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この味噌に感謝の思いをのせて

【NEWS大地を守る1月号】いい味噌になぁれ!

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前列中央が大津賀浩司さん、左が妻のゆかさん。現在はこの4人で毎日味噌作りを続けている。

毎朝のお味噌汁を支えてくれる、ニッポンの伝統食材・味噌。その製造は微生物たちとの共同作業です。愛情をかけながら天然醸造で味噌を作り続けている大津賀商店(鳥取県伯耆町)を訪ねました。

お客さんに会いたい

「大地さんで買ってくださるお客さんを1軒1軒回って、ありがとうございます、体の調子はどうですか、と聞いて回りたいんです。死ぬ前にやりたいことは何かと聞かれたら、それしかない。夢なんです。食べてくれる人にすごく感謝しています」
そう熱い口調で語ってくれたのは大津賀商店の大津賀ゆかさん。大地を守る会の定番品として長く愛されてきた「大津賀さんの味噌」を、夫の浩司さんとともに作り続けてきました。
大津賀商店は、鳥取県米子市内で昭和2年に創業。パッケージのイラストでもおなじみ、2代目(現会長)が継いだのち、平成5年に大山の麓にある伯耆町の工場に移転しました。現在では3代目の浩司さんとゆかさんご夫婦の二人三脚で、昔から変わらない製法と味を守り続けています。
天気が良い日は工場から大山がきれいに見えます。日本最古の「神坐す山」として「出雲国風土記」に登場し、西の富士山とも呼ばれるこの山。豊富な伏流水が味噌作りにも大事な役割を果たします。
「米子に工場があったときは、水が硬水だったんです。飲むにはおいしいんですが、ご飯がおいしく炊けるのは軟水と言われています。ここは軟水で、味噌の原料となる米がおいしく蒸しあがるんです」(浩司さん)

山が重なる美しい風景は山陰地方ならで は。豊かな自然の中で、大津賀さんの味噌は育まれる。
澄んだ水が大山周辺の河川を流れる。

先祖代々引き継がれ

早速、味噌作りの現場にも案内してもらいました。
大津賀商店では、1週間の曜日ごとに作業が決まっています。月曜日に米をとぎ、火曜日にその米を蒸します。蒸しあがったお米に麹菌をまぶす種付という作業をし、製麹機へ。水曜日に混ぜ合わせ、麹ができあがるのが木曜日。これに蒸した大豆と塩を混合するまでが木曜日の作業。大豆の蒸し加減は「小指と親指で挟んで潰れるぐらい」が目安だそう。
金曜日に桶に移して仕込んだら、あとは8ヶ月から14ヶ月程度熟成させ、出荷を待ちます。
取材に訪れた日は木曜日。麹に大豆と塩を混ぜ合わせる作業の真っ最中です。
一度に作る量は米が300キロ、大豆260キロ、塩が129キロ。原料の米の分量を増やすと甘口の味噌ができあがります。混ぜ合わせたものを粗いメッシュでミンチにし、桶に入れたら一旦作業は完了。
粗いメッシュを使うのは、始めから細かく挽くと水分が出て粘りが出てしまうため。発酵が終わり出荷する前に、細かいメッシュで滑らかにします。
どの工程も負担の大きな肉体労働ですが、浩司さんは「みんなで仕込みをしているときがいちばん楽しい」と言います。
「精神的にも無になれるし、ストレスがないです。バカみたいな話をしながら、ワイワイガヤガヤやってますよ」
ふと見上げると、天井や壁は黒くくすんでいます。
「先祖代々引き継がれてきたいい酵母がいてくれるから、いい味噌ができる。運がよかったと思います」
桶の中で熟成を待つ味噌たちに、
「いい子だね〜。おいしくなぁれ」
と声をかけるのは、スタッフの井上美佐子さん(75)。まるで我が子のように桶を両手で抱えて撫でています。井上さんは同店で働いてもう20年になるそう。工場のムードメーカーであり、トラックを運転して配送にも駆け回ってくれる頼もしい存在です。
「ここで働いてから、風邪を引かなくなりました。酵母のおかげですよ」とニコニコの笑顔も、つやつやの肌です。

蒸した大豆に麹を混ぜ合わせる。これが酵母の力によって味噌になる。
作業するのはスタッフの本庄伸行さん。
大豆、塩、麹を合わせたら機械でミンチ状にし桶に仕込む。
熟成中の味噌たち。石の入った袋が重しとして乗っている。麹菌の力で自然発酵させる昔ながらの天然醸造だ。
約8 ~ 14 ヶ月(季節により変動)の熟成 を経て、味噌が完成する。
熟成後、出荷前に細かいメッシュを通すこ とで滑らかな味噌に仕上げる。
味噌の入った桶に「いい味噌になあれ」と声をかける井上美佐子さん。

味噌にも感情がある

味噌を我が子のようにかわいがっているのは井上さんだけではありません。
並んだ桶をよく見ると、メッセージを書いた紙が貼ってありました。
「味噌にも感情があるかもしれないと思って、最近始めたんです」(浩司さん)
味噌への感謝を表すメッセージや、「共同体感覚」「他者貢献」といった心理学者アドラーの言葉の引用など、一つひとつ違う言葉が書かれています。
「アドラーは、過去に支配されず、未来を変えたかったら今変えられるんだという考え方をしています。味噌作りも、過去に仕込んだ味噌は関係ない、これからいい味噌を作ろうという考え方をしたいと思ってるんです」(ゆかさん)
大津賀商店と大地を守る会のつながりは、大地を守る会の創成期まで遡ります。つなぐ役割を果たしてくれたのは、「みのり醤油」でもおなじみの日本食品工業(鳥取県境港市)。ともに天然醸造で醤油と味噌を作る2社と、食に対する当会の理念が一致し、取引が始まったのは必然の流れだったかもしれません。大学を卒業した後から、父の背中を見ながらずっと味噌作りに携わってきた浩司さん。
「これしかできないからやっているだけなんだけど」と謙遜しながらも、味噌作りの醍醐味を楽しそうに話すその姿からは、伝統食材を通じて食文化を支えてきた誇りが伺えます。
米と大豆、塩だけというシンプルな原料。工程もシンプルでありながら、微生物たちとともに月日をかけて作り出していく、発酵食品の奥深さ。
「複雑なことをしないから、失敗もないんですよ。お酒なんかと違って、味噌の場合は塩を入れるんで、失敗して腐るということもないんです。塩に守られているから作りやすい」
〝手前味噌〞という言葉があるように、昔から味噌は各家庭で作られ、食べられてきたものでもあります。大津賀商店のある地域では、いまだに個人で味噌を作っている家庭も多いのだとか。
「うちに米と大豆を持ってきて、これで味噌作って、と依頼されることもあります。そういうときはもらった原料で麹を作って、お渡しします。儲けにはなりませんが、地域に対する貢献かなと思って、依頼があればやっているんです」
学校給食や地域の病院などにも納品し愛されている大津賀さんの味噌ですが、「僕の代で終わりと思っています。あと何年続くか」と浩司さん。地方の生産者の多くが抱える後継者不足の問題は、ここでもまた他人事ではありません。

パッケージの版画でおなじみの先代社長(2010年撮影)。
包装は一つずつ手作業で。発酵を止める加熱処理などをしていないので、パッケージの中でも味噌は呼吸を続けている。

大津賀さんの味噌はこちら
※該当商品の取り扱いが無い場合があります。


大地を守る会編集部

大地宅配編集部は、“顔の見える関係”を基本とし、産地と消費地をつなぐストーリーをお届けします。