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当たり前にシンプルな材料でつくる佃煮とは
観光で国内旅行をしたときなど何かお土産を、それから日持ちするものを、と思いその土地のおいしいものを購入しようとするときに、漬け物、佃煮など選択することがよくあります。しかしながら裏面の原材料の枠をみると保存料や着色料など、ちょっとめまいがするくらいずらずらと添加物が書いてあり、あきらめて棚に戻すことがあります。そうか、日持ちするとなったら保存料は必要かもね…、なんて完全に高度成長期とともに育った私は毒された考えに落ち着いてしまいます。
いや、まてよ?もともと日持ちさせるために昔の人は塩を使い、砂糖を使い、工夫して自然のものしかなかった時代は当たり前にシンプルな材料で作っていたはず。
その昔ながらの当たり前を守っているのが遠忠食品さん。東京日本橋にお店があります。そこで生まれ育った社長・宮島一晃さん。
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味付けもやしの考案者が宮島社長のお父様
子どもの頃からお店のお手伝いなどされていたそうです。その頃の主力商品は味付けもやし。よく見かけるソーセージのような形でぱんぱんに張った水風船のようなパッケージに入っています。子どものころ、あのぱんぱんに張ったパッケージが好きで母にねだった覚えがあります。見かけた方も多いのでは?
「あれは、うちの親父が考えたんですよ。当時は売れてね〜。多いときは一日4トン(!)ももやしを使っていたんです。」
ええ!あの味付けもやしの考案者が社長のお父様! わたし、好きなアイドルに会ったような気持ちです。今は味付けもやしは作っていないそうで、昔ながらの製法にこだわり、化学調味料や添加物を使わず国産の材料で佃煮やお漬け物などの惣菜がメインになっています。そのきっかけは取引先の生協さんから「カラメル色素を使っていない海苔の佃煮を」という依頼があったからなんだそう。
カラメル色素ってあのカラメルと一緒でしょ?と思っていた私は家に帰り調べてみました。色を付けるための着色料なら普通のカラメルでも、お砂糖を焦がして作るのでもちろん安全です。しかし、コストがかかります。一般的に日本で使われている添加物のカラメル色素の中には「大量に安く」作れますが、発がん性を疑われているものもあるようです。
「うちのは、海苔をかさ増ししていないし、安全なものしか使っていないんです。水に佃煮を溶いてもらうとよ〜くわかります。他社のものと比べるとその差がはっきり出ます」。同量の海苔の佃煮を水に溶いてみると遠忠さんのものは海苔がたくさん残るそうです。その分、余分な添加物が入っていないということですね。
私の息子は遠忠さんの海苔の佃煮をご飯にたっぷり乗せて食べます。海苔の甘みがおいしくて好きなんだそう。わかってるわ〜。ウチの子。今日もごはんにのせて食べていました。
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水産加工品をめぐる課題を解決する試み
しかし、近年は和食離れなど、食文化の変化で佃煮のような商品が売れなくなっているのも現実だそうです。佃煮を知らない子どももいるそうです。このままではいけない!と宮島社長は自ら各地のマルシェへ出掛け佃煮のおいしさを広めています。実際に試食をしてみるとそのおいしさに虜になります。きっかけがあるのは売り手にとっても買い手にとってもうれしいことです。
近年はその素材そのものも入手が難しい問題もあるそうで、それは漁師不足や環境問題。特に東京湾では先の東京オリンピックのための埋め立て、工業廃水なども問題になり、1962年を最後に海苔の漁業権を放棄したこともあったり、近年では原発休止に伴い火力発電がフル稼働、温排水を海に流すため海水温度が上がり、海苔にとっては育ちにくい環境になっているようです。そんな中、遠忠食品さんは良い素材を適正な金額で漁師さんから買い取り(これは漁師さんを守るため)、手間もコストもかかるけれど昔ながらの直火釜で職人さんの勘と技術でじっくり作られています。
この直火釜、下から加熱することによって下から上へ、そして中央から外側へ向かう対流ができ、鍋肌を素材がかすめることで香ばしいお醤油の風味が乗るそうです。その話を聞いただけでもおいしそう!
私はしっかり見てきました。
大きな鍋!いい香がたちこめます。この日はチリメンジャコの佃煮を作っていました。
こうして手間と時間を掛け、できた佃煮はまるで宝石です。それなのに和食を食べる機会が減っている現代ではなかなか食卓に上がりにくいのは本当にもったいないことです。
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「おいしい」と思うポイントはもしかしたら世界共通
遠忠食品さんにうかがう少しまえ、私はバルト三国のうちのひとつ、ラトビアに行って来たのですが、直行便がないので日本からはとにかく遠い! 文化もあまり知られていませんが、現地に行ってみたら食べ物が特に魚がとてもおいしい。バルト海の魚が豊富にあるのです。そこでニシンの酢漬けやオイルサーディンを食べたのですがなぜか「なつかしい、おいしい」と思ったのです。
それは魚のうまみのせいかもしれません。
国が違えど、「おいしい」と思うポイントはもしかしたら世界共通なのかもしれない。
薫製のものも多く見られました。
そこで私は大好きなワインのつまみに海苔の佃煮を使ってみたらどうだろう?と閃き、パンとチーズとオリーブオイルでこんなものを作ってみました。
佃煮の黒が効いてます。
意外な組み合わせですが、凝縮された海苔のうまみとオリーブオイルがよく合います。ここで味をしめた私はきんぴらごぼうにも海苔の佃煮を醤油の代わりに入れてみました。
子どもたちがペロリと平らげました。
またまたおいしい!料理に使ってみるとうまみをより感じられるのがうれしい発見でした。
これからもレパートリーを増やしたい。
もちろんごはんに乗せる、スタンダードな食べ方も大好きです。伝統とこれから。両方を持ってる遠忠さん。
その「両方」のなかにたくさんの「いいこと」が詰まっています。
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香菜子 プロフィール
クリエーター・モデル
時にはモデル、時にはイラストレーターやデザイナー。
ときどき執筆、ディレクション。いいものができるなら手段はいろいろ。
LOTA PRODUCT www.lotaproduct.com
所属事務所 FRIDAY http://fridayfarm.net
近著 「ずっと好きなもの、これからのもの 心地いい暮らしのアイテム77」(KADOKAWA)
雑誌連載
Plus 1 Living(主婦の友社) 「季節のクラフトレシピ」
リンネル(宝島社)「家事効率化計画」
Web連載
ELLE maman 「こどものからだにいいこと」
暮らしとおしゃれの編集室「日々にピタリなもの」