2012年9月アーカイブ

2012年9月26日

モロッコガスール紀行 洗浄力と保湿力をそなえた粘土(クレイ)

みなさん、「ガスール」をご存じですか?
ガスールは、北アフリカ・モロッコだけで産出される、
洗浄力と保湿力の二つをそなえた粘土(クレイ)のことです。


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こちらが、ガスール。
モロッコの伝統的な製法で作った固形タイプと、固形タイプを
粉末状にした粉末タイプと2種類があります。


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9月25日(火)、こちらのガスールについて学ぶイベントを、大地を守る会・六本木会議室で
開催しました。題して、「モロッコガスール紀行」。


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こちらは講師の株式会社 ナイアードの並木さん。
ナイアードはネパール、インド、タイ、モロッコにおいて、自然の力で、
時間をとおして生み出された、人に環境にやさしい製品を、
製造、販売を行っている会社です。
並木さんからは、ガスールがモロッコ国内で採掘され、
ナイアードの現地工房で加工され、
日本に届けられる工程を映像でご紹介いただきました。


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「美容大国」といわれるモロッコにおいて、現地の人々が昔から、愛用しているガスール。
採掘された原石は、モロッコ・マラケシュの郊外にあるナイアードの工房に運ばれます。
工房でガスールの原石は、選別、天日干しされた後に水に溶かして液状にされます。
それをフィルターに通し、不純物を除きます。
そして、6月~8月の1年のうちで一番気候が安定し、日差しの強い季節に、
天日干しされるのです。

上の写真は、天日干し作業のようす。
天日干しのために整備された工房の屋上に、均等の厚さになるよう、
職人が丁寧に、辛抱強く作業します。


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乾燥し終わったガスールがこちら。乾燥の力で自然に割れて、このようになります。

こちらのガスール。約2倍の水に浸していただくと、驚くように早く、あっというまに、
クリーム状になります。
クリーム状になったガスールをのままお顔や全身になじませるだけ。


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講座では、参加者は、ガスールを手で試しました。
清涼感があり、本当に気持の良い使用感です。
洗い流した後、お肌はしっとりすべすべに!!
ミネラルたっぷりのガスールの実力に驚きました。


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お肌の洗浄や保湿に使われるガスールはその他に、楽しい使い方があります。

講座では、ガスールを使ったいくつかのレシピの紹介がありました。
ここでは2つご紹介します。
一つ目は、「ハーブバスソルト」。

材料(2回分):粉末のガスール...大さじ1、天然塩...大さじ3、
ドライハーブ(ラベンダー、カレンデュラ ※どちらか、両方でも)...適量。
以上、3つの材料を混ぜるだけ。
こちらをお茶パックに入れて、お風呂にいれてください。
塩が身体を芯から温め、代謝を良くしてくれます。そして、
ガスールが豊富なミネラル分でお肌を潤し、いたわります。
そして、ハーブの香りでリラックス!!


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二つ目は、ナイアードの商品「アルガンクリーム」を使ったウォータークリーム。
お肌をひんやりやさしくいたわるクリームです。
使用感はクリームの油分のべたつきをおさえた軽い感触です。
オイリー肌の方におススメのレシピですね。
作り方はこちらも簡単。
写真のように小豆粒位のガスールペーストとアルガンクリームを手のひらでまぜるだけ。

こちらのガスールとアルガンクリームも含め、ナイアードの製品を
9月24日~28日配布のチラシでご紹介しています。
ご注文は、10月1日~5日まで。
どうぞ、ご利用ください。







2012年9月24日

GMOフリーゾーン欧州会議報告会(2012年9月20日)


遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン」ではこれまで、遺伝子組み換え作物のない地域、

GMOフリーゾーン、というアイデアを日本に紹介し、生産者(農家)、販売店、消費者の人々に

宣言してもらうという活動を展開してきました。その結果、日本でも多くの地域がGMOフリーゾーン

となってきました。遺伝子組み換え作物は、現在、日本では商業栽培はされていませんが、いつ

なんどき、商業栽培をする農家が出るやもしれません。今のクリーンな状態を守るためにも、日本中

を巻き込んで、GMOフリーゾーン運動を展開していかなければいけません。


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当日のプログラム



アメリカ(モンサント社)の隙を突いたとんでもない戦略~ラムサール条約会議において


当日(9月20日)は、GMOフリーゾーン欧州会議報告の前に、国際的に重要な事件についての

レポートがありました。それは、今年の7月6-13日にブカレスト(ルーマニア)で開催された、

ラムサール条約締結国会議でのできごとです。ラムサール条約についてはリンクの「ウィキ」を参照

していただきたいのですが、世界に残された貴重な湿地の保全に関する国際条約です。その会議に

アメリカ(その背後にはモンサントなどの種子多国籍企業があります)が、「水田(これも一つの湿地)

の農薬を減らすために、遺伝子組み換え稲の導入を許可する」案を、提出したきたのです。ラムサール

条約に参加する各国の代表者は、環境系の人の中でも、どちらかといえば遺伝子組み換え技術に

ついては不案内の人が多いのです。なので、反対の論陣なども張りにくいということが想定され、

そこの隙をつく作戦をアメリカはとってきたと思われます。 しかし、そこは遺伝子組み換えに否定的な

EU各国の代表団や、日本から事前にこの情報をキャッチして反対の論陣をはった、日本消費者連盟

国際部から派遣されたマーティン・フリッドさんらの努力によって、なんとか今回の提案は阻止され

ました。しかしながら小さな隙も見逃さない遺伝子組み換え推進派の動きには驚かされます。

この経緯については、消費者レポート1518号(9月21日発行)に詳しく掲載されています。

日本消費者連盟までお問い合わせください。


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ラムサール条約の会議で活躍された、日本消費者連盟のマーティン・フリッドさん




世界に拡散する遺伝子組み換え作物


まずはとても残念な状況から。2011年現在、遺伝子組み換え作物は、17ヶ国以上で、160万km2

で栽培されています。世界の耕地面積のほぼ 10% が遺伝子組み換え作物で覆われてしまって

いるのです。2000年のときで約 40万km2 であったので、急速に拡大しているのが実情なのです。



一方で、GMOフリーゾーン運動も世界で拡大している


市民側も嘆いているばかりではありません。1999年、スローフード運動で有名なイタリアで生まれた

GMOフリーゾーン運動。生産者(農家)、流通、消費者が以下のことを宣言していく運動です。

・ 遺伝子組み換え作物を作らない(生産者)
・ 遺伝子組み換え食品を買わない、売らない(流通)
・ 遺伝子組み換え食品を買わない、食べない(消費者)

2005年にドイツで第1回GMOフリーゾーン会議が今年で7回目。9月4-5日に、ベルギーは

ブリュッセルで開催されました。そこに、遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーンから西分千秋さん

日本消費者連盟から纐纈美千世さんが出席されました。2010年現在、GMOフリーゾーン宣言をした

地域は、169都道府県、123の地域、4,713の市町村、31,357人の個人がいます。



GM大国、アメリカの市民の間でも広がる、表示運動


世界最大のGM作物栽培国、アメリカでは、現状、遺伝子組み換え食品にはまったく表示はありま

せん。1996年の栽培開始依頼、表示を求める小さな市民運動はあったのですが、モンサント社に

よる妨害工作などによって、ことごとく黙殺されてきました。しかし、ついに、市民運動の先進地域で

あるカリフォルニアで、大掛かりな市民運動が展開され、議会にかけられ、住民投票にまだいたって

います。この運動の基本理念は明確で、遺伝子組み換え食品の安全性などではなく、「知る権利」

の要求です。市民には何を買って食べているか、「知る権利」があるだろうということ。運動の標語も

「 Right to Know 」。日本からも大いにエールを送りたいし、日本における表示問題(→過去記事

も頑張らなければなりません。


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Right to Know 」運動



EUでの食品表示、遺伝子組み換え食品表示の実態

いま、日本では食品表示一元化問題で法案が作成されつつあります (→過去記事) 。

食品表示先進国であるEUでは、遺伝子組み換え食品についても先駆的な取り組みをしています。

まず、2点で大きく日本と違っています(→参照記事)。

1. DNA、タンパク質の検出できる残留物がなくても表示 → 日本で対象外の油に表示義務
2. 輸入時の混入について、0.9% まで許容 → 現在の混入が 1% 以上なので、全体が表示義務

この2点のしばりがあるため、EUでは多くの食品に遺伝子組み換え表示があります。

写真はないのですが、例えば日本からEUに輸出している「ミツカン酢」。酢には添加物的に、

トウモロコシ由来の抽出物が入っていて、それにはアメリカ産が使用されています。日本では、

「輸入時の混入について、5% まで許容」のルールによって表示されていませんが、EUでは

「遺伝子組み換え」の表示がされています。


EUでの表示で、とても意味があると思った、「飼料の表示」

いま、日本では食品ではない、家畜の飼料、については、遺伝子組み換えの表示規制はありません。

しかし、EUでは、「家畜の飼料」、が遺伝子組み換えの表示対象となっています。これは、家畜生産者

の意識を高める上で、非常に意味があると感じました。日本に入ってくる、大豆、トウモロコシ、ナタネ

などの家畜飼料は、現在、輸出国(主にアメリカ、カナダ、ブラジルなど)で、IPハンドリング、分別生産

流通管理システムによって、遺伝子組み換えのものと、非遺伝子組み換えのものが分けられて

います。しかし、これら輸出国の輸出港などは広大で、分別していても、「意図せざる混入」があります。

また、現実は不明なのですが、すでに畑の段階で、交雑していることも考えられます。結果として、

非遺伝子組み換えのものにも、数%、遺伝子組み換えが混ざってしまっているのが現状です。

そのことを、飼料の袋に、「非遺伝子組み換え(混入有)」、「不分別(ほぼ遺伝子組み換え)」、の

ように表示すれば、使用する生産者も、それを意識すると思います。反対運動は、まずは意識する

ことからがスタートだと思います。その点、EUの制度は大いに参考になります。





2012年9月19日

遺伝子組み換え食品を避けるためのチェックシート


その安全性が完全には担保されていない遺伝子組み換え食品。しかしながら現在の日本の食生活

の中には、様々な形で遺伝子組み換え食品が混入しています。その原因は、

1. 遺伝子組み換え食品に関する表示ルールの問題
2. 遺伝子組み換え作物の輸入における混入の問題

があります。1 についての最大の問題は、「痕跡がチェックできないものは表示対象外」というルール

です。日本には遺伝子組み換え食品に関する表示ルールはあるのですが、この規定により、非常に

重要な遺伝子組み換え作物を原料として品目群が表示対象外となってしまっています。それは、

「食用油」を使った製品です。多くの食用油の原料はナタネや大豆ですが、これらは最大の遺伝子

組み換え作物です。日本における「食用油」の大部分は、遺伝子組み換えナタネや大豆が使用され

ていると言われています。また、「食用油」は非常に多様な加工食品に使用されていますが、それら

の製品には「遺伝子組み換え」の表示はしてありません。


2 については、輸入時の遺伝子組み換え作物の混入を 5% までは許容するというルールです。

今、アメリカ、カナダ、ブラジルなどから輸入されるナタネ、大豆、トウモロコシの大部分は、遺伝子

組み換え作物です。そのため、「非遺伝子組み換え」として輸入したとしても、流通経路で少なからず

「遺伝子組み換え作物」が混入してしまうのです。実質的に数% (おそらく 3% ほど)は混入している

と想定されています。しかし、「5% の混入までは許容」というルールがあるため、そのほとんどが

「遺伝子組み換えでない」として扱われているのです。EUでは、「許容は 0.9% まで」となっている

ので、アメリカ、カナダ、ブラジルなどからのナタネ、大豆、トウモロコシは全て「遺伝子組み換え」

の表示規制がかかっています。ナタネ、大豆、トウモロコシを使用した食品は膨大にあります。

そのほとんどは、実質的には数% の遺伝子組み換え作物を含んでいるのです。表示されない

ままに。これらの点を考慮すると、日本の食は、その大部分に遺伝子組み換え作物が含まれて

しまっています。そこをはっきりと示すために、「遺伝子組み換え食品いらない ! キャンペーン」が、

チェックシートを作成しました。画像が不鮮明で申し訳ありませんが、一例だけを示したものを

掲載します。カップ麺ですが、赤字で示されたものが遺伝子組み換え作物が原料のものです。

これ以外にも、「えっ、こんな物にも遺伝子組み換え作物が!」というものがたくさんあります。

大地を守る会の食品安全に関するイベントなどで販売(または配布)し、活用していきます。

また、このチェックシートについてのお問い合わせは、e-mail : 大地を守る会CSR

のあて先で、件名に「遺伝子組み換え食品チェックシート」とお書きください。





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2012年9月18日

MOP6(インド・ハイデラバード)で何が議論されるのか


9月13日、「食と農から生物多様性を考える市民ネットワーク」のよびかけで、院内集会が開催されまし

た。今日の報告は、ちょっと専門的な話しを含みますが、遺伝子組み換え作物についての重要な話題

があります。興味のある方はぜひご一読を。また、先にこちらの過去記事をお読みになるとよいです。


COP/MOP会議とは

この基本的な基礎知識については、ぜひ過去記事をお読みください。簡単に説明すると、COPが

「生物多様性条約に関する会議」、MOPがその中の「遺伝子組み換え生物バイオセーフティー議定書

に関する会議」です。この議定書を、締結した都市の名前で、「カルタヘナ議定書」といいます。

MOPとはすなわち、ザクッと一言で言うと、「遺伝子組み換え作物が及ぼす脅威に対して

世界的枠組みをみんなで考えて決めていきましょう」という会議です。

その6回目がインドのハイデラバードで今年の10月に開催されます。この国際会議には、環境省、

農林水産省の方々が出席されます。その会議に先立って、市民側から参加する各省の職員の方に、

日本の市民としての考えを知っておいてもらい、会議の進め方の指針としてもらおうというのが、

今回の院内集会の目的です。


MOP会議のこれまで

「遺伝子組み換え生物バイオセーフティー議定書に関する会議」、MOPは、2000年から始まり、前回

の2010年、MOP5が名古屋で開催されました。名古屋では、「責任と修復」という議題が議論され、

採択されました。これは、「遺伝子組み換え生物による環境への影響が明確にされた場合には、その

責任は開発企業にある」ことをうたったものです。この、市民レベルで考えて至極当然の議案に関しも、

実は各国での批准が進んでおらず、発足にはほど遠い状況にあります。


カルタヘナ国内法 → 雑草だけを守るための法律?

遺伝子組み換え生物(作物)の移動に関する規制を、実効的に取り締まるのは日本国内で2004年に

制定された「カルタヘナ国内法」です。この国内法にもいろいろな問題点があります。

1. 「人への健康」への影響については、実質的に適用になっていない
2. 「食品の安全性」は対象外 → 農作物は適用外
3. 昆虫や鳥、動物への影響についての評価を実質的に適用になっていない

今、日本で我々が問題にしている重要な案件が、ほとんどすべて対象になっていないのです。

1.→ 遺伝子組み換え生物(作物)の人への影響については、個別法でしか取り扱わない
2.→ 今、日本中に拡大している遺伝子組み換えナタネは農作物であるので、取締り対象外
3.→ 遺伝子組み換えナタネを食べた自然動物については知らんぷり

結果として、この法律は、「雑草を守るための法律」になってしまっているのです。カルタヘナ議定書

は、「遺伝子組み換え生物が生物多様性におよぼす危険を取り除くための法律」なのに、結果として

の実効的な法律は、「人」も「動物」も「農作物」も守れない法律になっているということです。


遺伝子組み換え生物(作物)は各地で生物多様性を脅かしている

現在、自然界にはびこっている最大の遺伝子組み換え生物は、やはり、除草剤耐性、殺虫性などの

遺伝子組み換え大豆、トウモロコシ、ナタネ、綿などです。これらはモンサントなどの多国籍企業が

その種子を一極支配し、ブラジル、メキシコ、中国などの国に輸出しています。これらの国々では、

除草剤耐性雑草、耐性害虫が発生し、農薬使用量が増大しています。また、おおくの野生種の

トウモロコシなどが遺伝子組み換え作物と交雑してしまい、種として存続できなくなりつつあります。

これらの現状は、まさしく生物多様性をはなはだしく脅かしているといえます。

しかしながら、最大の原因国であるアメリカが、実は生物多様性条約、カルタヘナ議定書に加盟して

いません。


新たに不安な遺伝子組み換え関連技術が開発されている

こちらも技術的に専門的な話題になるのですが、カルタヘナ議定書ではその取締りの対象となって

いない新しい技術が開発され、実用化されようとしています。

・セルフクローニング
・ナチュラルオカランス
・人口制限酵素

これらの技術(言葉)の説明はここでは省略させていただきますが、市民側としては、これらの新技術

についても、取りこぼすことなくカルタヘナ議定書の対象として欲しいとおもっています。


問題点はつきないのですが、この日はこれらの案件について各省の担当職員と議論し、10月の会議

で議題としていただきたいという要望を提出しました。また、10月の会議には、「食と農から生物多様

性を考える市民ネットワーク」からも出向いて、会議の方向性を注視する予定になっています。

今回は法律の枠組みを含む複雑な話題でしたが、ぜひ市民の方々にも関心を持っていただくことが

最初の一歩だと思っています。





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2012年9月 3日

NEWS 大地を守る2012年9月号 報告 第75回 くらしから原発を考える講座 「原発はいらない! 被ばく労働の実態」

多くの人が犠牲になる原発を今すぐゼロに!
7月1日(日)、原発とめよう会主催による報道写真家・樋口健二さんの講演会が開かれました。
38年間にわたり、原発で働く労働者たちを取材してきた樋口さんのお話や数々の貴重な写真により、原発のおそろしさと重層的な問題点があらためて浮き彫りになりました。
(消費者会員・鈴木 孝子)

原発の中を撮った貴重な写真。                                             3.11後、福島原発の作業中に亡くなった
定期検査中の福井県敦賀原発で(1977年)。                          作業員の奥さんの写真を前に語る樋口さん。

原発がある限り被ばく労働者は増えていく
 去る5月5日は日本中のすべての原発が停止した記念すべき日でした。しかしその後、残念ながら大飯原3号機が再稼動してしまい、現在止まっている49基の原発も、廃炉になったわけではなく、定期検査をしているにすぎません。そしてこの定期検査には、少なくとも1日に1500人の労働者が必要とされています。また、原発で働く総労働者数はこれまでに200万人を超え、そのうち50 万人近い人たちが被ばくしていると言われています。樋口さんが取材した労働者の中にも、被ばくが原因と思われる病気に苦しみ、亡くなった方が大勢いたそうです。にもかかわらず、被ばく労災が認定されたのは過去35 年間でわずか11 件しかありません。累積被ばく線量が50ミリシーベルトに達していないと、たとえガンや白血病を発症しても被ばく労災とみなされにくいからです。
 「労働者たちにとっては、定期検査、廃炉のどちらにしても、被ばく労働はさけられない。原発がある限り被ばく労働者はどんどん増えていく。私の話は過去のことではない、今この瞬間にも引き続いているのです」と樋口さんは語ります。さらに、被ばく労働がはらむ数々の問題点を指摘し、放射線管理手帳の改ざん、粗末な医療体制、賃金の中間搾取、経済性優先のために定期検査の期間を短縮し労働者を使い捨てにするなど、労働者の安全と権利がまったく保障されていない現場の実態をお話しくださいました。

原発は差別の上に成り立っている
 「弱い底辺労働者を踏みにじって、とことん差別して、われわれは豊かな社会をつくってきた。今日この瞬間にも、放射性物質をぞうきんで拭いている人たちがいるという事実を忘れてはいけない」という樋口さんのメッセージは、電気のある便利な暮らしを享受している私たちに、暮らし方、生き方の見直しを迫ります。また、「"ボロぞうきんのように使われている"という被ばく労働者たちにもそれぞれ人格、人生、家族があり、その人たちの上に電気のある暮らしが成り立っていると思うと切ないです」という、参加者の感想も胸に響きます。
 今回、樋口さんのお話を聞き、原発はエネルギーの問題だけではなく、人権と差別の問題でもあることがよく理解できました。「普通の暮らし」をするために、多くの人の命と健康が犠牲になるようなことがあってはなりません。その意味でも、これ以上日本に原発を1基も増やしてはならないし、既存のすべての原発を、1日も早く廃炉にしなくてはいけないという思いを新たにしました。



NEWS 大地を守る2012年9月号 環境百科 エコペディア

環境ジャーナリスト・天笠啓祐が身近な環境問題を読み解く

食品表示が変わる!?
 食品表示が大きく変わろうとしています。検討を加えているのは消費者庁で、昨年9月から「食品表示一元化検討会」を開催、この8月3日に終了、来年3月には法案が提出されます。食品表示はこれまで、複数の省庁、法律にまたがっていたことから、消費者庁に一元化します。具体的には食品衛生法、JAS法、健康増進法の3つの法律の中の食品表示に関する部分を集め、新しい法律を作るのです。すでに一般からの意見が募集され、意見交換会が開催され、市民の意見がまとまりました。

 要望として多く寄せられた項目は、
①法律の目的に「消費者の権利」「食文化を守る」という言葉を入れてほしい、
②「加工食品の原料原産地表示」を行ってほしい、
③「遺伝子組み換え食品」のきちんとした表示を行ってほしい、
④「栄養表示を原則義務化」を行ってほしい、というものでした。

 しかし検討会は、この消費者が求めるものに、背を向けて議論をすすめてきました。というのは、この検討会で大きな位置を占めているのが、大手企業が力を持つ業界団体だからです。業界団体が狙っているのが表示の簡略化であることも、明らかになりました。「分かりやすい表示」という言葉で、文字を大きくし簡略化することを求めています。一見、消費者に配慮した良い提案のように思えますが、簡略化すれば中身が分からなくなります。食品表示には、大手食品メーカーには都合が悪いものが多いからです。分かりやすい表示とは、消費者がその中身を正確に知り、選択できるものでなければいけないはずです。消費者の意向を無視する業界団体と、その業界団体の方ばかりを向いている消費者庁という現実があります。

天笠 啓祐(あまがさ けいすけ)
ジャーナリスト。遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン、市民バイオテクノロジー情報室代表。
著書に『遺伝子組み換え作物はいらない!ー広がるGMOフリーゾーン』『世界食料戦争』ほか多数。


NEWS 大地を守る2012年9月号 放射能に克つ!

東京電力福島第一原発の事故から1年半が経ちましたが、生産者と消費者の方々の不安はまだまだ続いています。
食品の安全性と持続的な農業を実現していくために、放射能汚染をどう乗り越えていけばよいのか......。
まさにこれからが正念場だと大地を守る会は考えています。

(NEWS大地を守る編集部)

流通レベルの検出は低減
   今後のカギは産地での対策


 大地を守る会は昨年の原発事故後、食品中の放射性物質に対する自社測定を強化してきました。測定している検体数は業界トップクラス。外部機関にもサンプリング測定を依頼して、検査の客観性が保てるように努めています。
 その結果は、どうだったのでしょうか? 昨年はまだ放射能が微量ながら検出される食品もありましたが、今年に入ってからは、ほとんどの食品において不検出という結果が続いています。
 流通段階での放射能汚染を別の角度から確かめるため、大地を守る会は、「放射能測定おうちごはん」の取り組みも始めました(コラム参照)。
 「消費者の間では放射能に対する不安がまだ根強いので、入荷した食材を測定して『ご安心ください』というだけでは不十分だと考えました。高精度の測定機器を消費者のためにもっと活用しようと始めたのが『放射能測定おうちごはん』です」(大地を守る会放射能対策特命担当・戎谷徹也)
 7月21日段階で21家庭のサンプルを測定しましたが、こちらの調査でも、いずれのご家庭のサンプルにおいてもすべて不検出という結果が出ています。
 ただ、流通している食品の測定結果がほとんど不検出だからといって、それだけで安心できるわけではありません。水産物や果樹をはじめ、放射性セシウムがどのように移行していくのか、今後も注視しなければいけないからです。
 「これからは流通レベルだけではなく、その上流に当たる生産地の対策をさらに強化していきます。そのために測定機器を生かしていくことも重要だと考えています」(戎谷)
 流通レベルにとどまらず、生産地での根本的な対策も拡充すること。それが、安全な食品と持続可能な農業への大きなカギとなります。
 2~3ページでは、消費者とともに放射能について学ぶ「放射能連続講座」、農家と協力して進める産地での活動など、大地を守る会の取り組みについてさらにご紹介します。

株式会社 大地を守る会
放射能対策特命担当
戎谷徹也

1日分の食事を丸ごと検査
 放射能測定おうちごはん


 実際に口にする食事にはどの程度の放射性物質が含まれているのか? それを確かめるための取り組みが「放射能測定おうちごはん」です。※現在は受付していません(8月24日現在)。
 インターネットでモニターを募集。ある日の3 食分のサンプルを送っていただき、それを丸ごとミキサーにかけて測定する「陰膳方式」で測定しています。モニターの方々の食事の中には、大地を守る会以外の食材も含まれています。測定機器はゲルマニウム半導体検出器。検出限界値はセシウム134などの核種ごとにキロ当たり約1 ベクレルと、高い精度で測定しています。7月21日段階で21 家庭のサンプルを測定しましたが、調査結果はいずれも不検出でした。

モニター会員の感想

 「外食や学校の給食など、どこで口に入るかもわからず、安心できないと思っていました。今回のことで、少し気持ちが楽になりました」(都内40代女性)





実際に食卓に並んだ
食材を少しずつ取り
分けてもらったものを
サンプルとして測定。




農業の未来と食の安全を守るために

大地を守る会では、高精度の測定機器の導入や放射性物質の独自基準の設定など、
さまざまな対策をとってきました。しかし、測定や基準値だけで
消費者や生産者の皆さんが納得する安全対策がとれるわけではありません。
放射能への理解をともに深め、生産者と一体になった取り組みを通して対策を進めていきます。


さまざまな専門家を招いて理解を深める試み
 放射能の不安と向き合うために必要なことは何なのでしょうか。消費者にとっては、より広く、より正確に放射能の知識を深めることが役に立つはずです。そこで大地を守る会は、6月から、専門家を講師に招いた「放射能連続講座」を開催しています。
 第1回では、NPO 法人市民科学研究室代表の上田昌文さんをお招きし、放射能汚染の状況と今後の影響について、データをもとにお話をしていただきました。また、第2回では、元放射線医学総合研究所内部被ばく評価室長の白石久二雄さんをお招きし、内部被ばくを防ぐための食事のあり方についてお話しいただくなど、放射能問題について、各分野の専門家と直接交流できる連続講座となっています。
 この連続講座では、放射能問題の根深さを思い知らされる場面もありました。第1回目の講座の冒頭と最後に、会場に向けて次のような質問をしたときのことです。
 「検査して、ND(検出限界値以下)が確かめられたものであれば、福島県産の野菜を購入しますか?」
 冒頭での回答は、イエスとノーがほぼ半分ずつ。そして、講演の最後での回答もイエスがほんのわずかに増えるにとどまりました。
 インターネット中継で参加した視聴者からは、ツイッターで「購入できないという消費者を敵視しないでください」という意見も寄せられました。
 「消費者と生産者のつながりを取り戻したいと考えていますが、その壁は思ったよりも高いなと感じました」(戎谷)
 連続講座の企画者にとっては重い課題が残りましたが、率直な意見交換のなかから、より深い理解が生まれることが期待されています。

子どもたちの世代まで有機農業を引き継ぎたい
 大地を守る会は、苦労の多い有機農業に取り組んできた貴重な生産者を、放射能汚染を理由に切り捨ててはならないと考えています。環境や食の安全をきちんと考えて取り組む農家を、将来の子どもたちの世代まで残していくことも大切だからです。
 「この先、放射能に限らず、どんな化学物質によるリスクが発生するかもわかりません。ですから、将来の世代のためにも、農地を守ってくれる農家を育てていくことは、とても大事なことだと思うのです」(戎谷)
 地球規模でみると食料・水不足が進んでいます。食料安全保障を考えたとき、生産技術のレベルの高い日本の有機農家を支えていくことは、重要になってくるのではないでしょうか。
 連続講座のなかでは、「放射能で汚染された地域の農家は、生産するより国や東京電力に補償を求めるべきではないか」という意見もありました。
 たしかに補償金をもらえれば、農家も一時的にしのげるかもしれません。しかし、たとえ1~2年でも農地を放っておけば、農地は一気に荒れてしまいます。
 いったん荒れた農地を元に戻すのはとても難しくなってしまうのです。
 「日本はいま、耕作放棄地が広がって、食料自給率を高めるのにも苦しんでいます。そうしたことを考えると、補償金で済ませるのではなく、大切な農地や生産者を将来に引き継いでいくことが大切ではないかと思うのです」(戎谷)
 一部の流通業者のなかには、放射能が検出された農作物があった場合、その地域全体の取引をやめると発表しているところもあります。
 しかし、大地を守る会では、これまでつながりを深めてきた農家たちを、そんな形で切り捨てることは考えていません。
 それよりも、放射能が検出されないよう、また、検出値が1ベクレルでも低くなるよう、産地において対策を進めることこそ大切だからです。
 そのために進めてきたのが、生産地への測定器の貸し出しです。例えば、福島県須賀川市・ジェイラップでは稲田稲作研究会生産者のすべての田んぼの土壌を測り、玄米への移行を調べ、今年は反転耕を実施するなど、継続的な対策に活かしています。
また岩手県釜石市・NPO法人東北復興支援機構では、釜石市のバックアップも受けながら三陸の水産物の測定を継続的に行っています。漁業の再興が放射能によって妨げられないためには、生産基地でしっかりとチェック体制を築くことが必要です。
こういった応援ができるのも大地を守る会ならでは、だと思っています。

生協など4団体と協力して社会的モデルをめざす

大地を守る会では、国の新基準値に先立って、独自の流通基準値を2月20日から運用開始しました。国の基準値に比べて、乳幼児食品は8分の1、米は10 分の1など大幅に低い値を設定しています。また、基準値や分類は、継続して見直す方針です。
 「この基準値は農家にとって、放射能と闘うための出発点であり、闘うための励みとなるものにしたいと思っています。その基準値をクリアしていくためには、やはり当事者である農家を支援していく必要があります」(戎谷)
 大地を守る会は、同じく独自基準を設定して内部被ばくを抑える取り組みをしている4団体とともに、昨年9月、「食品と放射能問題検討共同テーブル」を発足させました。これまで「共同テーブル」は、厚生労働省に対して、よりきめ細かい基準値の検討や検査体制の拡充を要望するなどの活動をしてきました。今後は、各団体の放射能の測定結果を共有して、対策に生かすことができるよう協議していく方針です。
 「それぞれの測定結果を共有すれば、全体の傾向もより正確につかめます。私たちのネットワークの信頼性を高めて、社会的なモデルになれるようにしたいと考えています」(戎谷)
 日本の食の安全を守っていくためには、消費者と生産者、そして流通業者が一体となって、失われかけたつながりを取り戻すことが不可欠です。大地を守る会は、これからも生産者と消費者とを直接つなぐ場をつくりながら、この放射能の問題に正面から向き合っていきます。
10月6日(土)は連続講座第6回「低線量内部被ばくを考える」を実施します。また冬頃に連続講座の第2クールの開催も検討しています。興味のある方はぜひご参加ください。

放射性物質に対する大地を守る会の主な取り組み
自社測定
ゲルマニウム半導体検出器、NaIガンマ線スペクトロメータ(昨年6 月購入)など高精度機器を導入して、業界トップクラスの検体数の自社測定を行っています。

食品と放射能問題検討
共同テーブル株式会社カタログハウス、パルシステム生活協同組合連合会、生活クラブ事業連合生活協同組合連合会、グリーンコープ連合とともに、昨年9月に設立。

放射能測定おうちごはん
モニターの1日分の食事を全部ミキサーにかけて測定する「陰膳方式」で調査し、その結果を、大地を守る会のホームページで公表しています。

産地への測定機器の貸与
2台のNaIガンマ線スペクトロメータを、ジェイラップ(福島県須賀川市)とNPO法人東北復興支援機構(岩手県釜石市)に貸し出しています。

自主基準の設定
2 月20日から運用開始。国の新基準値に比べて、牛乳は1/5、乳幼児食品は1/8、米は1/10と大幅に低い値を設定。
基準値や分類は、これからも継続して見直す方針です。

放射能連続講座
放射能汚染の実態を見すえ、どう立ち向かっていくかを考えるため開催。インターネットのユーストリームでも中継を見ることができます。

放射能連続講座をインターネット動画で見ることができます
 これまで開催してきた放射能連続講座の様子を大地を守る会のホームページ上で動画公開しています。専門家のわかりやすい説明や、ワークショップを通じた消費者同士の交流など、講演の具体的な内容や会場の雰囲気をご覧いただくことができます。
詳細はこちら
/cp/renzokukouza/



NEWS 大地を守る2012年9月号 やまけんの大地を守るうまいもん探訪

稲田コシヒカリ

鼻腔に抜ける甘やかな香りにびっく
 大地を守る会がWeb上で展開している「ちゃんと(T)たべもの(T)プロジェクト(P)」略して「TTP」をご存じだろうか。まことにけしからん「TPP」と真面目に対決するこの企画で僕は、福島県須賀川市の稲田稲作研究会を訪ねた。福島第一原発から70km地点で彼らは稲作を続けている。被災直後から、放射性物質を作物に吸収させない技術を追求し、収穫前・収穫後・そして精米してからの各段階すべてを高精度の測定器で計測してきた。その結果、世界で最も厳しいといわれるウクライナ基準である20Bq/kgを超すコメは一切出ていない! ちなみに、日本の基準は100Bq以下だけれども、稲田のボスである伊藤俊彦はきっぱりと言ったのだ。「俺たち福島で生きていこうという人間は、ただでさえ線量の高い中にいるんだから、食べ物に関しては安全性を追求しなきゃいけない。だから世界一厳しいといわれるウクライナ基準をベースとしようと思う。やっぱりチェルノブイリの事故を真っ正面から受けた国の知見は深いんだよ」
 僕はこの眼でしかと、籾付きの米の検査作業を観た。
その数値を観て、僕の中に少しくすぶっていた「大丈夫かな」という疑念は消えた。「新米、食べてくでしょ?」と炊きあげてくれたコシヒカリの艶やかなこと! 一口頬張ってビックリ、口に入れた瞬間に鼻腔に抜ける甘やかな香り、蠱惑的に歯にまとわりつく粘り、そしてすっきりとしていながら強く印象に残る旨み。「今年の福島の米を食べないのはもったいないことだよ」と誇らしげに言った伊藤さんの顔を今年も、来年も、ずっとずっと見てみたい。


山本 謙治(やまもと けんじ)
1971年、愛媛県に生まれ、埼玉県で育つ。農産品・食品などのコンサルタント会社(株)グッドテーブルズ・代表取締役社長。
『日本の食力? 国産農産物がおいしい理由』ほか。ブログ「やまけんの出張食い倒れ日記(www.yamaken.org)」が人気。



2012年9月 2日

NEWS 大地を守る2012年9月号 今月の数字

24,477ha  33.8% → 東日本大震災での被災農地面積と復旧率

 今年4月20日に農水省が発表したデータ。昨年の大震災で被災した農地面積は12 県で約2 万4,500ha。そのうち一年後の3月11日時点で復旧できた農地は約8,300ha、33.8%という状況です。津波によって堤防や排水機場などが破壊された地域では農業基盤そのものの復旧が必要で、被害の甚大さを示しています。農水省が立てた「農業・農村の復興マスタープラン」によれば、3 年間で19,000ha(約78%)での営農再開が謳われていますが、それまで農家が持つかどうかも心配されます。農林業センサスによると05 年から10 年の5年間に販売農家は17%(約33万戸)も減少しています。2030年までに64%減少するというデータもあります。一刻も早い復旧・復興が求められます。
 またマスタープランでは、復旧の見通しが示せない「その他」の農地が1 割存在します。そのほとんどが原発事故による警戒区域や避難指示区域です。「その他」という扱いもひどいものですが、浪江・双葉・大熊・富岡・楢葉の各町の復旧面積「-」という冷たい表示が、原発事故の冷酷さを訴えているかのようです。
(米プロジェクト21・戎谷 徹也)

参考資料:農林水産省ホームページ
http://www.maff.go.jp/j/press/tokei/seiryu/pdf/120420-01.pdf

大地を守る会の震災復興支援

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