学ぶ

奈良・吉野、伝統製法の手延べそうめん

【NEWS大地を守る6月号】美しく紡がれる手延べの歴史

【送料無料】おいしい・便利・安心がかなう宅配!まずはお得に、お試しセット1,980円!
糸のように細く、美しく延ばされたそうめん。小麦の香りがふわりと香る。

手延べそうめん発祥の地、奈良県。一人の女性が子育てのかたわらに習い始めたそうめん作りは、林業に携わる人たちの冬の間の雇用対策として地域を維持する事業へ―。手延べ製法を守り続けている坂利製麺所(奈良県吉野郡東吉野村)を訪ねました。

1300年の歴史とともに

カチャカチャと音を立てながら目まぐるしく動くのは、掛巻(かけば)機と呼ばれるミシンのような機械。紐状になった麺によりをかけてねじりながら、2本の棒に8の字に麺をかけていきます。ここは、奈良県の坂利製麺所。手延べそうめんを作っている現場です。スタッフが小走りで動き回り、終わったものを回収しては次の麺を手早くセットします。
麺がびっしりと渡された2本の棒は、初め30センチほどの幅ですが、機械と人の手でぐんぐん広げ、背丈を越えるほどの長さまで引き延ばします。麺はあっという間にそうめんの細さになりました。これを一晩乾燥させてでき上がります。

スタッフがテキパキと駆け回る工場の床は吉野ヒノキで、壁は吉野杉だ。「調湿効果があるから、麺が水分をほしがれば木が出してくれるし、いらんかったら吸ってくれる。それと木って人の気持ちも優しくすると思うんです」
小麦粉と水、塩、葛をミキシングして巨大な団子状にしたものが、ロープ状になっていく。
ロープ状からだんだんと細くなっていく。手延べそうめんは一度も切ることなく、これを繰り返して細くしていく。
桶に巻き込まれた麺は、細くする時にしっかり「より」がかけられる。こうして食感にコシが生まれる。
掛巻機には丸いコマがいくつも並び、麺にテンションをかける役割をしている。
2本の棒に8の字にかけられた麺。
8の字にかけた状態から、のれんのように引き延ばす。この状態で一晩乾燥させる。
乾燥させてカットした状態。いびつな形のものがないかチェックし、ピンセットで弾いている。

手延べそうめんは、ここ、奈良が発祥の地と言われています。
今から1300年前。日本最古の神社である大神(おおみわ)神社の次男が、大和の国・三輪で小麦の栽培を始め、こねて乾燥させ保存食としたのがそうめんの原型と伝えられているのです。一方、同じく奈良時代に中国から伝わった「索餅(さくべい)」という縄状の菓子が「索麺」になり、そうめんにつながったという説も。いずれにしても、手延べそうめんが長く人々の暮らしとともにあった食べ物であることは確かです。

「食べた時にふわっとした優しさとコシがあり、小麦の風味を感じられる。何より食べたときにニヤッとするような」(坂口さん)、そんなそうめんを目指している。
翌日もダマにならず麺のままなので、残ったら味噌汁などに合わせていただくのもおすすめだという。

昔から変わらない伝統製法の手延べそうめんと、手延べ用の機械で製麺するそうめんには、大きな違いがあります。機械麺は生地を薄く伸ばしてから細く切りますが、手延べ麺は、棒状の生地によりをかけながら、引き延ばし、引き延ばして細くしていくのです。この製法により、生地の中のグルテンは組織がつながります。
うどんのように切って成形する麺の場合、グルテンが表面に出てモチっとした食感になりますが、手延べそうめんはつるっとした食感と、シコシコとしたコシが特徴です。
「鉛筆の芯のように麺の中心部でグルテンがつながっているから、ゆでたあとに残して、次の日になっても、ダマにもならないんです」
説明してくれたのは坂利製麺所の代表・坂口利勝さんです。

素材選びは母の愛情から

坂利製麺所は今年、創業40年。利勝さんの母・良子さんが始めた製麺所です。もともと坂口家では奈良・東吉野の地で代々林業に携わってきました。冬は雪に閉ざされ、山仕事ができなくなり、現金収入がなくなります。安定収入を求めて町に出かけていく人が増え、過疎化が町の課題でもありました。

東吉野の山々。この地で坂口家は代々林業を営んできた。

そうめん作りが、林業に関わる人たちの雇用対策になり、地域を維持できる事業になるのではないか。地元で三輪そうめんの作り方を習いに通っていた良子さんはそう考え、子育てのかたわら製麺所を始めました。
「中山間地域でインフラも整っていませんでしたが、そうめんなら(賞味期限が長いから)置いておける。産業としても非常に適していたんだと思います」
時代は大量生産に向かう流れの中にありましたが、良子さんのそうめん作りの原点にあったのは、「子どもたちに安心して食べさせらせる材料で作りたい」という想い。小麦粉は国産のものを選び、麺を滑らかにするために混ぜる油は、高級天ぷら店などでも使われる圧搾製法の胡麻油を使っています。
家で食べていた「葛うどん」をヒントに、オリジナルの葛そうめんも生み出しました。地元の特産である吉野葛をそうめんに混ぜたこの商品は、人気商品の一つとして今も多くの人に愛されています。
さらに、パッケージの文字やデザインも自分で手がけました。パッケージ上部には、良子さんの女紋(母から娘へ、女系で代々引き継がれていく家紋)がデザインされています。
「坂口の妻とか、坂口の母でなく、坂口良子として生きた証を残したい、と自分が開発した商品に想いを込めているんだと思います」
と利勝さんは語ります。

みんな一緒に次の時代へ

現在もご健在の良子さんですが、母の想いを継いで、現場を取り仕切っているのが利勝さんです。理念を大事にしながらも、状況に応じて機械を導入し、働きやすさについては改善を重ねてきました。
「機械は、そうめんを優しく扱ってくれないので歩留まりは多少落ちるんですが、おいしさに影響が直接あるわけではない。一次産業の人手不足もある中、働く人の体力を奪わないことも大切だと思っています」
機械の導入で、仕事のしんどさよりも面白さの方を感じられるように。さらに、職人として仕事を楽しみながら、プライベートも充実できるように。
事業を通じて地域を維持できるような取り組みをし、次世代へつなげていくことが使命であると感じています。
「(地域の中で)坂口の家だけがぽつんと残ったって、何の意味もないんです。この地域全体を持続可能性があるものにして、スタッフみんなと一緒に次の時代にいかないと」
利勝さんの想いに共感して入社を決めたスタッフも多く、20 代から40代の若い社員が中心です。今年も4月に20歳の新入社員が入社しました。
「あの子が65歳で定年する45年後、僕95ですよ。おそらくここにいないと思うんです。でも彼女が65歳で定年する時に、この会社がちゃんとあるっていう姿を僕が描けないんやったら、彼女を雇ったらあかんと思う。常に10年後の生産基盤のことを考えて青写真を描き続けている自負があるから、一緒にやろう、と言えるんです」

代表の坂口さん(中央)とスタッフの皆さん。スタッフは20代から40代の若い人が多く、製麺所を盛り上げている。

こうした考え方の根底には、家業である林業の考え方がある、と利勝さんは言います。
「今でき上がっている山は、おじいちゃんが作った山やけど、おじいちゃんの代で切って使ってはいないですよね。いま僕の親父が育てている山も、親父が利益を得るために育ててるわけじゃない。林業っていうのは、事業そのものが次の世代を内包しているんです。自分の代ではどうにもならない木を育てるっていうところから始まっていますから」
坂口家の歴史、吉野の歴史、日本の歴史。私たち一人一人は歴史の中に生かされているのだ、ということを、坂利製麺所の手延べそうめんは教えてくれているようです。

坂利製麺所のそうめんはコチラ
※該当商品の取り扱いが無い場合があります。

大地を守る会編集部

大地宅配編集部は、“顔の見える関係”を基本とし、産地と消費地をつなぐストーリーをお届けします。