最先端の研究学園都市、茨城県つくば市。この地でデータと理論に基づいた農業を実践するのが伏田直弘さん率いるふしちゃんファームです。畑をとりまく様々な固定概念を打ち破り、突き進む日々。「やっているのは農業ではなく管理」という、その心は―。
水撒きはスマホ予約で
「頭脳派ビニールハウスって感じ」
「常識にとらわれていない」
「こんなに頭脳を使って農業するなんて」
中継をつないだ動画のチャット欄には視聴者からの驚きのコメントが相次ぎました。2月26日に行われた大地を守る会の「オーガニックフェスタ」での一コマ。全国各地の生産現場と消費者をつなぎ、「顔の見える関係」を満喫するイベントです。
茨城県つくば市のふしちゃんファームでは、小松菜やロメインレタス、水菜を栽培しています。代表の伏田直弘さんが8年前に新規就農したときには8棟だったビニールハウスが、いまでは49 棟に。オーガニックフェスタでは、それらのハウスと中継をつなぎ「最先端IT農業」の一端を伏田さんが紹介しました。
さて、最先端IT農業とは一体どういうことでしょうか。
伏田さんにそう尋ねると、ポケットからスマートフォンを取り出して見せてくれました。「1分後に水を撒く」という内容で予約をすると、その通りにハウスの中のスプリンクラーから水が放出され始めました。
「ハウス1棟ずつに撒いて止めて、をやっていたら大変です。これなら予約しておくだけでいい。夏場には朝4時から水撒きをしますが、家にいながらできますよ」
各ハウスには、トランシーバーのような形をした器具が土の上に設置されています。地中の水分量と地表の温度を測定するための機械です。測定した情報は、1時間ごとにスマートフォンに表示されます。水が足りていない、温度が高い・低いなどの問題があれば、水を撒いたり、ハウスの開け閉めをして調整します。
清貧はいらない 追及するのは利益
伏田さんが新規就農したのは8年前。大学と大学院で農業経営を学んだ伏田さんですが、当初から「IT農業」の設計図が頭の中にあったわけではないと言います。就職した外食産業では、農業法人を立ち上げて農業参入の手伝いを経験。そこで初めて有機農業との出会いがありました。その後、金融機関に転職して個人・法人向けの融資業務を7年経験。異例の経歴を辿り、2015年につくば市で就農しました。研修も受けないままとりあえず農家になってはみたものの、最初の数年間は失敗ばかり続いたと言います。例えば水やり一つにしても、わからないことだらけ。
「水が必要なのかどうなのか、土を見ても何もわからん。挿すだけで勝手に測ってくれるものがあったらなぁと思ったんです」
そうした思いが浮かぶたび展示会などに足を運んで、「失敗」や「面倒」を解決してくれるツールを探しました。水をスプリンクラーで撒くのも、その方が均一に撒けるから。
伏田さんが目指している農業は、「高品質の野菜を安定供給する」こと。そのための設備投資は惜しみません。肥料も全国を回って最高のものばかりを集め独自にブレンドしています。
「収量が取れれば、採算は合うはず。僕は農業やってません。仕組みがうまくワークしているかどうか見て、管理をしてるだけ。ハウス1棟にどれだけお金をかけ、どれだけの利益があったのか。採算が数字でわかるように管理します」
利益を追求するのは、農業を持続可能なものにするため。効率を上げて製造原価を下げることを優先します。
例えばハウスや遮光ネットの開け閉めは、手動でくるくると回すのではなく、電動ドリルを使って一気に回します。
「だってハウスの開け閉めは、何の利益も生み出さないでしょ?」
以前は水を撒いたまま朝まで締め忘れたこともありました。ヒューマンエラーによって発生するコストは無駄以外の何でもありません。タイマー制御で水撒きができるようにし、どうしても人が介在しないといけない作業にだけ、スタッフを配置します。
適正価格で高品質な有機農産物が大量に出回るようになれば、有機農業を取り巻く状況は変わってくると伏田さんは信じています。そのためにも利益を大幅に出せる企業にならなければ。
「〝清貧〞を目指しても若い人はやりません。東京でくすぶっている若者に、『簡単だし、食えるから、やってみない?』と言えるようにならないと、農業は変わらない」
有機の未来を前に進める
「栽培期間の短縮」も効率化の一つ。苗を別で作ってから植えることで、ハウスの中に置く時間を短くし、ハウスを年間8〜9回転させています。これによって供給のスピードが上がるだけではありません。虫と病気にやられるリスクも減らすことができると言います。病虫害の世代が回る前に逃げ切ることができるからです。
ふしちゃんファームのハウス周辺には雑草がほとんど目につきません。
「とにかく大事なのは、雑草が生えない環境を作ること。雑草が生えるとそこに虫がたまって作物に悪さをします。有機だから仕方ない、虫が食べている野菜ほどおいしい、というのは違う。設備投資をしていない、虫を防除する技術がないだけです」
葉物の病害虫防除に関しては、ここに最先端がある、と自負します。それはつくばに拠点を持つ国の研究機関である農研機構と一緒に取り組んでいるから。就農するとき「つくばなら有機農業の最先端の技術を開発できるはず」と考え、縁もゆかりもなかったつくば市を選んだことが功を奏しました。虫がついて困っていた時に、農研機構が開催していた公開授業に申し込んで、そこから繋がった縁です。
大地を守る会を知ったのは学生の頃だったいう伏田さん。その成り立ちに感動して、いつか取引したいなと思っていたところ、たまたま商談会で出会いがあり取引が始まりました。
「自分の子どもに、畑でちぎってそのまま食べさせられる野菜を作るのが私の信念。会長の藤田さんや、大地の生産者の方々の思いを引き継いで、私がさらに前に進めたいと思っています」
伏田さんは、不敵な笑みを浮かべ、こうつぶやきました。
「有機はまだまだこんなもんじゃない」
「小松菜」はこちら
「水菜」はこちら
「ロメインレタス」はこちら
※該当商品の取り扱いが無い場合があります。
※異なる産地のものが届く場合があります。