日本の食卓にもっともなじみ深い魚「鮭」。海から山へとつながる生態系が保たれる、世界遺産の地・知床は知床ジャニー(北海道斜里町)を訪ね、知床の、ひいては日本の鮭の現状を見つめてきました。
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身近な鮭、産地は?
四方を海に囲まれ、魚をよく食べる日本で、古くから皆に親しまれる、鮭。和定食やおむすびなど普段の食事から、塩漬けして熟成させた年末の贈答品「新巻鮭(あらまきざけ)」まで、さまざまな料理で鮭は私たちの食文化に深く関わっています。しかし現在、市場でよく目にするのは海外産の養殖鮭。国産のものは価格が高いというイメージを持つようになった人も少なくないでしょう。
「高いから国産の鮭は売れないと生産者自身が言ってしまったら、俺たちも鮭文化もつぶれてしまう。それに今、もしかしたら知床の海から鮭がいなくなるかもしれないという状況もあるんだよね」。そう話すのは、オホーツク海に長く突き出た知床半島で獲れた天然鮭を加工する、知床ジャニー(北海道斜里町)の代表・羽田野(はたの)達也さんです。 9月から11月の3カ月にわたる知床での鮭漁が、今年も始まっていました。
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知床の大自然に抱かれて
船が港を出発したのは、まだ日が昇らぬ朝4時。ベテラン漁師から若い漁師まで約10人が乗り込んだ船は、真っ暗な海でしぶきをあげながら、定置網を設置してある漁場へ向かいます。横に目を向けると、半島にそびえる山々が暗やみの中でどっしりと構えています。
2005年、海洋を含めて知床は世界自然遺産に登録されました。北半球において流氷が流れ着く世界最南端であるオホーツク海。1月から3月にかけて流氷で一面が白くなるというこの知床の海では、流氷とともに運ばれてくる栄養分が魚や海獣類、鳥類などの命へとつながっていきます。鮭は雪解け水とともに生まれた河川から、流氷による栄養分が豊富なオホーツク海に降りて滞在した後、2〜8年にわたる北太平洋、ベーリング海、アラスカ海での回遊でえさを捕獲して大きく成長し、再び生まれた河川を目指し遡上します。そこで鮭は山の生き物のえさや土となり、海と山においても命の輪が循環していくのです。
「知床で魚といえば鮭だね。ここでは回遊で栄養を蓄えた状態の鮭を海で獲るから、味がのってるよ」。生まれも育ちも知床の羽田野さんは、すでに冬のように寒い秋の朝方の船上でも、はきはきと明るく話します。
日が昇り始め、半島の山々の輪郭がはっきりとしてくる頃、漁師たちは息を合わせて網をたぐり寄せ、鮭を船に揚げていきます。「今年はぜんぜん獲れないね。原因は海水温が高いからともいわれているけれど、魚に聞いてみないと分からない」とは船頭の横田正則さん。羽田野さんの高校の先輩で、その信頼関係から羽田野さんはこの漁船から鮭をよく仕入れています。
水揚げされた鮭は斜里岳の麓にある加工場へ。塩鮭は岩塩をまぶし、3日間寝かせてうまみを引き出した後、余分な塩を流して手切りします。切り身となった姿にも、知床の海の恵みという凛とした美しさがありました。
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魚食の国で暮らす私たちの選択
「知床は日本有数の鮭の産地で、後継者の若い漁師も多い。一方で、鮭の漁獲量は、折れ線グラフでいうとジグザグを描きながら年々減ってきている。この10年で、ここではもともと獲れないはずのブリも獲れるようなうったんだよね。そして海外では、日本の大手水産関係会社が教えた養殖の方法で、薬剤なども使って育てた鮭が、日本に安く〝逆輸入〞されている。このままだと、日本の天然鮭漁や伝統の鮭加工が続かなくなるかもしれない。知床の生態系と人々によって、昔からずっと受け継がれてきた国産の天然鮭を、皆さんには選んで食べてほしい」。そう力強く語った羽田野さんは、「知床の鮭ならやっぱり塩焼きだよね。俺は毎日でも飽きないね」と屈託のない笑顔で言いました。
「国産の天然鮭を大切に食べよう」。これは、自然、人、そして鮭も巡りゆく知床からのメッセージ。魚食の国で暮らす私たちの選択に、日本の鮭の未来がかかっています。
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