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しじみ、湖を守り育てる

【NEWS大地を守る7月号】恵みを末永く、宍道湖のしじみ漁

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7メートルのじょれんを使い、手掻きで行われるしじみ漁の様子。1つの船に漁師1人、が基本スタイルだ。

しじみの一大産地、島根県宍道湖。日本一の漁獲量を支えているのは、「獲りすぎない」ための自主的なルール作りです。資源を保護し、地域の環境を守り、次の世代へとつなぐ―。最盛期を迎えたしじみ漁の現場を訪ねました。

自然が織りなす貴重な汽水湖

朝6時。しじみ漁師たちの船がいっせいに宍道湖へと繰り出します。竿の先に大きなカゴのついた道具は、じょれんと呼ばれ、しじみ漁に使われる道具です。漁師の引野篤さんも、10キロの重さがあるじょれんを、湖の底で往復させて、砂に潜っているしじみを掻き出します。水深は1〜2メートル程ありますが、竿から伝わる感覚で、引野さんにはしじみがいるかいないかわかるのだそう。カゴを引き揚げると、しじみが大量に入っていました。
ここは、しじみの漁獲量日本一を誇る島根県の宍道湖。海水と淡水が混ざっためずらしい汽水湖です。斐伊川をはじめとした河川からは淡水が注ぎ込む一方、海水は日本海から境水道を通じて中海に入り、さらに大橋川を通って宍道湖へと流入します。こうしてしじみが生息するのにちょうどいい塩分濃度が保たれているのです。

右に浮かぶのは嫁ヶ島。宍道湖唯一の島で、東端にある。
漁師の引野篤さん。10キロあるじょれんを動かして湖の底を掻くのは、重労働だ。
かごの中には大量のしじみ。
選別機にかけ稚貝は湖に戻す。

引野さんはしじみ漁師になって今年20年目。30歳の頃に脱サラし、お祖父さんのあとを継いで漁師になりました。
周りを見渡すと、しじみ漁師たちの船がたくさん浮かんでいます。現在、宍道湖でしじみ漁を行う漁師は約280人。船同士がすれ違うときはお互いに手をあげて、漁師たちは挨拶を交わします。
5月半ばのこの日は朝6時から漁が始まりましたが、わずか1時間ほどで終了。2つのコンテナがいっぱいになったからです。資源の保護管理のため、漁師1人あたりの漁獲量は1日にコンテナ2個分(100キロ)までと定められているのです。
「産卵前の今がいちばん身が厚くておいしい、旬の時期だね」と引野さん。
獲ったしじみは船の上で選別機にかけ、まだ小さな稚貝は湖へと戻します。持ち帰っていいのは10ミリ以上のものと定められています。
その日水揚げされたしじみは、仕入れ業者、または漁師が回収し、加工製造・販売を行うイトハラ水産(島根県松江市)へと運びます。
イトハラ水産では、しじみをすべて砂抜きした上で販売しています。家庭で砂抜きをする手間を省くため創業当初からのこだわり。12時間から14時間水槽に浸けて、脱臭やオゾン殺菌も同時に行います。
「しじみに負担をかけないように、水槽の中はその時季の宍道湖の温度や塩分濃度に近くしています」と説明するのはイトハラ水産の代表・糸原真吾さん。実は漁師の引野さんと糸原さんは、小学校から高校までを共にした同級生。家も近くて、仲のよかった二人。今ではよき仕事のパートナーでもあるのです。

資源保護のため、1日の漁獲はコンテナ2つと決められている。
納品されるしじみにはそれぞれ、漁師の名前と番号が書かれた札がついていて、トレースできる仕組みになっている。
朝獲ったばかりのしじみが、昼過ぎにはイトハラ水産へと納品される。
糸原真吾さん(左)と引野さん(右)は、小中高と同じ学校に通った同級生。今では仕事の良きパートナーだ。
季節に応じて時間を調整しながら水槽に入れて砂抜き。マスクを外してにおいをチェックする。

3・3・3・1が父の教え

砂抜きが終わると、選別して洗浄の工程に移ります。念入りに2段階洗浄をするのは「バクダン」と呼ばれるしじみをできる限り取り除くため。バクダンは、中身が死んでしまい殻だけになったしじみに、湖底の砂や泥が詰まったもの。もう活動しないため、いくら砂抜きをしても砂を吐かないのです。
洗浄後は、手で均等にならしながらパッキングし、真空にして冷凍します。48時間かけてゆっくり冷凍することで、中心部まで凍結し、しじみからグリコーゲンが出て旨みが増します。解凍せずにそのままお湯に入れて、味噌で味付けをすればしじみ汁の完成。イトハラ水産では、お昼にはスタッフ全員でしじみ汁を食べます。その日の砂抜きがしっかりできているか、チェックしているのだそう。

計量してパックに詰める。
スタッフの昼食は、しじみ汁と各自持参したお弁当。しじみ汁のほっとする香りが漂う。

糸原さんの父である故・直さんがイトハラ水産を創業したのは39年前。
元々はバスの車掌をしていましたが百貨店の外商を経て、水産の世界へ。サラリーマンをしながら山口県下関の水産大学校へ通い、知識を身につけたそうです。
息子の真吾さんは、就職し一度他業界を経験した後、24歳の時に家業へ。今年2月にお父さんが亡くなるまで二人三脚でやってきました。
「(父が)まだ近くにおってくれるような気配がしている」と話す糸原さん。
「全く同じことができるとは思っていません。自分の力量の範囲で、路線は同じでできることをやっていきたい」
例えば宍道湖のしじみの水揚げ量は4500トンほどですが、イトハラ水産が扱うのは240トンのみ、と決めています。相手が見える先、理解してくれる先とだけ取引すると決めているからです。
「(会社を)大きくすることだけがメリットじゃない。自分の肩幅以上のことをやろうとしたら、どこかで無理が出る」と糸原さんは話します。
こうした考え方も、お父さんの背中を見て受け継いだものです。
「3・3・3・1というのが父の考え方でした。漁師、問屋、イトハラが3ずつ。残りの1は、1年間頑張ったところが持っていけばいい、と」

先進的な伝統漁法

共存、共生のイデオロギー。イトハラ水産だけではありません。それは宍道湖のしじみ漁全体に通底していることでもあります。
目先の利益だけを見る「取ったもの勝ち、早いもの勝ち」の商売とは異なる、先を見据えた漁業。流行りの言葉ではSDGsやサステナブルなどと言われますが、宍道湖の漁師たちは、早くも1970年代から、長くしじみ漁を続けるための取り組みを行ってきました。
獲りすぎを防ぎ、しじみを守り育てるためのルールを自主的に設け、みんなで守ってきたのです。例えば、漁を行っていいのは6時から10時までの4時間のみ(手掻きの場合)。水曜、土曜、日曜は休漁、というのが今の決まりです。
「2009年7月には大きな水害がありました。ちょうどしじみの産卵期でしたが、卵が流れ出てしまい、稚貝がなくなりました。しじみは大きくなるのに2年かかるので、2年後の漁獲量は大きく減りました」(糸原さん)
水害の他にも、中海の干拓・淡水化事業、ダムの建設など、様々な要因で資源の減少が見られた時期が度々ありました。その度、資源量に合わせて一人当たりの漁獲量の規制、保護区の設定、操業時間の短縮、休漁日の設定などルールを柔軟に変えてきました。その結果、安定的な生産を維持できています。
地域のシンボルでもあり、長く生活を共にしてきた宍道湖。島根の人たちにとってその存在感は、外につながる海とはまた別のものであるに違いありません。
自然と、人と、共生するための真髄を、ここに暮らす人たちは誰に教わらずとも理解しているのかもしれません。

湖岸にヨシが繁茂しているのは植樹活動の成果。ヨシはリンや窒素を吸着し、良い水質環境を保つ。イトハラ水産では売上の一部を寄付しNPOや地元の小学生と共に植樹活動に協力してきた。
宍道湖の環境と共に大切に守られてきた大和しじみ。

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大地を守る会編集部

大地宅配編集部は、“顔の見える関係”を基本とし、産地と消費地をつなぐストーリーをお届けします。