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三百年続く生き物のリレー

【NEWS大地を守る5月号】酢造りを今につなぐ

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地面に半分以上埋まる格好で、かめが並ぶ庄分酢のかめ畑。和紙の蓋をかぶせているのが仕込みを終えた「有機玄米くろ酢」です。お日様の光で上部は温まり、下部は地中で冷やされて、酒と酢の2つの発酵が並行してすすみます。

料理にひと振りするだけで、尖りのないさわやかさを添えてくれる。台所の名脇役、庄分酢(福岡県大川市)の酢は、どのように醸されるのでしょう。創業300余年。伝統の酢造りをつなぐ人たちを訪ねます。

昼夜が等しいお彼岸のころに

豊かな水をたたえる筑後川の岸辺に、菜の花が揺れています。関東では春の訪れが足踏みしていた3月の半ば、ここ福岡県大川市ではやわらかな光が差して、空気が緩みはじめていました。
私たち人間が過ごしやすいと感じるお彼岸のころは、暑くもなく、寒くもなく、気温が安定する時期。庄分酢の酢造りの原点、「有機玄米くろ酢」の仕込みは、古くから年2回、春と秋のお彼岸前後に行われてきました。
酢の醸造方法には大きく分けて「全面発酵」と「静置発酵」の2通りがあります。酢造りに活躍する酢酸菌は、空気に触れているところでしか働きません。この菌の活動を促すため、機械で空気を送り込むのが「全面発酵」で、いわばスピード製造。対して「静置発酵」は、自然な発酵を待つスローな造り方です。庄分酢では後者の方法を続けています。
そして「有機玄米くろ酢」の場合、原料は、玄米、米麹、水だけ。
地面に埋まって並ぶかめに、この3つを入れて仕込みます。時代を越えて受け継がれてきた、古式ゆかしい酢造りを見せていただきました。

原料の玄米は前日に洗って一晩浸漬します。180㎏をたらい2つに分け、中腰の姿勢で洗米。

玄米を蒸すくろ酢の仕込み

「この香りがすると、今年も春が来たなって感じがしますね」と、十四代・髙橋一精(たかはしかずきよ)さん(69歳)。蒸気がもくもくと立ち上る蒸し釜に、やさしい眼差しを向けます。
米から酒ができるように、酒から造られる酢もまた、米からできます。玄米を蒸す香りが、庄分酢の春の風物詩です。
釜の木蓋を開けると、米は黄金色に蒸し上がっていました。あつあつの中をのぞき込む酢職人、福山寛(ふくやまゆたか)さん(50歳)。指でつぶしたり、手のひらで押したり。真剣な面持ちで蒸し具合を見ます。原料3つのみで造る酢は、この蒸し上がりが出来を左右するからです。
「指でぎゅっとつぶれるくらいが目安です。粒が割れているのもありますが、この状態が理想。割れているくらいの方が、麹菌の酵素が入っていきやすいんです」
酢は、「米から糖」「糖から酒」「酒から酢」という3段階の発酵ででき上がります。初期の発酵では、麹菌が米を糖に変えますが、玄米が表面をかたく閉ざしたままでは麹菌が入っていけません。そのため、洗米の際には磨くようにこすり合わせ、蒸し上がりの粒は細かくほぐし、米の段階から手をかけてあげるのです。

2時間かけて蒸米。炊くよりも蒸す方が、水分が少なく、麹菌が増えやすい状態になります。
蒸し上がった米を次々木桶に移して運びます。1杯分は22㎏。古くは担いで運んでいたことから一担(ひとかたげ)とも数えます。

かめの中に仕込みの水、地元の麹屋さんから届いた米麹、蒸し米を入れ終えたら、均一に撹拌します。
そして、仕上げに施すのが「振り麹」。振り麹とは、少し残しておいた米麹を、浮かべていく作業です。このときの酢は生まれたての赤ちゃんの状態。米麹が浮くと麹菌が表面で盾となり、酢の赤ちゃんを雑菌から守ってくれるのです。
作業が終わったら、和紙の蓋をかぶせ、縄で二重に縛ります。そして酢職人たちは筆を取り、今日の日付と酢の名前を記しました。筆跡がサインの代わりとなります。

麹造りをお願いしているのは明治時代から続く麹屋さん。室蓋に広げられた米麹は、綿毛のような菌糸をまとっていました。
米麹が届いたら作業台に広げ、細かな木くずなどを取り除きます。熊本県山都町で栽培されている有機米の五分搗きに麹菌を付けてもらっています。
「えぼり」という櫂棒で撹拌。かめに当てないよう「押すのではなく引いて」混ぜる技です。
米麹を手に取り指先からこぼすように水面に放っていきます。なるべく浮かせたいと慎重に。
和紙蓋で封をしたあと、仕込みの日付と品名を記します。この日は3かめ分を仕込みました。
左から渕上伸二さん、福山寛さん、緒方猛さん。

菌を見守る手入れの仕事

かめの中では、このあと何が起こるのでしょう。福山さんが話します。
「3日間は蓋を開けません。3日経って蓋を開けたとき、うまくいってると、麹菌の菌膜がふわーっと繭のように張っています。あとはかめの中で菌が働いてくれますので、私たちはそれを見守るだけ。手入れでカバーしながらですね」
福山さんがいう手入れとは、酢を造る菌の手伝い。庄分酢の酢の発酵にとって良い菌と雑菌を見分けて、良い菌を優勢に導いていく作業です。良い菌を見分けるとはどういうことでしょうか。
仕込みから2週間たったころ、かめの中で酒のでき方がゆるくなるとアルコール発酵は後半となり、米が沈んできます。これが酢酸発酵、つまり酒から酢に変わりはじめるサインです。
この状態になったら、蔵で仕込んでいる酢酸菌の出番。元菌と呼ばれるこの菌を一つのかめに移植します。蔵に棲み付くとされる蔵付き菌によって、酢から酢へと長年つながれてきた菌です。
元菌を移植してしばらくすると、かめの中の表面に酢酸菌の膜が蜘蛛の巣のように張ります。これが良い菌の膜だと判断したら、ほかのかめにも移します。
「良い菌は白っぽい、黄色っぽい色をしていたり、香りが甘かったりします。良い菌は全面に広げ、ちょっと違うなというのがあったら、取り除くというのが私たちの手入れですね。そっくりの菌に騙されて、数日たって、やっぱり良くなかった、ということもあります。生き物なんで思い通りにはいきません」
このようにして職人たちは菌の表情を読み、菌を助けながら、およそ3カ月の発酵を見守ります。そのあと、場所を移して半年以上熟成。出荷されるまでには、1年以上の歳月がかかります。

表面にうっすら白く張った酢酸菌膜。蔵の中では10日おきくらいに新しい酢を仕込み、常にどこかの発酵槽に元気な菌がいる状態を保っています。かめ仕込みの元菌としても使用します。

家伝に残された酢造りの思い

目に見えない菌との二人三脚で造る酢。見た目には分からなくても、確かな味が受け継がれてきました。
「昔は醤油屋さんや味噌屋さんのように、町に1軒、お酢屋さんがあったんですよ。それが、親父から私に代替わりするころに次々廃業していきました。しかし、うちには蔵がある、かめがある、伝わってきた方法があると、自分たちを見直したんです」と、髙橋さんが振り返ります。
高度経済成長の波に日本が沸き返り、大量生産が主流となった時代でした。しかし、速く、たくさん造る方法ではなく、「価値あるものは手の中にある」と、先祖伝来の方法を貫いたといいます。
創業は江戸の昔、1711年。庄分酢には、一子相伝、相続人のみに受け継がれる酢造りを綴った家伝が残されています。木箱に納められた巻物には、今に続く「有機玄米くろ酢」の造り方が記されています。
「前文に〝相続人よりほか、いかなる場合といえども見すること無用のものなり〞と書いてあります。だれにも見せちゃならんということなんです。想像するに、当時は温度計もエアコンもない時代。しかも菌は目に見えないんですよ。真っ暗闇で仕事をしているようなものでしょう。やっと見つけた方法を、子孫に託す思いがあったんでしょうね」
髙橋さんも家伝にならって試行錯誤の酢造りを行ってきました。そしてこの先、息子の清太朗さん(37歳)にも、引き継がれていきます。
子々孫々に手渡されてきた庄分酢の酢造り。バトンをつないできた人々のおかげで、今のおいしさがあると知りました。
お酢を変えると料理が変わります。和洋問わず、和え物、炒め物、煮物に足してみてください。酸味だけではない、時が醸した深いこくと香りが、家庭料理の味を豊かにしてくれることでしょう。

髙橋一精さん(右)と息子の清太朗さん(左)。
庄分酢に残されている家伝の巻物。十五代となる清太朗さんもまだ中を見ていないそうです。

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大地を守る会編集部

大地宅配編集部は、“顔の見える関係”を基本とし、産地と消費地をつなぐストーリーをお届けします。