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干物ってこんなにおいしいんだ

【NEWS大地を守る2月号】干物のイメージを覆そう

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社長夫婦(右)と娘夫婦(左)、仲の良さは負けず劣らず。キッチンスタジオを兼ねるタイタイキッチン・シュエットの前で。タイタイは幼児言葉で「お魚」、シュエットはこの会社の守り神である「フクロウ」を意味する。

厳選した素材、ふっくらジューシーに仕上げる技術、アレンジ自在のレシピアイディア。固い、ダサい、古臭い……そんな干物のイメージを払拭するべく、干物の新たな魅力を発信している渡邊水産(島根県出雲市)を訪ねました。

楽しみ方も発信したい

カマスの開きのアヒージョに、燻製エテカレイのブルーベリーソース和え。試食させてもらったメニューは、〝干物〞のイメージを覆すものばかり。
「干物って、ダサいとか、高齢の人が食べるイメージがある。固くて塩辛いと言われるけど、うちの干物はふっくらジューシー。もっとキラキラしててもいいと思うんです」
そう話すのは渡邊水産の2代目社長・一さんの娘の響子さん。母の美和子さんと共に、冒頭のような干物を使ったレシピを積極的にSNSなどで発信しています。インスタグラムのアカウントをのぞいてみると、おしゃれにセッティングされたテーブルに、スタイリッシュでカラフルな、〝映える〞料理の数々。アクアパッツァにアヒージョ、オープンサンドなど写真が並びます。
「どうしたら干物を食卓に乗せてもらえるか。作るばっかりじゃなく食べ方、楽しみ方を発信していかないといけないと思っているんです」
以前、30歳前後の若い人から「干物ってなんですか?」と聞かれたことがあり、それが危機感を募らせたと言います。オンラインの料理教室を開いたり、地元のファーマーズマーケットに出店したり。〝おいしく楽しく便利〞な干物の良さを知ってもらいたい、と裾野を広げるための活動をしています。
「干物は下ごしらえなしですぐ調理できます。下処理が終わっている食材と考えてもらったらいいんです。時短になるし、ストックもできる。忙しい毎日の食事にも使いやすいんですよ」
と母・美和子さん。アレンジなしにそのまま食べても、そのやわらかさと香りの良さに驚かされます。これは、厳選した材料と熟練の技があってこそ。

山陰沖はいい魚が育つ

渡邊水産の創業者は、社長の父・渡邊朝夫さん。愛媛県の南宇和で海運業をしていましたが、山陰の魚のおいしさに魅了され、出雲で干物屋を創業しました。平成初期まで、干物流通の中心地だった京都市場では、渡邊水産の干物は約1.5〜2倍の値段で取引されていたと言います。
現在では、2代目社長の一さんと妻の美和子さん、そして娘の岩田響子さんと夫の竜平さんの4人を中心に、45名の社員が働いています。初代から受け継ぐこだわりはなんと言っても素材選び。
「干物は脂がのっていないとだめ。カチカチになります。仕入れの時期と場所にはこだわっています」
山陰沖は、魚の餌となるプランクトンの質が良く、脂がのった魚が育つと言われているのだそう。旬を見極め、鮮度の良いものを信頼できる漁師さんから仕入れています。

脂のノリが特徴的な高級魚・ノドグロ (アカムツ)。山陰沖は全国でも有名な一大産地だ。
時期と場所にこだわり抜いて旬のものだ けを仕入れる。脂がのった魚でないと干物はカチカチになってしまう。

竜平さんに加工場を案内してもらいました。
「生魚を扱っているわりには、匂いがほとんどないでしょう? 鮮度が良く、掃除が行き届いているからなんですよ」
奥で魚を洗う工程を担当しているのが一社長です。洗い作業一つとっても、魚種や時期、漁の方法、鮮度によって、洗い方が変わってくるのだそう。
洗った後は、エラを取って背開きにします。
「お腹の部分が一番おいしいから、うちは背開きにしています。鮮度が良くないとできないし、機械ではできないんです」(竜平さん)
魚を開くときには、包丁の滑りで脂の質を見極めます。脂質によって漬ける塩水の濃度と時間が変わってくるからです。旬の時期の魚は、1日違うだけで身の太り方が変わってくるのだそう。この見極めができるようになるまで10年以上の経験が必要だと一社長は言います。
「次世代に伝えていくためにも、加工のマニュアルを作りたいんだけれど、数値化、言語化できるものではない。これがとっても悩みどころです。アミノ酸などのうま味調味料を使えば楽なんです、ごまかせるから」(一社長)
食品として昔はなかったものを加えるのは不自然だ、という考え方から、渡邊水産では着色料や保存料など余計なものは一切使用していません。

社長も現場を動き回って、掃除やら何やら、手を動かし続けているのが印象的だった
魚種や漁の方法によって、洗う時間を調整する。
アジを開く作業。いちばんおいしいお腹の部分を残すため、背開きに。背開きは鮮度がいいからこそできる技だ。
加工場内はほとんどの作業が手作業で行 われている。
串刺しは風が当たりやすい。天日干しは安定しないので冷風乾燥を採用している。

海に広がる温暖化の影響

加工に使用する塩は味をつけるためのものでなく、うま味を引き出すためのもの。使用しているのは室戸沖の海洋深層水由来の塩です。刺すような辛さの塩化ナトリウムと比べてカドがなく、魚の味を引き立ててくれるのだと言います。
「処理して、塩をして、干すだけ。干物はシンプルだからこそ奥深い。父はよく『干物は主役じゃない。ご飯がおいしくなる干物を作ろう』と言っていました。いま世の中にある商品は薄味が主流だけど、塩分上限ギリギリのおいしさを目指しています」(一社長)
大地を守る会との出会いは、若い頃から参加していた有機農業研究会を通じて。干物なのになぜ農業?と思いますが、「海に変なものを流さないでほしい」という思いがあり、参加していたのだと言います。
海は温暖化の影響を真っ先に受ける場所でもあります。獲れていた魚が獲れなくなる。漁場が変わる。そんな状況が各地で起こっています。
「例えば今年はニシンが大量に発生しています。本来は北海道のほうにいるはずの魚。ニシンは中層にいるので、網が底まで入らず、底にいる魚が獲れなくなってしまうんです。ニシンは漁師さんが持って帰っても食べる習慣があまりないため売れません。」
世代交代を見据えていますが、原料である魚が、海が、これからどうなっていくのかは、いちばん大きな心配事でもあります。
海の恵みをいつまで享受することができるのか。私たち一人ひとりと無関係の話ではありません。

上からエボダイ、ササガレイ、カマスの干 物。「もったいナイシリーズ」としてお届けす る、サイズが小さかったり傷がついたものだが、味の良さは変わらない。
焼き姿が美しく身離れもいいのは、適切な 水分量で仕上げているから。焼きすぎず、い つもより2~3分早めにグリルから出すといいそう。
スタッフの皆さん。現在45名の社員が働 いている。

Recipe『カマス開きのアヒージョ』(2人前)

材料:
・カマス開き1尾
・ニンニク1片
・鷹の爪1本
・きのこ、野菜適宜
・オリーブオイル100~150cc
・塩、コショウ少々

作り方:
❶カマス開きを冷蔵庫に移して解凍しておく(3~4時間)。3枚におろし、食べやすい大きさに切る。ニンニクは芯を取り除きスライス、鷹の爪は種を取り除き、きのこは細切りに。
❷小鍋にオリーブオイル、ニンニク、鷹の爪を入れ弱火で油に香りを移す。鍋やスキレットのサイズに合わ
せて油の量は調節を。
❸ニンニクが浮いてきたらカマスときのこを入れて弱火で3~4分加熱する。
❹カマスに火が入ったら、塩・コショウで味を整える。お好みでドライハーブをふりかけても。

カマス開きのアヒージョ。バケットに合わせてどうぞ。

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大地を守る会編集部

大地宅配編集部は、“顔の見える関係”を基本とし、産地と消費地をつなぐストーリーをお届けします。