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この伝統を絶やさない

【NEWS大地を守る11月号】玉締めの守り人

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松本製油社長の関根昭さん(左から2人目)と、息子の太郎さん(左)。若い職人たちも育っている。

琥珀色に輝くごま油。ごま本来の風味が残る、芳醇な香りの秘密は、昔ながらの玉締めしぼり。伝統的な食文化を守り続けている松本製油(埼玉県吉川市)を訪ねました。

愛され続ける格別な風味

昭和よりも前の時代にタイムスリップしたかのような光景に、ごまの香ばしい香りが漂っています。「舞台」と呼ばれる一段高くなったステージにずらりと並ぶのは、ごま油を搾るための「玉締め機」。古いものは大正時代、新しいものでも昭和20年代の機械です。まるでステップを踏むかのように、職人が足を器用に使ってごまを包んだマットをセッティングしていきます。
玉締めしぼりは、明治時代から昭和の初め頃まで全国で広く用いられてきた昔ながらの搾油法です。大量生産に向かないため淘汰され、いまではこの製法を採用しているメーカーは全国でも数軒しかありません。ここ、松本製油(埼玉県吉川市)もその貴重な数軒のうちの一つです。
ごま油の全国年間生産量は約3万8000トンですが、そのうち玉締めしぼりの生産量は200トン。シェアで言えばわずか0.5%ほどです。それでも、手間暇かけて作った油の風味は格別。銀座や日本橋の老舗天ぷら店でも採用されているのがこの松本製油のごま油なのです。
「この油がなくなったら天ぷら屋をやめる、と言ってくれる店主もいるんですよ」
そう説明してくれたのは、社長の関根昭さん。松本製油の創業は昭和22年。以来、ごま油一筋でやってきました。
長く、松本製油の商品は薄口のごま油1種類だけでしたが、今年初めて挑戦したのが濃い口の「深煎り」です。きっかけは、長年大地を守る会の生産者であった、同業の今井製油(千葉県千葉市)が製造を終了したこと。
「いい玉締めを求めて困っているお客さんがいるのであれば、なんとかしてあげたいという思いがあった」
と関根社長。以前から親しく交流していた同社の味を引き継ぐため、設備を追加し、2種類のごま油の製造に踏み切りました。

創業は昭和22年。工場内のあらゆるところにその歴史の重みを感じる。

ごまに負担をかけない

現場では、関根社長の息子の太郎さんが中心となって3人の職人が製造に当たっています。太郎さんが工場内を案内してくれました。
原料となるごまの選別が終わると、まず始めに行う作業が焙煎です。
「味の決め手となるのが焙煎です。焦げ臭さが残らないように、開放釜で熱を逃しながら焙煎しています」(太郎さん)
季節やその日の気温によっても焙煎の時間は変わります。注意深くごまの様子を見極めるのも職人の腕。焙煎後は、油を出やすくするため、ごまを軽く潰して蒸気で蒸らします。木製の桶や竹製のざるなど、一つひとつの道具がすべて昔から変わらないものです。

開放釜でごまを焙煎。季節やその日の天気によって、焙煎の時間を調整する。夏場は特に大変な作業だ。
焙煎したごまを木桶に入れて、30秒ほど蒸気で蒸らす。
焙煎が終わったら30分から1時間ほど冷ましてごまの粗熱を取る。作業中は専用の靴を履いている。
作業に使うざるなども昔ながらのもの。工場内にはプラスチック製品はほとんど見当たらない。

さて、いよいよ圧搾が始まります。玉締め機は上部に玉石が固定されていて、マットに包んでセットしたごまを、下から押し上げる仕組みです。一次圧搾は低圧力でゆっくり加圧します。
「時間はかかりますが、摩擦熱による油の変質がなく、ごまに負担をかけない方法なんです」(太郎さん)
しばらくすると、黄金色の油がツーっと流れ出てきます。
2次圧搾まで終わるとその後はろ過の工程です。
フィルタープレスで半日から1日かけて濾すのが1次ろ過。さらに手すきの和紙で作った筒状の袋を使い、1日かけて2次ろ過を行います。三日三晩かけて、やっとごま油の完成です。
実は、ろ過に使う筒状の袋も自分たちで作っています。袋を貼り合わせる〝のり〞まで、自分たちが安心できる材料で手作りしたものを使うほどの徹底ぶり。
「物作りが好きじゃないと続かない仕事。油を作るというより、伝統的なことをしているという感覚です」(太郎さん)

プレス前のごま。蒸らしたごまをマットで包んで玉締め機にセットしていく。
玉締め機は昭和20年代のものから、古いものは大正時代のものまで。下の桶にごまが入っていて、上部の玉部分に下からゆっくりプレスする。
プレスされたごまから、油が流れ出てくる。
2度目のろ過をしているところ。手すきの和紙で作った筒状の袋を使用する。
油を通すものだからと和紙製の袋を自分たちで手作り。

食文化守る仲間になって

一般的に大量生産する場合の主流であるスクリュープレスでは、玉締めしぼりと比べ5倍以上の圧力を短時間で一気にかけるため、摩擦熱で焦げが発生します。それを脱色・脱臭するために精製の工程が必要になり、油が傷むのが早くなってしまうのだそう。松本製油ではろ過だけを行い、精製は行いません。
「手間をかければかけただけおいしくなる」と関根社長が言うように、時間と手間をかけて作る玉締めしぼりだからこそ、油にとげとげしさがなく、まろやかな味に仕上がるのです。
その代わり、10台の玉締め機を1日4回転しても、1日に作れるのは一斗缶で18缶ほど。450g サイズでおよそ700本分です。効率は度外視です。
今井製油のように廃業してしまう同業者も多い中、玉締めしぼりの伝統を絶やさないためには、他の玉締めメーカーとの情報交換も重要です。
各工程で使う道具や部品も、いまでは製造されていないものがほとんど。特注で作ってもらえるところがあるかなど、情報を共有します。そこには「自社だけ生き残ればいい」という考え方はありません。競合他社ではありながら、玉締めという伝統的な食文化を守っていく仲間たちでもあるのです。
「玉締めを知っている人が今は少なくなってしまいました。まずは皆さんに玉締めの良さを知ってもらいたい。芳醇な香りをぜひ楽しんでください」(太郎さん)

玉締めしぼりのごま油はこちら
※該当商品の取り扱いが無い場合があります。

大地を守る会編集部

大地宅配編集部は、“顔の見える関係”を基本とし、産地と消費地をつなぐストーリーをお届けします。