30年にわたり農薬や化学肥料に頼らず、野菜を育て続けるさんぶ野菜ネットワーク(千葉県山武市)。10年前、新規就農制度を始めました。その種は今、確実に芽吹いています。
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「危機感が足らないんだよ」
温暖な気候と首都圏という立地から、農業が盛んな千葉県。太平洋を望む真っ直ぐな海岸線・九十九里浜のほぼ真ん中に位置する山武市にあるのが、人参をはじめレタスやほうれんそうなど、年間を通じて大地を守る会に野菜を出荷しているさんぶ野菜ネットワークです。1988年、29名の農家で山武農協内の有機部会として発足させ、2005年に独立。現在は、50名の農家が農薬や化学肥料に頼らず、年間約60品目の野菜を育て、その畑を広げてきました。
「今、メンバーのうち、70歳過ぎの5人、60歳過ぎの5人には後継者がいないんだよ。日本全体を見ても、基幹的農業従事者(仕事として普段、主に農業に従事する者)の数は、この3年間で30万人以上減少している(※)。農地の面積も減っていて、耕作放棄地は増えている。山武市内の耕作放棄地もこれから増えていくと思うよ。有機農業どころか、農業そのものや地域のコミュニティーがなくなる。 食糧を作る人がいなくなって、これから日本は大変になる。皆、危機感が足らないんだよ」。一面に人参が植わっている畑の間に耕作放棄地がちらほらと見える風景の中、車を走らせながら話すのは、さんぶ野菜ネットワークの事務局長・下山久信さんです。若い頃、連作障害や農薬散布による体調不良に苦しむ農家を見て、近隣で行われていた微生物農法に関心を持ち、発足時からさんぶ野菜ネットワークを支えています。「そこで、増えている新規就農者がキモだと考えて、10年前から新規就農制度を始めたんだよ」。
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師匠や仲間で弟子を育てる
ブロッコリーを収穫したかと思えば、収穫し終えた人参を洗うなど、テキパキと仕事を進めるのは大倉功さん。メンバーで下山さんの息子・ 修弘さんのもとで、研修生として農業を行っています。
さんぶ野菜ネットワークの新規就農制度は、2年または4年、〝師匠〞となるメンバーのもと、一緒に農業に取り組んだのちに独立するというものです。大倉さんはいよいよ2019年6月に独立して農家デビュー予定。購入した土地で、修弘さんから教わった太陽熱消毒や緑肥の混ぜ込みなどを終え、天地返しで通気性・排水性がよく、微生物が棲みやすい土壌にしている真っ最中でもあります。
「土作りから出荷までとにかく実践で、体で覚える感じです。修弘さんは法人化して複数のメンバーでやっているので、チームでやる農業も教えてもらっています。独立したらまず人参やトマトなどを育てて、天候不順のためにハウス栽培にも取り組みたいです」。医療関係の家族が多く、「だったら病気になる前から予防する食を作っちゃおう」と決心した大倉さんは、すでに独立後のことを具体的に描いています。
〝師匠〞の修弘さんは、「他ではあまり実践させてくれないところもあるけれど、うちは注意すべき点くらいを伝えて、『できなくても考えてやってみて』っ て。自立した時にやらないといけないからね。大倉くんは真面目でビジョンもあるし、3〜4年したら軌道に乗るんじゃないかな」。最初は手探りで新規就農制度を始めた父のもと、その新規就農者1号である修弘さんは、自らの経験から、大倉さんを力強く、また温かく見守ります。
車で少し移動したところにある畑で人参を収穫するのは、就農8年目の江波戸(えばと)康裕さん。「畑・作業小屋・家がセットの物件をさんぶ野菜ネッワークに紹介してもらいました」。さんぶ野菜ネットワークの集会で出会った、同じく新規就農者の妻・澄子さんと行う畑仕事を、下山さんはときどき見に来ます。
「下山さんは空いている畑の有無や、栽培技術の勉強会の開催情報なども教えてくれるんです。新規就農の若い仲間とは、スマホで素朴な疑問を聞くなどのやりとりもしています」とは澄子さん。2019年も研修生を受け入れる江波戸さんは、〝師匠〞への道も歩み始めています。
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でもだからこそ〝つながり〞
さんぶ野菜ネットワークの新規就農制度で、2019年も5名の農家が生まれます。「日本全体で就農する人の3割くらいが有機農業を選んでいると感じる。一方、異常気象や地震で農業生産が困難になっている。でもだからこそ、農業も生き方も〝つながり〞が大事。助けてくれるから。1人では生きられないんだよ」。畑を見つめる下山さんは、どこまでも温かい眼差しです。
自然のエネルギーを活用し、食べ物を生み出す生業・有機農業では、これまで担ってきた人とこれから担う人が立ち上がっています。次は、その恵みを私たちが食べつないでいく番です。
※農林水産省2018年 「農業労働力に関する統計」参考
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