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崖っぷちでつながる山と人

【NEWS大地を守る5月号】南伊豆、受け継がれる山仕事

段々畑でニューサマーオレンジを収穫中の父・飯田健彦さん(右)と息子・健二さん(左)。

初夏に眩しい彩りを添える柑橘。伊豆半島の最南端に位置する静岡県南伊豆の山々では、実りの時季を迎えています。南伊豆の山で柑橘を育てる〝山仕事〞をする、親子生産者を訪ねました。

 

甘酸っぱい柑橘畑での山仕事

清澄な空気にあふれ、青々と生い茂る山々。鮮緑の中には橙色や黄色がきらめいています。「この黄色はニューサマーオレンジ、あの橙色は甘夏。福原オレンジやはるか、夏みかんなど、他にもたくさん育てているよ」。山の斜面に点在する畑を見渡すのは、静岡県南伊豆の山で農薬・化学肥料に頼らずに柑橘を育てる、南伊豆太陽苑生産者グループの飯田健彦さん・健二さん親子です。

南伊豆の山の斜面に点在する柑橘畑。味がのった頃に動物たちが実を食べてしまうことも。

一番好きな柑橘は「その時、旬を迎えているもの」と口を揃える2人。


柑橘といえば、まずは温州みかんを思い浮かべますが、主に年明けから初夏にかけて収穫される温州みかん以外の柑橘のことを、「中晩柑」と呼びます。「祖父の代から中晩柑を栽培し始めました。みかん以外の柑橘の需要が高まってきていたんです。今は甘みが強い品種が好まれる傾向もありますが、昔から親しんでいる味やさまざまな味を楽しむため、中晩柑は幅広い品種が人気ですね」。そう話す父・健彦さんが、母・千里さんと息子・健二さんの家族3人で育てている中晩柑の種類は、約15種類にも及びます。

みずみずしい実りは宝のよう。

上から夏みかん、福原オレンジ、ニューサマーオレンジ。


福原オレンジの木に囲まれた自宅から、少し歩いた山間に位置する畑には、ニューサマーオレンジや夏みかんがたわわに実っています。「ニューサマーオレンジは小田原でも寒すぎてうまく育ちません。全般的に、柑橘は低温に弱い作物。冬は偏西風が吹き、霜も降りず雪も積もらない気候の南伊豆だからこそ、さまざまな柑橘を育てることができます」とは健二さん。また、大半の地域では、霜が降りる前に実を収穫し、酸味を和らげるために貯蔵してから出荷します。一方、温暖な南伊豆では、出荷直前まで実を木にならせておき、完熟したものを出荷することができるのです。

4年前に柑橘農家を継ぐ決心をした健二さん。


収穫真っ只中のニューサマーオレンジを、手にハサミとかごを持ち、一つひとつ摘んでいきます。背の高い木は脚立に登って収穫するという飯田さんの畑では、ほぼすべてが手作業です。「山で傾斜があり、一つの平地が広くないので、大きな機械は使えません。膝と腰が痛くなるね」。次の木に移動するため、健彦さんは斜面を歩いて登っていきます。

ハサミとかごを手に、一つひとつ摘んでいきます。

重いかごを持っての坂も一苦労。


さらに今、飯田さんたちを悩ませているのが獣害です。「イノシシやシカ、サルなどの数が急増しています。味がのった頃に畑にやってきて、実を食べてしまうんです。昨年は、すべての実が食べられてしまった木もあるほどです」。柑橘畑での〝山仕事〞は、豊かさと同時に、厳しさも持ち合わせているのです。

ニューサマーオレンジはりんごのように包丁で皮をむきます。

ほんのりと甘みを感じる白いわたも一緒に召し上がれ。

食べやすくカット。グレープフルーツのような風味です。

 

竹炭で山と作物を手入れする

同じ南伊豆の山で、もう一つの〝山仕事〞をしているのが、山本剛(ごう)さん・哲農(てつのう)さん親子です。たけのこやみかんを育てる一方、竹炭を作っています。

竹炭を作る父・山本剛さん(左)と息子・哲農さん(右)。

 

「南伊豆の山では昔から竹が植えられ、竹炭も作られてきました。たけのこを採り、竹を焼いて竹炭を作って竹林にまくと、土が肥え、質のいいたけのこが採れる。竹林を手入れすることで、山の循環を保ってきたんです」。そう話すのは、今では生産者がほぼいなくなった竹炭作りに、約30年前から取り組み始めた父・剛さん。竹炭を使った有機質肥料も作り、南伊豆太陽苑生産者グループの皆さんが使用しています。「竹炭は微生物の棲みかになります。ミネラルを補給することに加え、微生物が土を耕してくれるので、土壌改良になるんですよ」。南伊豆では、これまで続いてきた山と山仕事の循環が守られています。

この大きさの竹炭の表面積は、なんとテニスコート2面分。

微生物の棲みかとなる竹炭は、土の質を改善します。

 


親から子へ。これからへの想い

地勢による苦労や獣害など、決して甘くない南伊豆の山仕事。生産者の数は急激に減りつつあります。南伊豆太陽苑生産者グループも19軒いるものの、後継者としての若手はそのうち3〜4人です。

しかし、親の背中を見て、山仕事を受け継ぐ決心をした息子がいます。「5歳の時から、たけのこ掘りを手伝いに山に入っていました。放棄されて荒れた山やたくさんのゴミが捨てられた山、化学肥料を多く使った畑などもこれまで見てきました。だからこそ今、山の循環が生み出す力を実感しています。微生物が元気に棲まうよい土は、手ざわりが全然違い、喜びがある。食も同じように作っていきたいです」とは山本哲農さん。「小さい頃から当たり前のようにあった、山で柑橘を育てる風景とその味わい。なくなるのはやっぱりさびしいんです。この風景と味を、残していきたい」と、橙色と黄色が眩しい柑橘畑を背に飯田健二さんは話します。


私たちの食卓にずっと寄り添ってくれている柑橘は、悠然と佇む山々と、山仕事を受け継ぐ人々とつながっています。

 

南伊豆太陽苑生産者グループのニューサマーオレンジを含む、柑橘はこちら

※異なる産地のものをお届けする場合があります。

※「ニューサマーオレンジ」は、枝変わりでできたオレンジ色のものをお届けする場合があります。

※該当商品の取り扱いがない場合があります。

 

大地を守る社会貢献活動(CSR)をすすめる会

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