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動力は湯浅流

【NEWS大地を守る8月号】湯浅さんの暮らしと梅干し

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6月中旬。真剣な眼差しで梅を収穫するゆあさ農園園主の湯浅直樹さん。

群馬県・榛名で4代にわたり梅を育て、梅干しを作っているゆあさ農園は、農産物と加工食品のどちらも有機JAS認証を取得している、全国でも数少ない農園。自給自足の暮らしを実践する園主の湯浅さんを訪ねました。

土作りは畑に、梅作りは樹に

ゆあさ農園(群馬県高崎市)に到着すると、桃のような甘い香りが迎えてくれました。白加賀という品種で、収穫後5日間追熟させたもの。収穫直後の青い梅と違って、黄色く熟した梅たちはこの爽やかな香りを周囲に漂わせます。
「この匂いが漬けてくれっていうサインなの。梅干しにするのにいちばんいい状態」
説明するのは園主の湯浅直樹さん。ゆあさ農園では梅を有機栽培し、昔ながらのシンプルな白梅干しを作り続けています。
梅干しにするための「漬け込み」の作業がこの日の午後に待っていますが、まずは朝の収穫作業。大地を守る会に出荷する生梅を収穫します。
ぶら下げたカゴに、次々と梅の実を入れていくのは、湯浅さんご夫婦と、昨年から手伝っている息子の大樹さん。
この日200キロほど収穫する「南高」は、10年前に植え替えたもの。脚立を使わなくても作業ができるよう、2メートルほどの樹高になるように剪定しています。脚立を使う作業の場合、1日に収穫できるのは100キロほど。使わなければその3倍は取れるのだそう。「効率を最大化し、安全性も考えた結果」だと湯浅さんは話します。
栽培に関しても、なるべく自然な形で土や植物の力を引き出すのが湯浅さんのスタイル。梅の枝を炭化したものを木の根元にまいていますが、肥料など他に何か与えることはありません。
草を刈るときには少し残しておき、微生物のすみかを作ります。
「土作りは畑に任せて、梅の樹作りは梅の樹に任せています。梅は粗放作物と言われ、やってもやらなくても違いが出にくい。それならやらないほうがいい」
慣行栽培の場合、農薬の使用は10回ほどありますが、湯浅さんの場合は0回です※。湯浅家は代々梅農家をしてきて、湯浅さんが4代目。家族が病気になり「誤った食べ物を食べれば病気になる」と考えたことをきっかけに、少しずつ農薬を減らしてきました。
当初はそのやり方を教えてくれる人がいませんでしたが、韓国の自然農業の先人、趙漢珪(チョウ・ハンギョ)先生に学ぶ機会があり、来日するたびに北海道や九州まで足を運んだのだと言います。大地を守る会との出会いもそうした集まりの中で生まれ、現在まで続いています。

湯浅さんご夫婦と息子の大樹さん(中央)。数年不作が続いていたうえに昨年は雹の被害に見舞われ、梅がほぼ全滅してしまったが、「今年は(例年より)少しいいね」とホッとした笑顔を見せた。
収穫した「南高」。農薬の使用が一般的になった時代に開発された品種のため、皮は柔らかいが病害虫に弱いという。ゆあさ農園では、傷がついたものは練り梅にして加工品にする。
収穫の合間に、小梅の浅漬けを食べながらひと休み。

家族で決めた〝経営協定

収穫が終わると次は、傷のついたものを取り除き、サイズ別に分ける「選果」の作業です。傷のある梅は、かつては廃棄処分していましたが、今は梅肉取り機という機械を使って果肉と種に分け、果肉を練り梅にしています。練り梅は、梅酢とあわせて液状にした「かける梅干し」、唐辛子とあわせた「かける梅胡椒」、など様々な加工品にも展開しています。どうしても虫がついたり傷がついたりしやすい有機農業ですが、「だからこそ加工と相性がいい」と湯浅さん。
「梅肉取り機を導入してからは、傷のある梅も怖くなくなりました。宝物です」
さて、選果を終えるとお昼休みです。
「(選果が終わったのが)12時少し過ぎていたから、じゃあ13時15分まで」
そう言い渡した湯浅さんに、「家族3人だけなのに、随分きっちりしているんですね」と聞くと、「家族経営協定で昼休みは1時間と決めているから」という答えが返って来ました。
この協定は、それぞれの役割、責任、就業条件、報酬などについて家族間で話し合って取り決め、文書化したもの。高崎市の農業委員会が主導して協定の作成を推進して来ました。農業後継者の確保や働きやすい環境の構築などを目指すもので、農業に従事している各家族が、それぞれ話し合って必要な取り決めをするのだそうです。
ゆあさ農園では、安全性と働きやすさを維持する工夫があちこちに見られます。漬け込む梅に乗せる重石は、以前は20キロのものを使用していましたが、ある時すべて処分し、女性でも持つことができる15キロのものに買い換えたのだそう。
いよいよ午後は梅干しの漬け込みの作業です。大きなコンテナに、梅を320キロと塩を48キロ。しそやはちみつなどを入れず、梅と塩のみ。塩は海水から伝統製法で作った「海の精」を使います。
3日ほどで梅酢が上がって来て、1ヶ月ほどしたら「三日三晩の土用干し」と言われる天日干しをし、樽で保存。これ以上ないシンプルな材料と、シンプルな製法です。

県外の会社で営業や人事の仕事をしていた息子の大樹さん。昨年からダブルワークで農園の仕事もしている。農家の仕事は性に合っていて「心理的なストレスは減りました」。農家を継ぐというと周囲から「大変ですね」と言われるのが悔しいという。「有機は付加価値になるし、継ぐに値するものをやっている」という自負がある。「だけど、父と同じことだけやっても先が見えない。新しいことをやって差別化をはかっていきたい」と意欲を見せる5代目に期待。
梅が黄色くなって香りがしてきたら漬けどき。選び抜いた天然塩とあわせて重石をのせる。
完成した梅干しが樽の中でじっと出荷を待っている。塩分補給に体が喜ぶ味わい。
湯浅さんおすすめレシピの混ぜご飯。玄米・雑穀に練り梅とツナを混ぜたら、大葉やミョウガなどの薬味をのせて。梅の枝を削って作った手作り箸で「いただきます!」。

自給を極めた農家の夢

湯浅さんの想いがたくさん詰まった梅の栽培と梅干し作りですが、〝湯浅流〞は栽培と加工だけにとどまりません。一連の作業のベースとなっているエネルギーや水の「自給自足」。それは、ゆあさ農園の農業であり、湯浅直樹という一人の人間の選んだ生き方でもあります。〝大人になったら自分で使う電気を自分で作る〞のが夢だったという湯浅さん。
「電気って、動く力にもなるし、明るさにもなる、ラジオもテレビも動かせて、何にでも形が変わる」
不思議な電気の力に子どもの頃から魅かれ、就職は電機メーカーに。
「農業は嫌だ」と思っていましたが、地域の青年団の活動にのめり込み、社会問題に取り組むようになると、考え方が変わりました。食料やエネルギーの問題に関心が向き学ぶうち、農業の大切さに気づいたのです。
青年団の活動で海外に視察に行ったり、阪神大震災の被災地でライフラインがストップする様子を見たりする中で「日本は食料もエネルギーも海外に依存している。大事なものは自分で持たなきゃいけない」と考えるようになりました。
地下80メートルの井戸を掘り、さらに自宅や加工場の屋根にソーラーパネルを設置しました。自家発電した電気を使えるように、チェーンソーや草刈機などの農機具も電気化。フォークリフトは、なんと重機メーカーと共同で独自開発した「ソーラーリフト」です。
自給自足の考え方とその実践は、農業にも暮らしにも一貫しています。木と漆喰の自然素材の自宅は、構想に15年かけた自給自足の家。屋根に太陽熱温水器を設置し、さらに剪定した梅の枝を燃やすボイラーで給湯や暖房を賄っています。
湯浅さんの実践する「環境保全型農業」を学ぼうと、今では国内外から見学に訪れる人が絶えません。

事務所(中央)と自宅(左奥)、加工場(右奥)の屋根にソーラー発電機。電力の自給率は1000%を超える。右手前は、梅を天日干しにするガラスハウス。費用はかかるがビニールを使わないことを選択した。
剪定した梅の枝をボイラーで燃やし、給湯や暖房を賄う。

自分はどう生きるのか。理想はあっても実践するのは難しい、などと何かにつけて言い訳ばかりになりがちな毎日ですが、湯浅さんの暮らしの中に言い訳はありません。
湯浅さんの、しょっぱくて酸っぱい本物の梅干しが、「できることから始めよう」と背筋をピンと伸ばしてくれました。


※ 群馬県「認証対象とする農産物及び化学合成農薬延べ使用成分回数・化学肥料窒素成分施用量の基準」<https://www.pref.gunma.jp/page/9264.html>

ゆあさ農園の梅・梅干しはこちら
「有機練り梅(大地のもったいナイ雹害梅使用)」はこちら
※該当商品の取り扱いが無い場合があります。

大地を守る会編集部

大地宅配編集部は、“顔の見える関係”を基本とし、産地と消費地をつなぐストーリーをお届けします。