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山間の地に燦々と

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皮をむいてすだれ状に吊るされた市田柿。みずみずしくおいしそうに見えますが、この段階ではまだまだ手ごわい渋の持ち主でした。甘く濃密な一粒へと変えるのは、自然の力。

福を〝かき〞集める正月の縁起物として親しまれてきた南信州の特産品・市田柿。柿を採って、皮をむき、干す、信州有機農法研究会・林嶺都(みねと)さん(88歳)の手仕事を訪ねます。

市田柿を作って50年

農家の庭先に鈴のように連なる柿、その先にも柿。中央、南の両アルプスに挟まれた天竜川沿いを行くと、日本の原風景のような柿すだれが目に飛び込んできます。11月の澄んだ秋空のもと、多くの家々にまばゆい柿色が光り輝いていました。
これが南信州特産の干し柿、市田柿。柿の品種には大きく分けて甘柿と渋柿があり、市田柿は渋柿です。干す前の生の状態では強い渋みがありますが、じつは一般的な甘柿よりも糖度は高く、干すことで渋に隠れていた甘みが前面に出てきます。
私たちが通常食べている甘柿が日本で発見されたのは鎌倉時代(※)。それまで柿といえば渋柿だったと聞くと、里山に美しく実る果実を何とか食べられるものにしたい、そう知恵を絞った先人たちの姿が目に浮かんできます。
長野県飯田市千栄(ちはえ)。山懐に抱かれる地で、この市田柿を作るのが林嶺都(みねと)さん。大地を守る会創設のころから50年近く、私共の生産基準に合わせて製造を続けています。

林さんの園地は、天竜川に沿って伸びる伊那谷の南端から奥に入った場所にあります。もとは養蚕と米を手掛ける農家でしたが、林さんの代で果樹をはじめました。「山と坂しかなかった」桑畑を整地して市田柿を植えたそうです。
吊るして1週間。このあと水分が抜けて3分の1くらいの重さになったら紐から外して平らな場所で干し、表面に白い粉が少々出たら柿もみを行います。柿もみとは柿をもんで水分を出すことで、粉を噴かせる作業。表面を糖の結晶が覆って甘くおいしくなります。
この日は、鼎(かなえ)地区の弟さんの柿畑へ。原料の柿を分けてもらいました。同じ飯田市内ですが標高が低くこちらは平年通り。
林嶺都さん(88歳)と右・弟の常盤美紀夫さん(86歳)。常盤さんもこの日の午前中、100本1500コの柿を吊るしました。

日に日に甘くなっていく

市田柿を干す前の生柿は、顔をしかめてしまうほどの強烈な渋み。少しかじるだけで、口の中を渋が覆い、まとわりついてはなれません。
これがあの干し柿になるとは。
にわかには信じ難いギャップを感じますが、1週間干したもの、2週間干したものと、順々にいただいてみると、甘みが次第に凝縮して、渋みがなくなるのが分かります。
「干し柿はただ干せばいいってもんじゃない。3日で乾かしたって甘くならん。一定の時間をかけないと渋が残るから難しいんだ」と林さん。
市田柿の収穫は例年10月下旬からはじまり、皮をむいて20日間ほど、重量が35%程度になるまで吊るした状態で干します。早く乾きすぎると渋が残り、湿りすぎるとカビが発生するため、「程よく徐々に」乾かさなくてはなりません。大切なのはこの間の天候です。
「雨が2日続いて気温が13℃以上にもなればカビがくる。カビが生え出すと30分で倍に増えていくでな。だから毎日天気とにらめっこでな。柿ほど神経を使うものはないんだ」
運を天に任せつつ、雨の日は湿気が入らないよう干し場の開閉を調節したり、大型の扇風機で風を送ったりと、こまめに柿の世話をして人事を尽くし、渋が抜けるのを待ちます。
「渋はな、抜けてもなくなるわけじゃない。渋みのもとのタンニンが干すことで変化して、舌が渋みを感じなくなるだけなんだ。そうなると、柿の甘みが前に出る。ぽってりとしてうまくなるんだ」

市田柿は、つんと尖った紡錘形で1コ100 ~ 120gと小さめの品種です。林さんの柿畑では日当たりの良いところほど、過熟に。日陰の柿は良い状態で採れました。
1コずつ機械を通してむいていきます。まずヘタを取ってヘタの周りの皮をむき、そのあと回転させながら全体をむきます。
皮をむき終えたら、フックに柿のほぞ(軸の部分)を引っ掛けて吊るしていきます。柿を傷付けないよう一つ一つ慎重に。
吊るしてから1週間たちました。だいぶ小さくなってきているのが分かるでしょうか?直径7~8㎝だったものが5㎝ほどになって、水分が抜け、表面が乾いてきています。
うっすらと糖の結晶を纏って完成間近。陽の光と風が育んだ、蜜のような甘みが詰まっています。

硫黄燻蒸に頼らずに

天候に左右され、思うようにいかない市田柿作りですが、一つだけ作業を楽にする方法があります。それが硫黄燻蒸による消毒です。
干し柿の食品表示ラベルの原材料欄に「酸化防止剤(二酸化硫黄)」と記されていることがありますが、これは製造過程において、硫黄による燻蒸消毒が行われていることを示しています。硫黄の粉を燃やした煙で燻すことで、酸化を抑えて色を良くしたり、カビを抑制したりする効果があり、多くの干し柿製造に用いられている方法です。
大地を守る会では素材の味を大切にしたいという考えのもと、扱う干し柿は硫黄燻蒸を施していないものに限定しています。そのため大変手間がかかり、製品として出荷できないリスクと背中合わせですが、林さんも長年、この方法に頼らず製造を続けています。

今年はとりわけ貴重な味わい

「50年やってきて、こんな年ははじめてだ」。溌溂と元気な林さんの表情が曇ります。理由は、収穫を迎えた柿の状況でした。
「10月終わりごろまでは実りも良くて、見事な柿だって喜んどったでな。しかし11月に入って色付く前にやわくなって落ちてしまった。気候の影響としかいいようがないな」
柿は果実の下から色付き、ヘタの際のところまで赤くなったら収穫の合図です。通常であれば、その時点で果肉はかたい状態ですが、色付きより先に熟してしまい、残念ながら多くが落果してしまったといいます。
昨年は夏が長く、突然すとんと冬に切り替わるような極端な季節を過ごしたことは記憶に新しいでしょう。市田柿をおいしく仕上げるのに重要な役割を担う天竜川の川霧も、林さんの園地まで上がってくるのが遅かったといいます。こうしたこともあり、この冬皆さんにお届けする『林さんの市田柿』は、例年の半分ほどのご用意となってしまいました。少ないながらも、いつも以上に出来は良いということが救いです。
小ぶりな姿。飴色の果肉。薄くまとった糖の結晶。洋菓子のような煌びやかさそないものの、上品な甘みが詰まった一粒は、高級菓子にも引けを取りません。今季はとりわけ貴重なおいしさとなりました。ぜひ、冬のお茶請けにお楽しみいただければと思います。

※参考:「aff」(農林水産省、2018年10月号)

林さんの市田柿はこちら
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大地を守る会編集部

大地宅配編集部は、“顔の見える関係”を基本とし、産地と消費地をつなぐストーリーをお届けします。