん田。夏は青々としていた水田も冬休みの様相です。

田に浸かって手探りで掘る

れんこんの収穫というとどんな様子を思い浮かべるでしょうか。
れんこんは、大根や人参のように畑の土から抜いて採るのではありません。木間塚さんの場合、水田の地中のれんこんを、水圧ポンプを使って「水堀り」で収穫します。
れんこんとして私たちが食べているのは、根ではなく、地下茎が肥大化した部分。市場で目にする多くはカットされたものですが、収穫するのは5節、6節といった長い姿です。親れんこんの節の間からも子れんこんが伸びて、土の中に埋まっているのです。
収穫の様子に目を移すと、木間塚さん、水がドーッと噴出するホースを手にして水田に入っていきました。水の深さは太腿くらい。足元はぬかるんだ泥状です。水田の横では、井戸水をくみ上げるポンプが機械音を唸らせていますが、このポンプからホースがつながり、鍬ではなく高圧水で泥を掘って採るしくみです。
「あ、ここにちょっとありそうだなって分かるんですよ、ずっとやってるとね」とは、地中のれんこんを探る感覚のこと。「右手のホースは握りっぱなし、水も出しっぱなし。左手でれんこんを探します。れんこんが折れないように、泥に水圧を当てながらつかみ上げるんですよ」。

畑とも田んぼともいい難い、沼のような場所に入ってれんこんを探します。ドライスーツを着ても、「芯まで冷えます」という過酷さ。
れんこんの泥を洗浄してからボートに引き上げます。木間塚祐一さんの弟・哲也さん。

1株は2〜3㎏の重さ。〝見えないれんこんを見る〞熟練の感覚で、片手でつかんでは採り、次々ボートに引き上げていきます。一つのボートには40㎏ほどが乗り、運ぶのも大仕事。水田の脇に上げたら高圧水を当てて洗い、根と芽を取って整えます。「明日大雨だから今日頑張りたい」と、この日は6隻分200㎏以上を採りました。

ボート2隻分を収穫して水田脇まで運びます。れんこんは重さで注文が来るため、おおよその目安で収穫して、センターに戻って計量。足りなければ追加で収穫に戻ります。
桜井義男さんの妻・千代子さん。収穫されたれんこんに高圧水を当てて、節の間の根や芽などをきれいにします。しっかり泥を取らないと、乾いてかたまるため、ここが肝心。

とろとろを目指す土作り

「土はとろとろなのがいいんですよ」と木間塚さんは話します。
「水田はやわらかく見えて、意外とかたい泥のかたまりがあるんです。かたいところに生長していくと人間でいうと〝なで肩〞になる。かたいところに突っ込んでいくわけですからね。やわらかいと丸く育つんですよ。栽培方法にこだわってやってるから味には自信があります。でも形も大事。味も形も良くしたくて〝とろとろの土〞を目指してます」。先端にある芽が、土の中を進んで生長していくれんこん。邪魔にならないように、土がやわらかくなければなりません。また、地中深くで育つため、「たい肥を奥まで入れたい」と、耕すときはしっかり下まで。さらに収穫のついでに「足でやわらかくする」といいます。
こうして作った土に、春、「種れんこん」を植え付けることからその年の栽培が始まります。木間塚さんのところでは、全体のれんこんの約2割を、翌年用の「種」としてそのまま水田に残します。これが種れんこんです。
れんこんは、秋に葉茎が枯れると空気が吸えなくなることで生長が止まります。そのまま傷むわけでもなく伸びるわけでもなく、小休止するという神秘的な作物。休眠期を過ごし、春に気温が上がってくると、芽がむずむずと動き始めるのです。
目覚めのときを迎えた種れんこんは、この芽が伸びる手前を見計らって収穫しなればなりません。れんこんの芽はやわらかく、伸びてしまうと触っただけで折れてしまい、種れんこんとして使えなくなるためです。
例年「桜の咲くころ」を目安に収穫を始め、別の水田に運んで植えます。これも収穫と同じくボートにのせて運搬。「子どもの芽も親の芽も全部つけて大事に持って行きます」。
種植えの後は、浮き葉、立ち葉が育って花が咲いて夏を迎え、8月下旬から3月ごろまで収穫が続きます。

伯父から甥へつなぐ安心

木間塚さんは30代前半で、伯父の桜井義男さんを手伝う形で農業を始め、2年ほど前にグループの代表を受け継ぎました。今では弟の哲也さん(39歳)も、一緒にれんこん栽培を行っています。
伯父の桜井さんが農薬や化学肥料に頼らない栽培を行うようになったのが1970年代のこと。桜井さんが当時を話します。
「周りには上半身裸や裸足で農薬を散布している人がいて、健康被害を肌で感じました」。安心して栽培できて、安心して口にできる「泥つきの野菜から始めよう」と、安全性の高い栽培に切り替えたといいます。
桜井さんから受け継いだ栽培方法を「これしか知らないから、これが当たり前」と木間塚さん。桜井さんが切り開いた道を逸れることなく、水田には完熟たい肥を入れ、日光を遮る水草は網で取ります。また、渡り鳥による食害についても……。
「鴨に食べられるとれんこんはもう伸びません。できるだけ食べられないように、鴨が水掻きできない水深にするのがうちのやり方。あとは、れんこんが浮いてくると食べられるから、浮いてきたらしっぽの方を沈めるようにぐっと埋める。この繰り返しです」。
鴨の対策には防鳥網を張る方法もありますが、桜井さんも「鳥の命を奪いたくない」と、音で退散させるなど、知恵を絞ってやってきました。
「この夏は鴨の害もあったし、大雨でれんこんが流されたりもしました」と木間塚さんは話します。それでも、「そこそこ採れてるからまだいい方です。その年が暑いかどうかも分からない状態で、常に次の作を考えるのが農家。全く同じ天気はないから、常に新しい気持ちでのぞみます。何が起こるか予測できないですからね」。できることは多めに作ることと、あくまでも自然に沿いながら、備えて前を向きます。
こよみは立春を過ぎて節目を迎えました。丹念に育てられたれんこんはかみしめると甘く、豊かな食感に驚きを覚えるはずです。皆さんも改めて味わってみませんか。

「農家は不安定。災害にも弱いから継いでもらうのは心配だった」と桜井義男さん(右)と「安全なれんこん作りを途絶えさせたくない」と栽培を受け継いだ木間塚祐一さん。
群れを成して空を行く渡り鳥たち。水田にも多くの姿が見られました。

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大地を守る会編集部

大地宅配編集部は、“顔の見える関係”を基本とし、産地と消費地をつなぐストーリーをお届けします。