100年続く老舗の佃煮・惣菜屋が守り続けるのは、昔ながらの食のあり方。東京・日本橋の遠忠食品を訪ねました。
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変わりゆく東京、自給率は1%
佃煮の老舗・遠忠食品(東京都中央区)の創業は1913年。町の惣菜屋さんとして開業しました。現社長の宮島一晃さんは3代目。祖父で初代の宮島忠吉さんが、遠州(現・静岡県)から上京し、「遠忠商店」を開いたのがはじまりです。
戦前は深川区(現・江東区)住吉町に店を構えていましたが、戦後に日本橋に移転。以来、日本橋から東京の食文化を発信してきました。
千葉・浦安からアサリを売りにくる漁師、ボウルを持って買い物にくるお客さんなど、大勢の人で賑わっていた、そんな日本橋の風景をよく覚えていると宮島さんは懐かしそうに笑顔を見せます。
1971年に埼玉県越谷市に工場と従業員社宅を移転しますが、それまでは、職人さんたちが住み込み、1階を工場、2階を住まいとして、製造に当たっていたそうです。
東京のど真ん中で、食に携わってきた遠忠食品ですが、東京は食のあり方が特に大きく変化してきた街でもあります。
「特にこの50年であまりに変わりすぎましたよね。東京の食料自給率、わかりますか? わずか1%なんです」
日本全体の食料自給率は37%※。中でも消費の街である東京は、一段と低い数字を記録し続けてきました。2019年に至っては、ついに0%※に。そんな中でも、宮島さんたちは「東京の食」を守り続けようとしています。
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職人が付きっきりの直火炊き製法
遠忠食品を代表する商品の一つ、「江戸前でぃ 生のり佃煮」も、東京湾ののりを使った商品です。その名の通り、生のりで作る佃煮。江戸時代からののりの名産地である木更津産の生のりを使用していて、乾のりと比べて食感の良さが自慢です。水分を抜いた状態で冷凍したのりは、のりの風味が抜けないように洗ってゴミを取り、水を切ってから煮込みます。釜の前で2時間、人が付きっきり。手間がかかります。
遠忠食品の佃煮は、創業当初から変わらず、直火炊きという製法で作っています。昔ながらの家庭での作り方と変わりません。
直径90センチの大釜の前に職人が立ち、煮込んでいく作業は重労働。職人として一人前になるまで、5年はかかるそうです。
効率・量重視のために、ボイラーからパイプで熱を届ける蒸気釜を導入する工場が20年ほど前から増えていますが、蒸気だと温度が100℃ほどまでしか上がりません。
「直火釜は火力が強く、油断すると焦げてしまうんですが、焦げる寸前まで煮るのが大事なんです。ふっくらして、醤油の香ばしい香りが際立ちます」
原料によっては、収穫や水揚げの時期によって、硬さなども少しずつ異なります。原料の状態、そしてその日の気温や湿度も考慮しながら煮込んでいくのはまさに職人技。
「スーパーでよく見かけるのりの佃煮とは、のりの含有量も全然違いますよ」と宮島さんは胸を張ります。取材のために、ある実験をしてくださいました。他社ののり佃煮と、遠忠食品ののり佃煮を10グラムずつお湯に溶いて比較する実験です。結果は右ページ下の写真の通り。遠忠食品の佃煮は、のりの形がはっきりと残り、余分なものでカサ増ししていないことが一目瞭然。カラメル色素のような着色料など食品添加物も使っていません。
佃煮や惣菜など、遠忠食品が製造するのは加工食品。それを支えるのは原料を生産する生産者の人たちです。宮島さんは、産地には必ず足を運んで、漁師や農家の人たちと話をして、素材を入手していると言います。商社任せにせず、生産者とつながるからこそ、売ることにも力が入るのだと宮島さんは言います。
「僕は大地を守る会の生産者さんたちも、同志だと思っています」
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原材料表示の向こう側に
コロナ禍でマスクの供給が不安定だった時期、「足りなくなったのは輸入に頼っているから。食でも同じことが起きる」と宮島さんは思ったそうです。
「今、日本に輸出している国も、自国の食べ物がなくなったら輸出しなくなります。供給が止まってしまう可能性がある。だからこそ、一次産業と手を組んで作っていかないといけない」
国産原料はすでに、たくさん量を買うから安く買える、という時代ではなく、量を確保するために割高に支払う時代になっていると言います。
「原料は電話1本で買えるものじゃない。国産原料を仕入れるのはこれから難しくなると思います。そのうち、作り手が買い手を選ぶ時代がくる」
と宮島さんは言います。だからこそ生産者とつながり、そして消費者ともつながることを大事にしています。
もちろん、輸入に頼った大量生産のものと同じような安さにはできません。価格が異なる理由を消費者がわかるように伝えていくことも売る側の使命。
「生産者の思いや産地の状況など、原材料名の表示の向こう側にあるものを、消費者に伝えたいと思っています。最近は、よりわかりやすく伝えるため、生産者の元を訪ねて動画の制作も始めました。価値を理解してくれるお客さんも増えていますよ」
そんな宮島さんの背中を見てきた息子の大地さんが、今では4代目として修行中です。大学では建築学を学び、一度は住宅営業などの仕事に就きましたが、ある日突然、会社を継ぐと宣言。宮島さんは「継いでほしいとは一度も言ったことはなかったけれど、嬉しかったね」と振り返ります。
幼い頃から、仕事を手伝ったり、漁師さんのところに一緒に連れて行ってもらっていたと言う大地さん。
「父は常日頃から一次産業を大事にしたいと話していました。生産者の方々とのパイプの太さは、僕も見習って受け継いでいきたいです」(大地さん)
大地さんは工場の管理を主に担当していますが、若いパワーが入ったことで、現場はさらに活気にあふれているのだとか。
「職人さんと息を合わせるのが大変。『そんなのやってられねぇ』と言われたこともありますが、時にはぶつかりながらもがむしゃらにやっています。気持ちが通じて、現場からも新商品の提案などが出てきた時は嬉しかったですね」(大地さん)
米の消費が減るに連れて、一般的には佃煮も食卓にのる機会が減っていますが、大地さんは若いアイデアを武器に、佃煮の新しい側面を見つけて生かしていこうと尽力しています。例えば、ごはんにのせるだけではない、こんな新しい食べ方も。
「佃煮はしっかり味付けしてあるので、調味料がわりに使うこともできるんです。おすすめは『のりバタートースト』と『昆布佃煮の無限ピーマン』。トーストはバターと一緒にのせて焼くだけ。ピーマンは細切りにして加熱し、昆布の佃煮とあえてごま油をかけるだけで完成です」(大地さん)
「佃煮は日本の『伝統的な食』ですが、時代は回っています。『新しさ』も取り入れながら、うまく循環させていけるといい」(宮島さん)
生産者、流通者、消費者の「三方良し」の世界。みんながつながる輪が広がっていけるのは、その中心で宮島さんたちが、揺らぐことなくしっかり根を張っているからなのかもしれません。
※ 農林水産省「日本の食料自給率」「都道府県の食料自給率」