はじめに
BSEや鳥インフルエンザなど、現代畜産はさまざまな問題を抱えています。これは、畜産業の近代化と無縁とは言い切れません。たとえば、養鶏場では密飼いが主流になり、多くの鶏を工業製品のように飼育しています。運動不足で歩行困難になる鶏も少なくありません。密飼いは鶏に限らず、これらの家畜は病気の蔓延を防ぐため、抗菌性物質が恒常的に投与されます。また、飼料はコスト面から輸入依存度が高く、ポストハーベスト(収穫後の)農薬の使用や遺伝子組換え作物の問題もあり、最終製品への影響が懸念されています。
一方、日本の伝統的な畜産業では、家畜の糞尿は農作物の堆肥に、その堆肥で育った農作物の残渣は家畜の飼料にと、地域の中で循環していました。家畜はのびのびと健康的に育ち、必要以上の薬もいりません。飼料も素畜もはっきりしていて、長い時間をかけて環境に適応してきた歴史もあり、持続可能で安心できる循環型畜産であるといえます。
大地を守る会では、このように循環型畜産の原風景ともいえる牛の放牧や平飼い養鶏を営み、素畜もトレースできている畜産農家を積極的に応援します。家畜が自然の摂理に従い健康的に過ごせる飼養環境を確保し、抗菌性物質や動物薬の恒常的な投与はしません。飼料は国産を基本とし、輸入飼料を使う場合でもポストハーベスト農薬フリーや非遺伝子組換えのトウモロコシや大豆を推奨します。また、国産限定の穀物飼料で育てた「THAT'S国産」シリーズに象徴されるような、持続可能で安心できる循環型畜産を今後も引き続き展開してまいります。
取り扱い基準
- ※対象:肉用牛、乳用牛、豚、肉用家きん、採卵鶏、めん羊、馬。
- ※以下、許容項目は、やむをえない理由がある場合、事前に大地を守る会と相談した上で認めるものとする。
I.生産履歴
I‐1 推奨
- 地域の気候、風土に適合し、活力や抗病性にすぐれている国産畜種を取り扱う。
- 家畜の導入から出荷までの全生産行程で、生産者と家畜の履歴が明確なものを取り扱う。
- 生産記録、購入資材伝票、治療歴、飼養管理票などの保管、及び監査の際に求められた資料の開示。
I‐2 許容
- 生産農家以外の農場の肉牛・乳牛の導入。
- 前後の履歴からの類推による採卵鶏の生産履歴の確認。
I‐3 禁止
- 遺伝子操作をした畜種の導入。
II.飼育環境
II‐1 推奨
- 平飼い養鶏などのような家畜の健康に配慮した密度の飼養環境。
- 近隣環境の保全のため、糞尿処理は堆肥等、田畑に還元できる状態にする。
- 定期的な鶏卵、うずら卵のサルモネラ菌の検査。
II‐2 禁止
- 生産効率を過度に追求した密飼いは、家畜にストレスを与え病気を引き起こし、薬剤にたよる生産につながるため禁止する。
III.飼料
III‐1 推奨
- 国産飼料を基本とする。
- 家畜の導入から出荷までの全生産行程で、事前に確認された飼料の給与。
- 家畜の導入から出荷までの全生産行程で、抗菌性物質(付録1)無添加であること。
- 輸入穀物飼料のうち、トウモロコシはポストハーベストフリー・非遺伝子組み換え、大豆は非遺伝子組み換えのもの。
III‐2 許容
III‐3 禁止
- 以下の期間に、飼料添加抗菌性物質・合成抗菌剤を使用した畜産物の出荷。
・肉用牛、豚 … 肥育期。
・肉用家きん、採卵鶏 …家畜の導入から出荷までの全生産工程。 - BSEまん延防止対策として、動物性たんぱく質・動物性油脂の利用規制を考慮しない飼料の使用。
IV.動物用医薬品の使用
IV‐1 推奨
- 動物用医薬品の使用記録をつけること。
IV‐2 許容
- 当該地域に特定の病気が存在する場合、及び関係法規の元で義務付けられた場合のワクチンの投与。
- 獣医師の診断で治療が必要と認められた場合の抗菌性物質を使用した病気治療。
- 発情促進と分娩促進目的のホルモン剤の投与。
IV‐3 禁止
- 肥育ホルモン剤(成長促進剤)の使用。
- 恒常的な抗菌性物質などの投薬や必要以上のワクチンの使用。
V.その他の畜種
V‐1 推奨
V‐1‐1 はち
- 国内で飼養されていること。
V‐1‐2 えぞ鹿(野生)
- 狩猟者と狩猟状況が確認できるものを取り扱う。
Ⅵ.監査
- 大地を守る会が販売する畜産物がすべて本基準に適合していることを確認するために、監査を適宜実施する。
- 監査の指定を受けた生産者(団体・個人)は、監査を受け入れなければならない。
【付録】 ≪語句の説明≫
- 抗菌性物質とは、合成抗菌剤と抗生物質の総称です。
- 代用乳は、哺乳畜に乳の代わりに給与する液状の飼料で、脱脂粉乳を主体に乾燥ホエー(乳清)や良質の粉砕穀実などを配合したものです。
- 人工乳は、一般的には哺乳後期以降の子牛や子豚に給与する粉状またはペレット状の飼料です。