2011年6月22日アーカイブ

2011年6月22日

特効薬はない、でも始めるのだ。

 

2022年まで生きてみたい。

そう書いたはいいけど、ドイツと違って僕らにとってこの10年余は、

けっして楽しい道のりではない。

明るい未来を信じたいと願いながら、目に見えない不安とたたかう。

この時間を、希望を失うことなく、かつ

ある種の覚悟を持って歩み続けなければならない。

 

前回、二つの会議から- 

と書き出したところで寝ちゃったのだけど、もうひとつ。 

先週の金曜日(17日) に、つくばにある国立環境研究所を訪問して、

セシウムを濃縮(吸収) する微生物の実証実験をやった実績をお持ちの

富岡典子さんからもレクチャーとアドバイスを頂戴してきたので、

そこでうかがった話も含めて、いくつか参考情報として整理してみたい。

 


まず、当初問題になっていたヨウ素131は、短期間で減衰していくので、

新たな放出がない限り、大きな問題にはならない、と考えてよい。

これからの問題はセシウム134 と 137 である。

プルトニウムは水に溶けない(=植物は吸わない) し、問題にする量ではない。

ストロンチウムも量的に問題ないとのこと。

 

土壌に降ったセシウムは、数十年以上、地表に留まっている。

それはアメリカや中国が核実験をやった影響を調べた過去のデータからも読み取れる。

(この半世紀で蓄積されてきたものがある・・・ってこと。)

 

いま表層 5cm くらいまでに留まっていると言われたりするが、

深度分布を調べたところ、実は表層 0~2cm にほぼ集中している。

特に表層 5mm に。 したがって 1cm 剥ぐだけでも充分に有効である。

処分する土の容積も格段に減らせることができる。

また一般的な測定では 0~15cm の表土をとって測るケースが多いようだが、

測定方法は統一させないと情報により混乱が生ずる (これは大気測定でも言える) 。

 

残留は土の性質によって異なることも頭に入れておかなければならない。

粘土はつかむが、砂地では流れやすい。

雨で除去されるということは、時間経過とともにあるだろうが、

土への吸着性が強いので、粘土質だと地下水への移行はかなり低い。

アスファルトの道路や家屋の屋根等に降ったものは、雨によって側溝に集り、

結果として下水処理場で高い濃度が出ることになる。

逆にみれば、浄水場で捕捉されやすいので、上水は心配ないと言える。

(これも新たな放出がなければ、の前提で。)

その意味で、下水汚泥は放射能を集めてきているとも言えるものなので、

焼却処分してしまうと、せっかく集めたアブナイものをまた拡散させてしまうことになる。

これは、はぎ取った土同様、埋めるしかないのではないか。

 

埋める場合は、30cm より地下に埋め、土をかぶせること。

校庭の土をはぎ取って、隅に積んでブルーシートをかけるなど、論外である。

 

また森林では、腐植層に捕捉されて留まるので、水への移行は少ないが、

長く林産物に影響する可能性がある。

きのこで高く出るのは、菌根菌のセシウム吸収能が高いことと、

菌糸を張り巡らせて表面積が増えることによって、

結果的により高い濃度となると考えられる。

重量に対して表面積が大きい葉菜類が高く出るのも、同じ原理であろう。

 

これまで農作物で検出されている放射性核種は

直接経路 (大気中から直接葉面に付着) によるものなので、

皮をむく、よく洗う、等である程度の減少は期待できる。

しかし今後はだんだんと経根吸収 (土壌から根による吸収) が問題となってくる。

経根吸収された農作物は、当然のことながら除染は難しくなる。

 

稲では、土壌が5,000ベクレル以下の田んぼでは作付が許容されたが、

それは、土壌から米への移行は最大でも10分の1 (500ベクレル=食用の基準値)

以下になるという計算による。 

過去のデータによれば、実際はもっと低く、100分の1~1000分の1 程度。

かなりの安全係数をかけているとは言える。

なお米では、放射性核種は胚芽と白米表面に多く残るため、

玄米のほうが濃度が高くなる。 白米では玄米の約半分になる。

 

汚染 (吸収) されにくい作物というのは、あるようだ。

ナス科 (トマト、ナス、ピーマンなど) は最も少ないと言われる。

続いて、ウリ科 (きゅうり・カボチャ・スイカ・メロンなど) 、ユリ科 (ネギ類)。

逆に吸収しやすいのは、アブラナ科、アカザ科、豆類。

じゃが芋はナス科だが、食する部位は茎なので、実よりは高くなる。

河田昌東さんおススメは、トマト、だって。

また、酢漬けにすると、セシウムは6~7割減るんだとか。

抗酸化作用物質 (ビタミンA、C、E、β-カロチン、カテキン、ペクチンなど)

もイイらしい。 この辺はもっと根拠を聞きたかったところだ。

「 まあ、少しでも避けたいという人は、産地を選ぶしかない。

 子どもや若い女性には、産地を選ぶ権利がある。

 しかし・・・・50歳以上は、ここは責任をもって、しっかり食べましょう。」

それが河田さんの答えである。

 

セシウムを吸着する効果の高い鉱物としては、

ゼオライト、ベントナイト、バーミキュライトがあるが、これに活性炭を併用すると、

逆に植物の吸収を促進させるというデータがある。

原因は分からない。

また窒素肥料も、粘土や鉱物が掴んだ放射性物質を剥離させ、

吸収を促進させるので要注意、とのこと。

 

チェルノブイリでは、牛乳対策として、

牛の餌にプルシアンブルー (シアン化鉄) を混ぜ、

効果があったことが確かめられている。

シアン化鉄とは人工の色素で、セシウムをくっつける力があり、

かつ水に溶けないので分離させることができるようだ。

 

ナタネやヒマワリによる除染 (ファイトレメディエーション) は、

メカニズムは同じだが、ヒマワリはバイオマスのかさが大きく、

またリグニン (木質) が多いので、残さの扱いが厄介になる。

チェルノブイリでのナタネ実験では、

種はバイオ燃料 (油) にし、残さはメタン発酵させてバイオガスに利用している。

セシウムは種に集まるが、油には入らず、

最終的に移行した廃水にゼオライトを施用する、という行程のようだ。

 

なお、国立環境研究所の富永先生が立証した微生物-ロドコッカス・エリスロポリスは、

能力を発揮するにはその条件を整えてやる必要があり、

実用化には至っていない、とのこと。 自然界にも存在しているものだが、

それを抽出して開放系で比較試験するのは無理なようだ。

 

いずれにしても植物や微生物がセシウムを吸収してしまうのは、

必須の栄養素であるカリウムとイオンのサイズが類似していることによる。

したがって、食用である植物にセシウムを貯めさせないことを優先するなら、

カリウムを多めに土壌に施用し、セシウムまで取りにいかせない、

という手もあるが、カリウム過剰となると、生育上の別な問題も発生させる。

 

結局、いろんな手があるにはあるが、

これでよし、と言えるカンペキな除染技術はないということだ。

各種の効果や技術を組み合わせ、自然の力を借りながら、

時間をかけて浄化させて行くしかない。

何という恐ろしいものと共存(?) しなければならなくなってしまったことか。

 

それでも、そのスピード (=効果) を高めるために人智を尽くしたい、

と思うのである。

福島・須賀川のジェイラップ (稲田稲作研究会) の伊藤俊彦さんに、

国立環境研究所に出向くことを伝えたら、つくばまで飛んできた。

環境や安全に配慮した米づくりをひたすら追求してきた者として、

「一日も早く、どこよりもきれいな田んぼを取り戻してみせる!」

 - それが彼の、必死の決意なのである。 

   僕はその意思に付き合う約束をしてしまった。

 

ジェイラップでは、試験ほ場をこしらえて、

いろんなパターンでの除染方法での実験が進み始めている。

ありがたいことに、河田昌東さんもバックアップしてくれることになった。

ひとつのプロジェクトの絵が、描かれつつある。

特効薬はなくても、始めることで、前に進むことで、気持ちが変わってくる。

「美しい福島」 を、みんなの手で取り戻す10年に、したいと思う。

 



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