2013年6月 3日

NEWS 大地を守る2013年6月号 『世界が食べられなくなる日』公開記念スペシャル対談

大地を守る会                                    
代表取締役社長                                
藤田和芳

映画監督
ジャン=ポール・ジョー
2004年、自らが結腸がんを患ったことを機会に、『未来の食卓』を製作。2010年の『セヴァンの地球のなおし方』では、すでに遺伝子組み換え食品と原発の危険性を示唆していた。その際の来日で、東日本大震災後の日本を取材し、今作を完成させる。


新作ドキュメンタリー『世界が食べられなくなる日』の公開を迎え、ジャン=ポール・ジョー監督が来日。

大地を守る会の藤田社長と、本紙2011年8月号以来となる、対談を行いました。

(聞き手...NEWS大地を守る編集部)

人類の歴史における2つのスキャンダル

―― お二人が対談されるのは2年ぶりですね。

藤田 前回は福島の原発事故の数カ月後でした。監督が、祝島(山口県上関原発反対の運動が長年行われている瀬戸内の島)で使われている「原発絶対反対」のはちまきを巻いて現れて驚きました。原発がこんな状況になって日本人はなぜ怒らないのか、と叱られたのを覚えています。大地を守る会の多くの会員は、監督の作品を観て、いろんなことに気付かされたことと思います。

―― 今回の映画についても教えてください。あのような映画を撮った、モチベーションはどこからきたのでしょうか。

ジョー 私は、このような状態の地球を残すことが、とても恥ずかしい。未来の世代に毒の入ったプレゼントを贈らなければならないことをすごく恥だと思っているんです。なぜ、毒が入ってしまったかというと、遺伝子組み換え(GM)作物と原子力のせいです。人類の歴史における2大スキャンダルがあるとしたら、この2つではないでしょうか。

 前作の撮影をしているころに、その作品にも参加してくれていたセラリーニ教授から、打ち明けたい秘密がある、と言われました。「5カ月前からGM作物に関する実験をしている。われわれが目にしていることは、誰も想像ができなかったことだ。だから今この問題に関する映画をつくるべきだ。それを君の手でやってもらいたい」と。 そして、この映画の撮影中に、福島の事故がありました。この映画では、原子力とGM作物のテクノロジーを結びつけて扱っています。この2つは密接につながっているのです。つまり、反民主的に、人間に押しつけられたもの、しかも人間には制御不可能なテクノロジーで、取り返しがつかないという性質を持ち、同じような病気を引き起こします。しかも、それらがもたらす汚染は一日や二日で消えません。何世紀にもわたって残り続けます。だからこそ、この映画をつくったのです。

藤田 映画を観て真っ先に思ったのは、世界中の政治的なリーダー、あるいは世界中の研究機関に、セラリーニ教授が行ったのと同じような実験をしてほしいということです。いかにGM作物が人間に害を与えるのかということを、あのラットの映像と同じように、世界中の人に向けて明らかにしてもらいたい。あの実験の前までは、モンサントのたった3カ月の実験の結果で、人間の体には害がないという根拠となり、GM作物が流通することになりました。セラリーニ教授は、そうではないということを明らかにしてくれた。監督はわかりやすいように、それを映像に撮って世界中の人に広めようとしている。とても重要だと思います。

ジョー 皆さんにも受け入れてもらえるとうれしいです。

藤田 映画は大きな役割を果たすと思います。第一に、本来なら人類がみんなで使うべき種を、モンサントという一つの企業が独占しているという大きな問題を皆さんに知ってもらうこと。第二に、GM作物の特徴ですが、ある特定の除草剤、ラウンドアップをいくらでも使ってしまうということ。

 私たちが勉強してきたこの2つの問題は、日本の消費者にはわかりにくい面もありました。しかし、GMトウモロコシやGM大豆が、私たちの体にどんな悪さをするのか、具体的なことを知らせるのが一番わかりやすいし、とても大事なことです。今回の映画はそういうインパクトがあります。

ジョー ありがとうございます。

彼らの商品を買わないという一票を投じること

藤田 モンサントや原子力など、巨大な企業、産業に対するレジスタンスをしていると、圧力や弾圧はありませんか。

ジョー ありますよ。たとえば経済的な嫌がらせ。彼らはお金を持っていて、それを武器としています。でも彼らがどうやってそのお金を手に入れたかというと、私たちが払っているのです。私たちが消費することで、彼らにお金を渡しているのです。私たちは、彼らにお金を与えるのをいつやめられるのでしょうか。

 フランスの大手テレビ局でジャーナリストが私にインタビューをしたのですが、検閲されました。私の映画は一度も、その国営テレビで放映されません。なぜなら、テレビ局の一番の広告主は、世界を汚染している企業で、私はその企業を糾弾しているわけですから......。

国家に属する警察の人たちが、映画館の館主に対して脅迫じみたことを言って、私の映画が上映されないということもありました。日本でも、前回の来日のとき、ラジオ局が私にインタビューをしたのですが、カットされてしまいました。おそらく私がしていたはちまき(原発絶対反対)のせいでしょう。はちまきしている姿を電波で流せるなんて、日本のラジオはすごいですね(笑)。



「彼らの商品を買うということは

未来の世代を担保に入れているようなもの。」





―― そのような巨大な企業に対して、私たち一人ひとりは何をすればよいのでしょうか? どうしたらより良い未来がつくれるのでしょうか。

ジョー さっきも言いましたけれども、彼らは私たちのお金を搾取して自分たちの武器にしています。だから、彼らのために消費してはいけない。つまり、スーパーに行って、カートを押したら、「買わない」という一票を投じることが大事です。彼らの商品を買うことは、未来の世代を担保に入れているようなもの。そういうことはストップしましょう。

藤田 そのためには事実を知らないといけません。日本人はここ数十年の間に、肉を食べる食生活に変わりましたが、その穀物飼料の97%以上は海外から輸入したものです。そのうちのほとんどはアメリカからのGMトウモロコシです。でも、安全でおいしい国産の肉を食べていると日本人は錯覚しています。

 私たちもいろいろと取り組んでいますが、GM作物にただ反対するだけでは力がわいてこないので、別の「これを食べるといいよ」と消費者に伝える必要もあると思っています。大地を守る会では、日本の伝統的な種を、生産者の人たちに栽培してもらい、それを消費者の人たちに食べてもらっています。もちろん反対は必要ですが、こうした取り組みも必要だと思っています。



「GM作物が、私たちの体にどんな悪さをするのか、

具体的でわかりやすく描かれている。」





ジョー それはいいことですね。でも、今起こっているこの状況をストップすることも忘れないでほしいと思います。たとえば、排気ガスを出す車に乗らないとか、有機の綿でない服を買わない、というように。私たちは責任をもって「ノン」と言うことも必要です。

 では、この世で一番安価で、クリーンなエネルギーは何だと思いますか?

藤田 太陽ではないですか。

ジョー 違います。答えは、消費しない、ということです!(一同笑いがおこる)でも、これは大事です。ちょっと例をあげましょう。2年前、環境に関するフランスでのシンポジウムに招待され、セヴァンさん(※)と一緒に出席しました。太陽が燦々と輝いていた午後......、討論会場は、天井からどこからすべてのライトがついていました! このライト、本当に必要ですか、と私は言いました。私たちは、ライトを全部つける必要はないということを意識しなければなりません。ときどきは全部つけても良いと思いますが、たまにはつけないことや、ちょっとしかつけないことが蓄積されていくんです。

藤田 大地を守る会ではキャンドルナイトというイベントを10年前から行っています。夏至と冬至の日に、2時間電気を消して、電気ではなく、ロウソクの灯で過ごそうというものです。1000万人もの人が参加しています。この2時間は電気を消費しません。

ジョー セビアン。ブラボー。とても重要ですね。 たしか原子力は日本では30%くらいの供給量だった思います。自宅に照明が3つあるとして、一つをつけないだけで、原子力の30%分です。みんながそれをやれば、解決できますね。いくつかついていればちゃんと歩けるでしょう。


モントリオール映画祭ではすごく好評でした!

藤田 私は、映画の冒頭の台詞を書き留めました。「アメリカにとって、GM作物は第三世界から経済的な自立を奪うための兵器です」と。とても印象に残りました。

ジョー ニクソン大統領時代のキッシンジャー長官は言いました。世界を制覇するには、食糧を制覇するのが手っ取り早いと。だからアメリカで、GM作物が推進されたわけです。種子を私有化するなんていうのは、生物、個人を私有化するのと同じです。

藤田 監督の映画は、アメリカの国内では上映されないのですか?

ジョー されていません。

藤田 モンサントのような企業のある国の国民にこそ観てほしい映画です。

ジョー モントリオール映画祭では上映されました。主催者はカナダで配給したかったようですが、できませんでした。阻止されてしまったのです。でも、映画祭では、すごく好評でした。

藤田 アメリカやカナダで上映されない分、私たちが日本で頑張りましょう!

 日本は広島と長崎、そして福島も経験して、世界中で誰よりも原発の問題に反対して、明らかにすべきだと私は思っています。

 それと、監督が言っているように、原発の問題と遺伝子組み換えの問題は、テクノロジーとしては根っこが同じです。監督の映画をぜひたくさんの人に観てもらいたいと思っています。モントリオール映画祭ではすごく好評でした!

※セヴァンさん......12歳のときに環境サミットで伝説のスピーチを行った、セヴァン・カリス=スズキさん。20年後、ジョー監督の『セヴァンの地球のなおし方』に主演。現在も地球のために活動中。


『世界が食べられなくなる日』

6/8(土)より、渋谷アップリンクほか全国順次公開。

詳しくは、公式ホームページをご覧ください。

http://www.uplink.co.jp/sekatabe/

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