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【NEWS大地を守る1月号】ふたり、白菜の町で

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9月半ばに定植(畑に苗を植えること)して、11月下旬に収穫を迎えた黄芯の白菜「あきめき」の畑にて。茨城県八千代町の小野寺孝一さん(72歳・左)ときよ子さん(67歳・右)。土壌消毒を行わない畑には、野の花が揺れています。

白菜の一大産地の町で40年以上、〝自分の栽培〞を貫く小野寺孝一さん夫婦。収穫したての白菜はふくよかで、朝日を浴びてきらきらと光っていました。夫婦2人のあたたかな野菜作り。

大きな白菜を一つ一つ収穫

ざくざく、ぱらり。畑の端から2人で並び、白菜の根元を包丁で切って外葉を外しながら、一つ一つ脇に積んでいきます。白菜はずっしり重く、抱えるのにも一苦労。それでも畝の列ごとにスタートした収穫はそろって終了し、次は反対の端からダンボール箱におさめます。この日は80箱300コ以上を採りました。
これが小野寺孝一さん(72歳)、きよ子さん(67歳)の白菜の収穫風景。慣れた手つきとはいえ、「包丁片手に白菜抱えてかがむでしょ。腰が痛いどこじゃないよ。アハハ」と、きよ子さん。けれども、「孝一さんの野菜は白菜でも長ねぎでもなーんでも甘みがあるんだって。大変だけど、みんながおいしいって喜んでくれるから、それが一番じゃないの」と、清々しい笑顔を見せます。

一つ3kgにもなる白菜を抱えて、外葉を落としながら収穫していきます。手を止めることなく前に進んで、畝一列が終わるとほっと一息、また次の畝へ。

畑を休ませ、野菜をローテーション

茨城県八千代町は筑波山を望む平地が広がる町で、農地が多くを占める場所。白菜の出荷量全国一位を誇る茨城県の中でも、特に出荷量が豊富な一大産地です(※)。
孝一さんはこの地で生まれて農家を継ぎ、自身の代で農薬や化学肥料に頼らない栽培に切り替えました。
「ここは白菜の産地だからね。産地として維持していくために、あらゆる手段を使って栽培してるところも多いよ」と孝一さん。「だけどね。うちはそういうことはしたくない。無理せず自然な時期に定植して、ちゃんと根付いて、健康に育つのがいいよな」と静かに語ります。

いきいきと断面から水分あふれる白菜。ダンボール箱で出荷するため、週間予報を見て、雨予報だと収穫は前倒しします。

「連作障害」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。同じ畑で同じ科や品種の作物を作り続けると、生育が悪くなったり、収穫量が減ったり、病害虫が発生したりといったことがおこりやすくなります。たとえば白菜を植え続けると白菜が好む養分が土の中で減り、白菜に寄り付く病原菌が増える。こうして土の中のバランスが偏っていくことで、採れない、育たない、病気になるといった障害が生じるのです。
農家にとって死活問題のこの障害を防ぐために、一般的な栽培では土壌に消毒剤を散布します。そうすることで白菜は春と秋冬の2回栽培が可能になり、効率的というわけです。
しかし孝一さんは、「うちは1年に1作」と、白菜は秋冬にしか作りません。畑を休ませている間に自家製のたい肥を入れて土を活性化させ、土壌消毒に頼らない代わりに、異なる作物を交替で栽培したり圃場を変えたりします。キャベツの翌年は長ねぎ、その後は3年休んで白菜といった具合に、ローテーションを組むことで土の健康を保つのです。
使うのは農薬ではなく植物の力、そして人の知恵。露地栽培とハウス栽培合わせて24カ所もある圃場で、夏はメロン、秋冬は白菜やキャベツなど約10種類の野菜を作る中、「圃場×作物×時期」を組み合わせて栽培しています。

葉がぎっしりと豊かなサニーレタス。寒さに弱いため露地栽培は強い霜が降りる前の12月まで。
繊細な春菊はハウス内でさらに寒さよけの被覆を行い、朝夕開閉に回ります。上から25㎝のところを手でぽきっと折って収穫。
夏にメロンを作るこのハウスで秋冬はかぶを栽培。ハウスには炭と米ぬか入れて土を作っていますが、「満遍なく撒けるから」と、こちらも「手で」撒きます。

草は生えて、雹も降る

「草が生えてんのがうちの畑だよ」と孝一さんが案内してくれた畑には、ぺんぺん草やホトケノザが花を揺らし、ハコベが青く蔓延っています。「草が生えんのが当たり前。草が育ったら作物も良くできるんだ」と孝一さん。人間の都合に合わせて、草だけ生えず、野菜が育つということはありません。この姿こそ「健康な土」。しかし、草に悩まされる現実もあります。
「今年の夏は乾燥して暑かった割に草の育ちが凄まじかったよな。この畑で何回草取りに入ったっけな」と孝一さんが尋ねると、「忘れっちゃうほど入ったよ。覚えてらんないよな」ときよ子さん。だいたいのことを「手でやる」という2人は、草も鎌で刈り取りますが、この夏はかつてないレベルだったと話します。
作物の生育時期に草が茂ると、栄養も日光も取られるうえに虫も付きます。猛暑の中、少しでも日が陰ったころにと15時ごろから4〜5人での草取りに追われる日が続きました。
加えてこの秋は、激しい雹が一帯を襲いました。被害が特に大きかったのは定植から1カ月の白菜畑。隣り合う白菜の外葉同士が重なった生長半ばのころです。
「雹が打ちつけて外葉は穴だらけ。ずいぶん傷めつけられて、かわいそうだった。自然には勝てないからどうにもならないな」と、孝一さん。きよ子さんも「来年は(雹が)来ませんようにって祈るくらいしかできないもんな」と受け止めます。
被害にあったのはやわらかくて甘いと評判の品種「めぐみ」。1万2000株もです。育つかどうかと見守る心中は計り知れません。

目覚めると天気を気にかけ、畑を回るのが日課。「観察力を高めることが大事」と植物の声を聞く栽培を行ってきました。

誇れる野菜を作ってきた

孝一さんが現在の栽培に至ったきっかけは40年ほど前に遡ります。
「ある人に〝この先、輸入が自由化されたら大規模農業にはかなわない。自分が責任を持って、誇れる作物を作った方がいい〞っていわれたんだよな。それには10年先を見据えて、土作りを大事にするんだって」。
1980年代、農薬や化学肥料を使わない栽培が珍しい時代に、「まずは植物が根を張る土から責任持って作るべき」と説く人がいました。孝一さんは先生と仰ぐその人との貴重な縁を得て、「植物の特性を生かす」栽培に舵を切ったといいます。
それから40余年が経ち、孝一さんが作る作物は見事な味と評判に。誇れる作物を目指してやってきて、実を結んだと胸を張れるでしょう。
翻って私たち、作物を受け取る側に目を向けます。一つ3㎏にもなる白菜の収穫や、炎天下の草取り、雹で被る損失。遠い産地の出来事を、自分事と捉えるのは難しいかもしれません。しかし、その負担を生産者だけが負うのではなく、私たちは心の距離を近づけ、日々の料理で積極的に食べることで応援したいと思います。
この日、きよ子さんが白菜づくしの食事をふるまってくれました。白菜は漬ける、蒸す、和える、揚げると、目の前で七変化。「白菜をいっぱい食べてほしくて」と差し出す料理には、光が差すようなぬくもりを感じました。旬のおいしさはまだ続きます。皆さんもどうぞ召し上がってみてください。

採りたての白菜の外葉は外して鶏にあげ、あとはお昼のおかずに。
豚バラ白菜蒸しと白菜ツナサラダ、かき揚げ、白菜漬けが並ぶ、きよ子さんの白菜フルコース。
「夕べ慌てて漬けたんだよ」と白菜漬けで出迎えてくれます。
塩もみしてツナと和えたサラダにゆずをぎゅっと。「旬だからね」と庭から採ってきたばかり。
「出荷されない下の部分がじつはおいしい」と、春菊の茎をさっとゆでてくれました。香り高く歯ごたえも良く、山菜の趣です。

※出典:農林水産省ホームページ「作物統計調査/作況調査(野菜) 確報 令和3年産野菜生産出荷統計」2022年12月20日公表

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大地を守る会編集部

大地宅配編集部は、“顔の見える関係”を基本とし、産地と消費地をつなぐストーリーをお届けします。